借金奴隷
「おい、起きろ!」
叩き起こされたので、起き上がる。
「飯を食べたら、昨日の作業の続きだ。」
「わかりました。」
俺は食堂へ向かい、置いてあるトレイを取り、配給の人に朝食を乗せて貰う。
今日も黒パンに屑野菜のスープに水だ。
俺は水だけでも問題無いのだが、他の労働者はこの量だとキツイだろうな。
俺は空いている席に座り、朝食を取ることにした。
「よっ、ハルト。」
俺の前に座って居るのはマイクと言う男だ。同じ日に此処に来た関係で、何となく一緒に行動するようになったのだ。
「マイクは相変わらず元気だな。」
「それだけが取り柄だからね。」
マイクはそう言いながら、俺の黒パンに目が釘付けだ。
俺はため息を一つついた。
「マイク、欲しいのか?」
「な、な、な、何のことかな?」
誤魔化しているが、毎朝の恒例だ。欲しいのはバレバレである。
「ほら、やるよ。」
「うひょ~、ハルト愛してるぜ~!!」
「ヤ・メ・ロ!」
俺が黒パンを渡してやると、気持ち悪いことを言ってきた。マジ辞めて下さい。
俺が水だけで問題ないため、腹が減っていたマイクに譲ってげてからと言うもの、毎朝こんな感じに欲しがるようになった。
「ごっそーさん。」
朝食を食べ終えたので、仕事に行くとしますか。
「もぃ、もってぐえ!(モグモグ)」
「食い終わってから話せ!」
もぐもぐもぐ…ごくん。
「すぐ終わるから、一緒に行こーぜ。」
「わーったよ。」
俺はマイクが食べ終わるのを待って、一緒に職場へと向かうことにした。
・・・・
カーン、カーン、カーン…
俺はつるはしを持って、洞窟の壁を掘っている。
何でこんなことをしているかと言うと、借金奴隷の強制労働中だからだ。
「あー辛い!」
隣ではマイクが同じ様に、ぶつくさと文句を言いながらつるはしを振るっている。
ここに来てもう10日にもなるので、随分とつるはしの使い方が様になった気がする。
最初は無駄に力が入って、あまり上手に掘ることが出来なかったからな。
ポロッ…
「おっ、鉄鉱石見っけ。」
ここは鉱山なので、鉄鉱石が採掘される。たまに銅、銀、金等も見つかることも有る。
こうして掘り出した鉱石は、強制労働が終わった時に、100分の1の値段で支払ってくれるとのことだ。
まぁ、鉄鉱石1kgで鉄貨1枚程度なので、100kg掘ってようやく鉄貨1枚の計算なのだ。やってられないと思ってしまうのは仕方が無いと思う。
ちなみに、先ほど掘り当てた鉄鉱石は3kgくらいだ。はぁ…
カーン、カーン、カーン…ポロッ…
「おっ、当たりだ!」
今回見つけたのは魔石だった。何で鉱山の中に魔石が有るのかは分からないが、俺にとっては最高の宝物だ。
魔石を掴むと、輝いてベルトへと吸収された。
『83』
今回は当たりだ、5も数字が増えていた。
此処で採掘される魔石は、大きさがまちまちで、1の場合も有れば、今回みたいに5の場合も有る。
そして、何でベルトをしているのかと言うと、取り上げられなかったからだ。
此処に入る際、武器防具は強制労働が終わるまで返して貰えないのだが、ベルトは防具と見なされなかったため、取り上げられなかったのだ。
もちろんアタッチメントも持って居る。随分緩い感じだが、俺にとっては都合が良いので気にしないことにした。
それにしても、これで7個目の魔石だ。随分と数字が増えた気がする。
「うひょ~! ラッキー♪」
マイクが叫んでいるので、そちらを見ると、どうやら金の鉱石を見つけたみたいだ。運の良い奴め!
・・・・
「なぁ、ハルトは何で借金奴隷になったんだ?」
夜、眠れないのか、マイクが聞いてきた。
まぁ、知られても別に困らないし、構わないか。
「街に入るのに、仮身分証の中銅貨1枚が返せなかったからだ。」
「マジ!? 中銅貨も払えないって、どんだけだよ!」
「うっせー! だいたい最初は無一文だったからだし、色々と有ったんだよ!
そう言うマイクは何で此処に来たんだよ!」
「HAHAHA、俺はギャンブルさ!」
「馬鹿だな。」
「何だと!」
「だってそうだろ? どうしようもなくて、仕方無くした借金ならまだしも、遊びによる借金じゃ文句は言えんわな。」
「仕方ないだろ、止められなかったんだから…」
マイクは落ち込んでいる。まぁ、ギャンブルは病気って言われるくらいだからな。きっと止められなかったのだろう。
ちなみに借金奴隷は、金額によって任期が変わる。俺は中銅貨1枚だから1ヵ月だが、マイクの場合は金額が金額なので20年だそうだ。アホだな。
ただ、発掘した鉱石の100分の1を支払うことで、任期が短くなるみたいなので、精々高額な鉱石でも発掘するんだな。
俺? 俺の場合は魔石は吸収しちゃってるし、殆どが鉄鉱石だ。精々1,2日早くなる程度しか稼げ無いだろうから最後までお勤めする予定だ。
・・・・
1ヵ月が経ち、俺は借金奴隷から解放される日になった。
「Oh! ハルトが居なくなったら、俺はどうすればいい!」
「そんな大げさな。」
「大げさな物か! 朝のパンが減るんだぞ!!」
「あー、まぁ、がんばれ?」
「くっそー!! 覚えてろよ!!」
「覚えててやるから、高額な鉱石でも見つけて、さっさと出て来るんだな。」
「任せろ! 来月には出てやるからな!」
「いや、さすがにそれは無理だろ。」
とりあえずツッコミを入れておいた。
「ハルト、こっちに来るんだ。」
鉱山を管理している兵士が俺を呼びに来た。
「マイク、じゃあな、元気でな。」
「ハルトもな。」
俺達は再開を期待して握手して別れるのだった。
兵士に連れられて俺は鉱山を1ヵ月ぶりに出ることが出来た。
「もう戻って来るなよ。」
「はい。ありがとうございました。」
俺は兵士に頭を下げた。
「リデアの街に戻るのか?」
別にリデアの街に住んでいた訳じゃなから、戻らなくても良いかな。
「いえ、このまま北に向かおうかと思ってます。」
「そうか、でも一度リデアの街へは行ってくれないか?」
「どうしてですか?」
「ハルトを捕まえた兵士が、強制労働が終わったら話がしたいんだそうだ。」
「はぁ、そう言うことなら行ってみることにします。」
「頼まれてたから助かったよ。兵士の名前はジョンって言う名前だ。」
「ジョンさんですね。分かりました。」
「そして、これは労働の対価だ受け取ってくれ。」
袋を渡してくれたので受け取って中身を確認すると、銅貨3枚と中鉄貨2枚、鉄貨が5枚入っていた。
思ってた以上に入っていたな。金鉱石を見つけたのが大きかったのだろうか?
「ありがとうございます。」
「頑張れよ。」
「はい。」
俺は兵士と別れ、鉱山を後にして、リデアの街を目指して歩き出した。