冒険者再び
さて、用事も済んだことだし北へ向かうのも良いのだが、先立つものが無いと同じことの繰り返しをしてしまうかもしれない。
今回は1ヵ月の強制労働で済んだが、金額が高くなればマイクみたいに長期間の労働になるかもしれない。それに、武器が有れば敵を楽に倒せる様になるかもしれない。
仕方がない、冒険者ギルドで仕事をするとしよう。そうと決まれば、俺は冒険者ギルドへ向かうことにした。
久々に冒険者ギルドへとやってきた。今の時間だと、みんな仕事に向かってしまったらしく、あまり人は居ないみたいだ。
掲示板へ向かってみたが、やっぱり何が書いて有るのかさっぱり分からない。
何時までこの世界に居るのかは不明だが、下手すると帰れない可能性だって有る。そう考えると、文字の勉強もしないと駄目なのかもしれない。
俺が掲示板の前でそんなことを考えていると、後ろから声を掛けられた。
「もし、そこの冒険者さん。」
「ん?」
子の方へ振り向くと、一人の女性が立っていた。
「俺に何か用か?」
「はい。もしかしたらですが、『読み聞かせ屋』が必要なのかと思いまして、声を掛けさせて頂きました。」
「『読み聞かせ屋』か…ちなみに幾らなんだ?」
「指定された1つの依頼を読むだけでしたら鉄貨1枚です。端から順番に3分間読む形でしたら中鉄貨1枚となります。」
「ふむ。」
1枚の依頼を見ると、10秒も有れば読むことが出来そうな文字数だ。なので、3分間なら約18個の依頼を呼んでくれる形になるのか。
確かに1件の依頼だけを読んで貰った場合、受けられる依頼だったらまだしも、受けたくない、又は受けられない依頼だったら全くの無駄になってしまう。
3分間の場合は、読んだ中で受けられそうな依頼を抜き出せば良い話になるんだな。こっちの方が多少高くても合理的かもしれない。
ただ、1つの依頼をじっくり何度も読んで貰って文字を学ぶって案も一つの手では無かろうか? ふと思いついたことが有ったので聞いてみることにした。
「参考に聞きたいのだが、文字を教えてもらうって依頼は受けられるのか?」
「文字をですか?」
「ああ。」
その女性は少し考える仕草を取った後、言ってきた。
「貴方が覚えるまでの依頼となると、どのくらいの期間が掛かるか分かりませんし、金額も多くなってしまいます。
長い期間教えたとして、その間は良しとしても、依頼が終わった後に他の人に『読み聞かせ屋』の立場を奪われて、仕事が無くなってしまうかもしれません。」
なるほど、そういった問題も有るのか。
「そうか、それなら仕方が無いな。変な事聞いて悪かったな。」
「ですが、覚える覚えないは別として、私が休みの日を使っての依頼であればお受けしますよ。」
「本当か!」
てっきり断られたので諦めようと思っていたところだったが、どうやら教えてくれるみたいだ。
「幾らだ?」
「……1日、中銅貨1枚でどうでしょうか?」
「中銅貨か、今は手持ちが無いが、貯めたらお願いすることにするよ。」
「分かりました。私は休みの日以外でしたら朝5時から10時まで此処に居ますので、声を掛けて下さい。」
「分かった。その時は頼む。」
「はい。」
折角なので、お金を稼ぐためにも、一つだけ依頼してみることにした。
「今からでも稼げる依頼を1つ選んで貰うことって出来るか?」
俺は鉄貨1枚を取り出して聞いてみた。
「申し訳有りませんが、その様な依頼は受け付けておりません。鉄貨1枚でしたら指定した依頼を読むだけですよ。」
そりゃそうか、求める依頼が欲しければ中鉄貨1枚で読んで貰った中から選べば良いんだしな。
「すまない。では、中鉄貨1枚の依頼を頼む。」
先ほどの鉄貨を仕舞い、中鉄貨を取り出して渡した。
「畏まりました。お客様のランクを教えてください。」
「鉄だ。」
「鉄ランクですね。では読ませて頂きます。」
女性はそう言うと、懐から砂時計を取り出してひっくり返し、砂が落ちると同時に次々と依頼を読み始めた。
「依頼名は薬草採取、目的はポーション用薬草の採取、機嫌は無し、成功報酬は毒草10本で鉄貨1枚、腹草5本で鉄貨1枚、薬草1本で鉄貨1枚、魔草1本で銅貨1枚、依頼失敗は常時依頼のため無し。
次の依頼名は荷物配達、目的は……」
とりあえず俺も依頼を眺めながら聞いていたのだが、どれがどれだかさっぱり分からなかった。
そして、砂時計の砂が落ち切った所で女性は読むのを止めた。
「以上になります。気になった依頼は有りますでしょうか?」
聞いてた限り、大抵の依頼は討伐や採取、他に1日中作業をすることで貰えるものが殆どだったが、1つだけ気になった依頼が有った。
「荷物配達の依頼をたのむ。」
「それでしたら、これですね。」
女性が1枚の紙を剥がして渡してくれた。
「ありがとう。」
「いえ、それではまたのご利用お待ちしております。」
俺は女生徒別れ、依頼を受けるために受付へと向かうことにした。




