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キミは可愛い私の天使 【初恋シリーズ《思い付き置き場》】  作者: 神山 りお


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2 マックは困惑する 〈マックのその後〉


幼馴染みのその後。

時系列的には、フィーナがルーフィスと指越しのキスをしていた後、しばらくして……かな?





 俺、マック=ハーネットは少々困惑している。




 元婚約者のフィーナには、会う機会が少なく疎遠になってしまった。

 それは、自分のせいだし、遅かれ早かれお互いに誰かと結婚すれば、そうなっていただろうし仕方がない事。

 だが、マックは胸につっかえる程の罪悪感があった。

 今更謝罪するのは身勝手とは思いつつ、親を通してフィーナに謝罪した。そのおかげで、彼女と和解出来たのは良かったと心から思う。

 



 しかし、あの後ーー。




 結果的に、婚約解消の原因になったリリーの事で迷惑を掛けてしまった。

 フィーナがあのハウルサイド侯爵との噂が上がり始めた頃、周りの令嬢達がフィーナを揶揄する様になっていた。

 いくら疎遠になったとはいえ、イチ幼馴染みか友人として噂を払拭しようとしたのだが、それがどうやらマズったらしい。

 リリーの逆鱗に触れたのか、タダの嫉妬なのかは分からないが、事あるごとにフィーナを悪く言う様になってしまった。

 フィーナへの恋愛感情はもうないにしても、口を開けば元婚約者の悪口を言うリリーに、マックは気持ちがすっかり冷めてしまったのだ。




 そして、彼女とは別れたがーー。




 その原因がフィーナにあると、リリーは一方的で捻じ曲がった結論を出してしまった。

 違うと口で言ったところで納得などしてくれず、フィーナの悪口を噂話として吹聴する始末だった。

 苦言を言ったところで火に油を注ぐ事は明らかだ。だから、リリーの怒りの矛先を自分に向けようと、何度となく謝罪や贈り物をしたのだが、返事はなかった。

 もはや、何を言ってもしても、マックの気持ちは伝わらなかった。

 


 だからといって、何もしないのも無責任だとマックは思う。

 それ故に彼女がフィーナに良からぬ事をしない様、マック自身も目を光らせていたし、ハウルサイド侯爵にはそれとなく伝えておいた。

 もう自分は部外者だし、余計なお世話なのは重々承知している。どの面を下げて言うのだと、自分でも思う。しかし、万が一にでも何かあってはと頭を下げたのだ。

 自分は助ける立場にはいないし、安易な行動は出来ないからと。

 元婚約者の自分と良からぬ噂が広がれば、今あるハウルサイド侯爵との縁に傷を付ける事になるからだ。

 フィーナの事は、彼に任せる他なかったのだ。




 まぁ、結局は取り越し苦労だった訳だが。




 しばらくして、フィーナがハウルサイド侯爵と結婚した時には、マックはホッとしたし心から嬉しかった。

 マックは自分が振って正解だったのでは? と苦笑いしたくらいだった。

 色々と迷惑をかけてしまった分余計に、フィーナが幸せになって欲しいと心から願う。



 あれからマックは紆余曲折あったが、とある女性と結婚した。

 誰かというと、リリーが愚痴を溢したりして、吐け口にしていた相手だ。

 ナナリーと言って、リリーが悪く言う相手はどんな奴なのかと、彼女から近付いて来たのが始まり。

 妻曰く、マック、リリー両方からの話を聞く内に、リリーの思い込みや嫉妬からだと分かったらしい。

 それがきっかけで、ナナリーはマックという人間を知り、逆アプローチされ今に至る。



 となると、今度のリリーの矛先は、良くも悪くもフィーナからナナリーに変わった。マックは複雑ではあるものの、正当に苦言を言える立場になった訳だ。

 余り酷い様ならリリーの家に抗議する所存でいた。しかし、その必要も出番も全くなかった。

 どうやら叩く対象が強く、かってを知る人物が相手だとやり難いらしい。

 それに、リリーがいくらフィーナの事や昔の女性の事を吹聴しようと、マックの妻ナナリーはシレッとしていたのだ。

 何故なら、ナナリーは付き合う当初から、過去の事を全て聞いていたし、リリーからも聞いていたのでどうも思わなかったらしい。

 知らないと思って話すリリーが可哀想だと、ナナリーは逆に笑っていた。

 そんな妻ナナリーにマックは頭が上がらない。




 そして、願う事なら、リリーにも幸せになって欲しいと、心から思うマックであった。






 ーーで、そんなマックが何に困惑しているのか。




 現在、夫婦揃って夜会に出ているのだが、今は少し酒に酔いテラスに出ている。

 そんな、寛いでいたテラスで、妻ナナリーがしな垂れ掛かってきた。

「ねぇ、あなた」

 ナナリーはお酒を飲み過ぎて酔いが回っているのか、マックの唇に人差し指をチョンと当ててくる。

 それも、思わせ振りに。




 その事にマックは困惑していたのだ。




 ーーそう。




 マックは知っていた。

 コレは最近流行り出した、男女の甘いやり取りだと言う事を。

 そして、その発信源が元婚約者なのも知っていた。

 だからこそ、妻がどういう気持ちを込めて、いや含んで仕掛けてくるのかが分からない。

 そこには、何かしらの意図があるのか、自分の考え過ぎなのか。



「あ・な・た」

 酔いが回りに回った妻ナナリーは、マックの唇を突っつきながら、目はトロンとしている。

 マックは困惑しかない。

 ヤメロと言いたいのだが、それでナナリーが傷つかないかと思うくらいには、妻を大切に思っている。

「あ・な・た」

 尚も、マックの唇をツンツンするナナリー。

 フィーナがハウルサイド侯爵とやっているやり取りを、自分がやりたくはない。だが、ナナリーを傷付けたくない。

 困ったマックはその手を掴み、ナナリーを強く引き寄せた。



「んんっ!?」

 ナナリーは突然の事に、言葉を失くした。

 マックがナナリーの唇を食べる様に、自分の唇を重ねてきたのだ。

 息が苦しいのは、口が重なっているせいか、この動悸のせいか。

「これでも、指越しがイイのかよ?」

 しばらくして、顔を離したマックは思わせ振りにペロリと唇を舐めた。

 その夫の姿が、なんだか妙に艶っぽくてナナリーは身体が火照っていた。

「もぉ、バカっ!」

 ナナリーはポッと頬を真っ赤に染め、マックの胸に顔を埋めた。

 今度はお酒ではなく、夫のマックに酔ったのだった。




 胸に顔を埋めた妻を、小さく笑って抱きしめるマック。

 どうやら、俺も何処かの夫婦に違わぬ様だと、自嘲する。




 だが、それが今はとても心地良かった。







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