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返済


俺は必死に薬草を探して売るのを繰り返した。

夜は明かりも無いため、暗くて殆ど見つけることが出来なかったが、街で寝るよりは安全だし、少しでもお金を稼がなくてはならないため、頑張ることにした。

そして7日目にしてようやく1000本の薬草を集めることが出来たのだった。

勿論スケルトンやスライムも倒してはいるのだが、魔石は入手出来なかったので諦めた。ただ、数字は増えたり減ったりを繰り返し、今は『59』まで増えていた。


「やった! これで借金が返せるぞ!!」


今の手持ちは銅貨8枚、中鉄貨5枚、鉄貨6枚だ。そして薬草が144枚だ。この薬草を売れば中銅貨1枚になるのだ!

俺は気分良く街へと帰るのだった。

街に入り、手続きをする際に、兵士に声を掛けられた。


「お前、リングが黄色ってことは、今日が返済ギリギリだぞ。大丈夫か?」


「おうよ、コイツを売ったらすぐに支払いに来る予定だ。」


「そうか、なら安心だな。」


兵士の人は借金奴隷にならないことが分かったみたいでホッとしていた。


「じゃあ行って来る。」


「頑張れよ。」


兵士に見送られ、俺は冒険者ギルドへと向かうのだった。



・・・・



「ほら、銅貨1枚、中鉄貨4枚、鉄貨4枚だ。」


俺はお金を受け取りホクホク顔だ。これで中銅貨1枚分のお金が貯まったのだ。

早速借金を返済するために、門へ行くとしよう。

俺は冒険者ギルドを出て門へ向かうのだった。


門へと向かう途中で、裏通りを歩いている人が目に入った。

何故かと言うと、その人はボロボロのマントを羽織り、フラフラとしていたからだ。しかも大きさからすると子供だろうか?


「あっ!」


突然糸が切れた人形の如く、その子供は倒れた。

俺は急いで駆け寄り、その子供を抱き起した。


「大丈夫か?」


俺が声を掛けると、その時フードがパサリと剥がれた。


「耳?」


その子の頭には、犬の様な耳が付いていたのだ。もしかして獣人と呼ばれる種族なのだろうか?

それにしても、この子物凄く痩せているな、頬はコケており、手足は細くてガリガリだ。


「お…さん……お…かす…い…た……」


この子がか細い声でそうつぶやくと、意識を失った。


「お、おい!」


俺は声を掛けたが、子供は返事をしなかった。これってもしかすると餓死寸前なのではなかろうか?


「…考える間もないな。」


幸いなことに、俺は手元に中銅貨1枚分のお金を持っている。例えこのお金を使ったとしても、この子の命を救うことは出来ないかもしれない。

だけど、俺にはこの子を見捨てる選択肢は無い!! 借金? そんなものは糞くらえだ!! 何、1ヵ月も働けば解放してくれるんだ、何も問題は無い!!

俺は急いで食べ物を売っている屋台へと向かった。


「幾らだ?」


「ウチはスープが中鉄貨3枚、串肉が中鉄貨5枚だよ。」


スープは野菜のスープで、串肉はジャンボ串肉みたいな感じだ。

栄養失調の子供にいきなり肉を食べさせても大丈夫なのだろうか? もしかしたら獣人なので大丈夫なのかもしれないが…

分からないので、両方買って行くことにした。


「スープ1つ、串焼きは5本くれ。」


「はいよ、全部で銅貨2枚と中鉄貨8枚だよ。」


俺はお金を支払い、食べ物を受け取った。


「またおいで。」


俺は急いで子供の所まで戻った。


「ほら飯だ!」


声を掛けても目を覚ますことは無かった。

駄目か…と思ったら、鼻がヒクヒクと動き、うっすらと目が明いた。


「飯だぞ、食えるか?」


「ごは…ん?」


「そうだぞ! ほら、口を開けるんだ!」


俺が串焼きを口元へ持って行くと、その子が小さな口でパクリと食べてくれた。


「おい…しい…」


ニッコリと微笑んだ。


「ほら、もっと有るぞ。」


俺がそう言うと


「おに…い…ちゃ…ん、あり…が…」


その子がそこまで言ったとたん、最期の力尽きた様にぐったりとした。


「お、おい? どうした?」


俺が声を掛けたが、返事はしなかった。

呼吸が止まったのか、胸が上下していなかった。


「お、おい…目を開けてくれよ!」


俺はこの子を助けることが出来なかったのか?
















「いやまだだ!!!」


諦めるなんてことはしたくない! それに何故だが、俺のこの力が効くような気がしたため、俺はこの子に対して力を使った。


『58』


ピクリと反応した。もう一度だ!


『57』


今度は大きく反応した。もう一度!


『58』


呼吸が戻ったのか、胸が上下している。良いぞ!


『57』


頬に赤みが刺したような気がする。もういっちょ!


『56』


すると、この子の目がうっすらと開いた! やった!!


「食えるか?」


俺が聞くと、コクンと頷いてくれた。

俺は口元に串肉を持って行くと、今度はモグモグと少しづつだが食べてくれた。

俺は万が一のことを考えて、もう一度力を使っておくことにした。


『55』


何となく安定した感じがしたので、もう大丈夫だろう。


「うっ!」


喉につっかえたのか、苦しそうにしている。

俺は背中をパンパンと叩いてあげると、つっかえが取れたみたいだ。


「急がなくても大丈夫だぞ。ほら、こっちを飲むと良い。」


俺はスープを飲ませてあげた。

結局、買ってきた串肉とスープを全部平らげたみたいだ。

買ってきた俺が言うのも何だが、よくもまぁ、こんなに小さな体に入った物だ。

お腹がいっぱいになったのか、うつらうつらと眠そうにしている。


「ほら。」


俺は屈んで背中を向けると、背中におぶさって来た。

おんぶすると、安心したのか、そのまま眠ってしまったみたいだ。

俺はこのまま、門へと向かうことにした。


門には先ほどの兵士が居たので声を掛けることにした。


「こんばんは。」


「よおさっきの、お金は用意出来たか? それにその子はどうした?」


「実は…」


俺はお金が用意出来たこと、ここに来る間に有ったこと、そしてお金が足りなくなってしまったことを話した。

ただ、助ける際の力については、伏せておくことにした。


「そっか、大変だったな。今から残りの分を用意出来るか?」


兵士が聞いてきたが、全く当てが無いため、俺は首を振った。


「そうか…悪いが決まりなんでね、1ヵ月の借金奴隷として労働してもらおう。」


「わかりました。その前に一つだけお願いしても良いでしょうか?」


「何だ。」


「このお金を、この子が目を覚ましたら渡して貰って良いでしょうか?」


俺はジャラジャラと全財産をテーブルに出した。


「お前…分かった。俺に任せておけ!」


「ありがとうございます。」


「その子は、そこに寝かせておくと良い。」


兵士が簡易ベットみたいな所を指差したので、そこに寝かせることにした。

さて、これで良しと。


「じゃあ、宜しくお願いします。」


俺は両手を兵士へと突き出した。


「すまんな。」


兵士は、ロープで俺を縛り、リングの水晶を赤へと変化させた。

こうして俺は借金奴隷へと落ちたのだった。


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