獣人の子
リデアの街に向かう最中に何度かスケルトンと出会ったが、問題無く倒すことに成功した。
久々の戦闘だったために少し不安も有ったのだが、強制労働で採掘につるはしを振るうことで筋肉が付いたみたいで、楽に倒すことが出来たのだ。
拾った太い枝を棍棒代わりに使ってみたのだが、一撃で粉砕出来たので、草を枯らす前に倒すことができたのだ。
『88』
こうして必殺技を使わなくても倒せるのなら、専用武器とまでは言わないが、何か武器を持ってみるのも良いかもしれない。
仕事をしてお金が貯まったら、少し考慮しても良いかもしれないな。
その後もスケルトンと戦闘したり、あちこちで見かけた枯れた草や溶けた土地を治したりして、ようやくリデアの街へ到着することが出来た。
折角増やした数字だったが、『18』まで減ってしまったのは少し残念だったが、自然を回復できたのだから後悔はしていない。
出入りが激しい時間だったので、街に入る列は結構長かったのだが、並ばない訳にも行かないので並ぶことにした。
並ぶこと1時間ほどして、ようやく俺の順番になった。
冒険者カードを提出して、街に入る許可を得られたので、鉱山で言われたことを聞いてみることにした。
「すいません、ジョンさんはいらっしゃいますか?」
「ジョン? 確か今日は非番だったハズだな。何か用事か?」
「はい。ジョンさんが話をしたいと言われました。」
「そうか、なら兵舎へ行ってみると良い。門を入ってすぐ左の道を進むと大きな建物が有るから、そこで聞いてみると良い。」
「わかりました。」
俺は兵士と別れ、言われた場所へと向かうことにした。
その建物は直ぐに見つけることが出来た。と言うか、門から500mも離れて無かったので、門を出た時点で直ぐに分かったのだ。
扉を開けて中に入るとカウンターが有り、一人の女性が据わっていた。
「此処は、リデルの街の兵舎ですが、何か御用でしょうか?」
「ジョンさんに呼ばれて来たのですが、いらっしゃいますでしょうか?」
「すいませんがお名前を教えて頂けますか?」
「ハルトです。」
「ハルト様ですね、確認致しますので少々お待ちいただけますか?」
「お願いします。」
女性は後ろの扉を開けて中に居た同僚の女性に何か言っているみたいだ。
言われた女性は、部屋を出て、階段を上って行ってしまった。
少しして、先ほどの女性と兵士の人が一緒に階段を降りてきた。
「待たせたな。」
「いえ、それで俺に何か用事でしょうか?」
「君が借金奴隷になるきっかけになった子のことなんだが。」
そう言えばそんなことも有ったっけ。
「どうやら親は居なかったみたいで、今は孤児院に預けている。」
「そうなんですか。」
ちゃんとした所に預けてくれたのか。良かった。
「それで、その子が君に会いたいと言っているんだが、どうする?」
「どうするも何も、俺はあの子とは親でも親戚でも無いですよ?」
「そうかもしれないが、命の恩人だろ? お礼を言いたいんじゃ無いのかな。」
「う~ん。」
別にお礼が欲しくて助けた訳じゃないんだよね。たまたまあの子の運が良かっただけだ。
かと言って、無視して悲しませるのもな…
「…とりあえず、顔だけは出してみたいと思います。」
「そうだな、きっと喜ぶと思うよ。
私の話は終わりだ。来てくれてありがとう。」
「いえ、それで孤児院の場所は?」
「ちょっと距離があるのだが、此処とは反対の壁際に教会が有る。そこの隣に孤児院が有るよ。」
「分かりました。これから行ってみようと思います。」
「宜しく頼むよ。」
「はい。それでは。」
俺はジョンさんと別れ、孤児院へ向かうことにした。
・・・・
流石に街の端から端は遠かった。迷子になりつつも半日ほど歩いて、ようやく教会へとたどり着くことが出来た。
そして、教会の隣にはボロボロな平屋建ての建物が建っていた。
「此処で良いんだよな? 人住んでるんだよな?」
あまりにもボロボロだったので、少し不安になったが、とりあえず入ってみることにした。
建物の中に入ると、一人の修道女が居たので、聞いてみることにした。
「すいません。」
「はい、何でしょうか?」
「1ヵ月前に、此処に連れてこられた子が居ると聞いたのですが。」
俺はそう言うと、修道女は驚いた顔をした。
「まぁ! 貴方がそうだったのですね! ちょっと呼んで来ますのでお待ちください!!」
「あ、はい。」
余りの勢いにちょっと引いた俺だった。
修道女はパタパタと廊下を走って行ってしまった。
少しして、先ほどの修道女の方が、一人の子供を連れて戻ってきた。
その子供は、俺を見つけると、勢いよく走ってきて抱き着いて来て、頭をグリグリと擦り付けている。
「お、おい!」
ちょっとビックリしたが、元気になったみたいで良かったよ。
食事が改善された御蔭か、随分と肉付きが良くなったみたいだ。出会った時はガリガリだったからな。
髪の毛もショートからショートボブくらいまで伸びていて、頭に例の犬耳が付いていた。
スラっとした体つきで、スカートを履いていた。……スカート?
「お前、女の子だったのか!」
俺がそう言うと、女の子(?)はピクリと反応した。
「…女の子です。」
涙目で訴えられてしまったので、とりあえず謝っておく。
「す、すまん。」
「いえ、確かにあの時は分かりにくかったかもしれません。」
髪型もボサボサで、体も凹凸の無いガリガリだったからな。仕方ないと思う。
今はハッキリと女の子だと分かるし、結構可愛い子みたいだ。
「元気にしているみたいで良かったよ。」
「はい! あの時はありがとうございました!」
「気にすんな。じゃあ元気な姿も確認できたし、俺はそろそろ行くわ。」
用事も済んだことだし、孤児院を後にすることにしたのだが、
「待ってください!!」
「どうした?」
「私も連れて行って貰えませんか?」
「どうしてそうなる。」
「貴方は私のせいで借金奴隷になってしまいました。だから恩返しがしたいんです!!」
「俺が勝手にやったことだ、それに子供が恩返しなんて必要ないぞ。」
俺がそう言うと、女の子は頬を膨らませて怒り出した。
「私はもうすぐ15になります! なので十分大人です!!」
「えっ? 15? マジで?」
今は肉付きが良くなったから多少はマシになったが、どう見ても12~13歳くらいにしか見えないぞ?
もしかして栄養が足りなかったから小さいのだろうか? いやいや、それより15で大人って…この世界ではそうなのか?
「たとえ大人だったとしても、恩返しなんか要らん、むしろ邪魔だ!」
「嫌です!!」
「要らんと言ってるだろうが!」
「要ります!!」
「それを判断するのは俺だ! もう行く!」
「待って!」
女の子が叫んだが、俺はそれを無視して孤児院を出るのだった。
まぁ、ちょっとトラブルが有ったが、何はともあれ助けることが出来たみたいで良かった。
俺は孤児院から走り去った。




