58 対決 サッカー編 ②
フリーキックの二巡目。場所は、ゴールまでの距離が40メートルくらいある。これはかなり難しい闘いになりそうだ。
まず、高校生で40メートル近くの距離を直接狙うことはまずない。大体がゴール前にクロスである。
そのため成功率はかなり低いであろう。しかし、狙おうと思えば狙えるは狙えるのだ。だが、かなり威力が弱くなってしまうが…………
先攻の棚山は、ボールをその場にセットした。俺は、ゴールに向かう。棚山のことだから、野球の時と同じようにプレッシャーを与えようとしたのだろうが、難しい位置でのフリーキックは計算外だったようだ。
この位置でのフリーキックは、しっかり考えられる後攻の方が断然有利だ。自分で順番を選んでいない分、すごく得をした気分になった。
再びゴール側からボールの位置を確認する。やっぱりすごく遠くに感じた。これを直接はかなりの難易度だろう。なんせ、威力を上げるために力強く蹴らなければいけないのだが、それをすると精度も少し下がってしまう。力強く、正確にが難しいのだ。
棚山は、数歩後ろに下がり、助走をつけてからボールを蹴る。今度は、先程よりも威力が高かった。しかし、威力を重視し過ぎたのか、ボールはゴールの上を通過していった。
これで棚山は二回連続失敗である。
次は後攻の俺の番だ。俺も棚山と同じ場所にボールをセットした。やっぱり、ゴールが遠い。もうボールを浮かせないで低い弾道にするのも悪くないかもしれない。
そうすれば、低いまま威力を加えるだけなので、高いボールを蹴り込むよりも多少簡単である。
俺は、数歩後ろに下がり助走をつけて蹴り込んだ。ボールを浮かせないようになるべくボールの上側を蹴るようにして。
ボールは、見事浮かずに転がっていった。
しかし、威力が足りなかった。低い弾道ということは、地面に擦られるたびに摩擦で減速する。ゴールにつく頃には速度もそこそこ落ちて普通に対処可能になっていたのだ。
そのボールを棚山はキャッチする。
2回目は両者とも失敗に終わった。
3回目、、次はどんな場所にしてくるのだろうと思いながら夏帆を見ている。夏帆は、さっきの場所とは違いゴールの方に近づいていく。そして、今度は、角度がほぼというか無い、位置。場所を詳しくいうと、右サイドのゴールラインより少し手前の場所である。
ほぼ直接コーナーキックと同じパターン。しかし、コーナーキックよりもゴールまでの距離が近いので余計にやりにくい。
もうこの結果は、詳しく言わなくてもいいだろう。
両者ともダメだった。
角度が無い分、アウトサイドにかけるか力尽くで行くしかなくなる。可能性があるのが力尽くだが、両者ともプライドを持って闘っているため、顔面ブロックも厭わない。
棚山の蹴ったボールは、俺のみぞおちに入り俺は数分間悶えた。
そして、俺が蹴ったボールは、棚山の顔面に綺麗に当たって、棚山の顔はボールの後で真っ赤になっていた。
4回目は、さっきの逆サイド。またもや俺たちは、お互いのボールを全力で弾いた。
で、結局、両者ともゴールは決まらず。
スコアは相変わらず、1ー0のままだった。本来なら、もっとスピーディに勝てていたかもしれないが、無理な場所からのフリーキックの連続でそれは叶わなかった。
5回目。
これが、最後のキックである。これでもし、棚山が成功して、俺が失敗した場合は、引き分けでサドンデスになる。
だから、これは失敗できないし、それ以前に棚山のボールを止めなければいけない。
最後に夏帆が指定した場所は、真正面であった。距離は25メートルほどだろうか。
フリーキックをするのには、ちょうどよすぎる距離である。しかも壁がないのでキッカーは余計な心配をしないで自分のペースに持っていく。
さっきまではあんな不可能に近いような場所ばかり指定していたのに、どうしたのだろうか?
夏帆の選択が全然まったくわからないが、俺は取り敢えず、ゴールに向かった。
変わらず、ゴールの方からボールをみる。距離は近くて角度も全然ある。角度がありすぎるせいで自分の立ち位置が、ここでいいのかさえも不安になってくる。
しかし、俺は、構えた。もう少しで棚山のキックがくる。
彼は慎重に助走をつけて、ボールを蹴った。俺の予想は右だった。そうすると、彼のボールは、右のほうへ放たれた。
高さが高く、威力もそこそここれは難しいボールだった。
だがしかし、俺は飛び込む。
絶対にゴールを決めさせるわけにはいかなかったからだ。俺の思いが届いたのか、奇跡にポストにあたり弾かれた。
この瞬間に俺の勝ちが決定した。
その瞬間を見届けた、女子たちは歓声が、棚山男子軍からは、落胆のため息がそれぞれ聞こえた。
これで、トータルスコアは、3ー1。これで俺は勝った。一種目を残して俺の勝ちが決定した。
「じゃあ、これで…………」
「まて、まだあと残ってるだろ…………」
俺が帰ろうとすると、棚山は止めた。
「もう勝ったんだからいいだろ」
「……まだ終わってない。陸上が残ってる」
「いや、この勝負しても俺の結果は変わらないだろ?」
「いや、変わる……」
「は?」
「最後の陸上は特別3ポイントだ」
「ちょ、ちょっと!それは、あんまりじゃ………」
「あ?ルールは、俺が決める。お前だってそれでいいって言ってただろう?」
「そ、それはっ………」
「だから、5回目の陸上で勝った人が夏帆と付き合える。夏帆の彼氏さんなんだから、そのくらい大丈夫だよな」
思いっきり煽ってくる棚山。しかし、それは落ち着いて対応した。
「けれど………」
「あ?ルール決めるのは、俺だぞ?」
どっかの暴君にさえ見えてきた。
「じゃあ、種目の詳細だが、3000メートル走だ」
勝手に話を進めるあたりこれはもう決定事項なのだろうか?
俺の話に耳を傾けない、棚山に諦めてこれを受けることにした。だって受けて勝てばいいのだから。
「で?これが終わって勝った方が夏帆の彼氏でいいんだよな?これ以上、変なこと言わないと誓ってくれ」
「ああ、もちろんだ」
受ける分にはいいがこの後に変な言い訳を作られても困るので、逃げ道は封じた。
「じゃあ、わかったよ」
俺も切り替えて早速準備運動しようとすると、棚山が
「この3000メートル走のコースなんだが、このグラウンドの周りは公園だろ?その公園の外周が1500メートルだったんだよ。だから、公園の外周を2周にする。そして…………」
棚山は、一度生唾を飲み込んでから、
「ゴールには、夏帆が待っていて、先に到着した方がそのまま帰れるってことにする。」
と言った。
俺は、
「ああ、受けて立つ」
と言った。この勝負、負けるわけにはいかない。俺は最後の力を振り絞って、3キロを走りきると決めた。
――まってろ、夏帆。これで終わらせるからな
次回は、最後の陸上になります。
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