6 休日は実質平日と変わらない
沢山のアクセスありがとうございます。
話の進みが遅いですが、気長に待ってもらえれば嬉しいです。
翌日
今日は土曜日。つまり休日だ。ゆっくりダラダラと自堕落な生活を送ろうと思っていたのだが、そうもいかない。
あの会長のためにやった生徒会の仕事。その資料を会長に今日のうちに提出しなければならないのだ。なので学校に向かわなければならない。電車賃は無駄になるし、しかも休日まで会長に会わなければいけない。ハッキリ言って得はない。
本当にあの人を相手にするのはめんどくさい。からかってんのか、本気なのか全くわからない。
今に始まったことでは、ないのだが………
とにかく、家を出る。
ハンドバッグを片手にぶら下げ、その中には資料。
今日の予定は、生徒会に資料提出と一時間仕事。十一時になったら学校から出て、約束の喫茶店に行く。
その後西条と待ち合わせて老人ホーム。その後夜からまたバイト。
最近マジでバイト時間が減ってきてるからもっと調整しなければいけない。
やれやれ今日は休日なのに、平日並みに多忙だ。会長がちょっかい出さないといいけど………
若干の不安要素を抱えながら俺は、学校に向かった。
***
結論から言おう。めちゃめちゃちょっかいかけられて仕事いっぱいやらされた。
今は喫茶店。やっとゆっくりできる。ひとときの休息である。
また、昨日の女子店員さんがコーヒーを淹れてくれるようだ。
「お待たせ致しました。コーヒーです」
いつもの店員さんがコーヒーを持ってきてくれる。
「ありがとうございます」と俺が言うと、店員さんは笑顔で、「今日もお越しくださりありがとうございます」と言った。
テーブルにコーヒーが置かれた。ようやく何も考えずにコーヒーを楽しむことができる。昨日は仕事をしながらで、しかも冷めた状態だったから味わうことができなかったと言ってもいい。
店員さんは、その場から動かない。今は、お昼どき。忙しくなるはずなのに、大学生の店員さんは俺のテーブルから離れないのだ。
「あの……俺、なんか、忘れてましたっけ?」
不安になり唐突にそう問うと店員さんは、一瞬ぽかんとして、それから少し慌てだした。
「いっ……いや!お客様は、全然大丈夫ですっ!!」
「そうなんですか……てっきり俺がおかしいのかと……」
「全然違います。で、でも、今回も私が淹れたので………か……んそうが……」
次第に小さくなる声音。大学生店員の頰は朱色に染まり照れているのがこちらからも筒抜けになる程だ。
なるほど……まだ不安なのか……凄く美味しいから、もう大丈夫だと思ったのに…………
そう思いながらも感想がほしいなら飲んで言うまで。こんな貧乏舌の感想なんて役に立つのか?と若干の疑問が頭をよぎったがこの際もうどうでもいい。
思ったことを正直に言えばいいのだ。
「じゃあ、いただきます」
カップを持ち、コーヒーを呷る。味は昨日と同じ……いや、それよりも格段に美味しかった。
「とっても美味しいです」
店員さんに感想を言うと
「ありがとうございます。こんなコーヒーを美味しいなんて言ってくれて……」
「いや、本当に美味しいです。昨日あれからまた練習しました?」
「え!………っ!はい、しました……」
店員さんは驚いている。俺も確信はなかったが、多分努力したんだろうなぁ……と思いそれを言葉にした。
「昨日よりもまた美味しくなっていますよ」
「ほ、ホントですか?嬉しいです……」
満面の笑みを浮かべている店員さん。ここまで笑顔で言われると俺も毎日通ってでもこの笑顔を見たいと思ってしまう。
「すっかり常連になりそうです。美味しいコーヒーありがとうございます」
「い、いやぁ……私もまだまだ半人前ですし……店長にまだまだだとか、お前は才能がないとか言われていますし……」
「でも、俺は美味しかったです。店長がどんなに凄い人かは知りませんが、きっとすぐに勝てますよ。それに店長がバカ舌な可能性だってありますし………」
無責任な発言。失礼極まりないが、本人がいなきゃいいのである。
だいだい人間なんて愚痴がなければ生きていけないのだ。どんなに性格がよくても人のいないところで一つや二つ言っている。愚痴なしで生きれる人は、人間じゃない(褒め言葉)
「ふふっ!!凄いですね。赤の他人をそこまで言うんですか?」
「いやっ、でも、頑張っている人に対してそんな物言いの人はこんぐらい言ってもいいと思いましたし………」
「頑張ってる人?」
「えーと。店員さんは、コーヒーだけじゃなくて接客でも笑顔振りまいて、掃除もそつなくこなしているじゃないですか」
「君、笑顔振りまいてるって………それ褒めてる?」
ちょっと至らぬ点がありましたかね?自覚ないですわ(すっとぼけ)
「褒めてます。誰に対しても笑顔ですし。こんなメガネの根暗でも平等に接してくれるじゃないですか……」
「お客様はお客様なんだから平等に接しないとですよ」
………なんか傷ついた。
「商魂たくましいですね……」
「それが私の長所ですから!」
「言うんじゃなかった……」
気付けば、ふつうに会話していた。
「でも、確かに内心では差別していることはありますよ。気持ち悪いハゲたおっさんの目線が気持ち悪いとか思うことありますし……メガネ高校生が一人で来るなんてメンタルどうなってんのかなぁ……とか」
「俺のこと言ってます?」
なんだ?隠キャがひとり喫茶店とかご法度なのかよ?
「いえ、あなたのことなんて悪い人間だと思ったことありません」
「じゃあ、変な人間だと思いましたか?」
「……はい」
正直!!でも、人間はこうあるべきだ。俺もここまで言われると清々しいよ。
「別に見た目が変だとかは思ってないですよ?」
「なお傷付きました……」
要らぬフォローを入れてくれる店員。
別にフォローなんて注文してないし………
「でも、本当にお客様はいい人です。普通こんなに言ってくれませんから……」
「ただ正直なだけですよ?努力する人を悪く言う奴は嫌いなだけです」
「ホントに隠キャの部類ですか?普通隠キャはそんなこと言いませんよ」
あれ?俺恥ずかしい!やだ!もう!何カッコつけて言ってんの?バカっ!洸夜のバカ!クズ!ウジ虫!
羞恥心……これを機に覚えよう。
「ごほん!恥ずかしい。どうやら思春期が無いようです」
「ですね。変な人です」
清々しい……
「でも、私はそういう人大好きですよ」
「えっ……」
「お客さま……いや、呼びにくい……私は、橋津美月です。お客さまのお名前お尋ねしてよろしいですか?」
「こうやです……」
「洸夜くん。今日もまた練習するから毎日きてね?」
美月はそう言うと俺のテーブルから離れていった。さすが女子大生。色気が半端無い。
そう思いながら残りのコーヒーを呷る俺だった。
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