57 対決 サッカー編 ①
遅くなって申し訳ありません!
因縁とまではいかないかもしれないが、サッカーにおいては何かと棚山と共通点があった。
中学時代にサッカーをしていたこと。お互い、10番だったこと。お互いトップ下のポジションだったこと。
俺たちのクラブユースが棚山の部をボコボコにしたこと。
ぱっと思いつくのだけでもこれだけある。それくらい俺と棚山のサッカーにおいての共通点や接点があった。
だからこそ、負けられない。いや、負けたくない。
自分が一番愛していたスポーツで負けるわけにはいかない。幼稚園の頃からやっていて、スポーツの中で俺が好きなサッカー。誇れるサッカー。
夏帆の勝負以前に俺は自分のプライドとして、このスポーツだけはどんな勝負内容でも負けたくなかった。
グランドに到着すると棚山が勝負の内容を言う。
「サッカーの対決なら本来、PK合戦にするのがセオリーだが……はっきり言ってこれは、運ゲーだ。実力で勝負したいから壁なしのフリーキック合戦にする」
棚山の提案に俺は頷いた。俺も棚山の考えには賛成だった。ペナルティーキックは、メンタル的な面には十分なのだが、運ゲー要素が強い。はっきり言って高校生レベルになると立ち位置だけで蹴る場所がわかるなんてことはない。キックの精度も高いからだ。
だから、止める方はテキトーに跳ばなければならない。このテキトーが公平でなくなる可能性があるのだ。
これでは、実力がしっかりと発揮されないと思った。
その分、フリーキックなら、角度、場所、風向き、天候、ゴールキーパーの位置、高さ、カーブの掛け方など、メンタル的な面から技術やノウハウが必要となり、どれだけサッカーの実力があるかという勝負になる。
これなら、まぐれ勝ちはないだろう。
「じゃあ、お互い交互に5本ずつフリーキックをする。ゴールキーパーは、自分たちでやる。蹴る場所は夏帆に決めてもらう。それでいいか?」
「ああ、問題ない」
「お前、なんかさっきよりもギラギラしてるな」
「勝負も大詰めだからな。負けるわけにはいかない」
棚山の問いかけに俺は、そう答えた。
しかも、サッカーだからな。
俺の幼少期の全てが詰まったスポーツ。それをここでぶつけるのだ。
「じゃあ、俺が先行だ。いいよな?」
「ああ、問題ない」
「決まりだ。じゃあ、夏帆。蹴る場所を指定してくれ」
「え?どこでもいいの?」
「ああ、どこでもいいぞ」
「じゃあ…………」
そう言って、夏帆は歩き出す。そうして、少し歩くと「なら、ここ……」と言って立ち止まった。
その場所は、ゴールまで、約25メートル。左サイドで角度があまりないところだった。
「わかった……じゃあここな。」
棚山が言ってそこにボールをセットした。俺はゴールを守るべくゴールに向かった。
ゴールから棚山の位置を見てみると、確かに角度がない。左サイドの少し深いところだから、ニア側を蹴るのは相当難しそうであった。逆にニアを狙うのなら本当に速いボールを叩き込まなければいけない。それに対してファーサイドの方はニアサイドと比べると割と普通に入りそうな角度であった。
しかし、ファーサイドにしてもかなりボールを曲げないと無理だし、高さも必要になる。
どちらにせよ難易度が高い場所であった。
棚山は、どう来るのだろうか?
ニアサイドかファーサイド。いや、そうとも限らない。俺がそう思ったのは、フリーキックやシュートシーンでキーパーが一番苦手としているボールが頭に浮かんできたからである。
それは、無回転シュート。
ボールを蹴ると普通は回転する。しかし、ある特殊な方法でボールは回転しなくなる。ボールは回転しないと不規則な運動をするため、ゴールキーパーは全く予想ができないのである。
急激に落ちたり、ブレたりするためにタイミングが掴めない。キーパーから一番嫌われる種類のキックを思い浮かんだのは、俺ならどう攻略するかをふと考えたからであった。
まず、あまり角度のないところからの直接フリーキックほど難易度の高いものはない。キーパーがいるため、大体ニアサイドはノーチャンス。ファーサイドもかなりの難易度、そうすると大体、力任せに振ることもある。
そうすると、無回転シュートに辿り着く。力任せに振るのなら無回転シュートはもってこいの技だが、このシュート本当に難しい。成功率など高くない。
だからそんな賭け的なことをしてくるのだろうかというところもあり結局のところ予想なんてできなかった。
こういう時は自分の反射神経でどうにかするしかない。
棚山は一回深呼吸してから助走をつける。俺は構える。
棚山はボールを蹴った。ボールが動いた瞬間に俺はボールの軌道を見る。かなり高い角度、そして、これはファーサイドだ。
俺はボールが進む方向へ手を伸ばしてジャンプする。かなり難しい場所に蹴られたボールを俺はなんとか手で弾いた。
一回目の棚山は、失敗に終わった。
ボールが外れると、男子軍は「あ〜」と悔しそうにして、女子たちは喜ぶ。夏帆も俺に拍手をしていた。
なんとか、弾けた。しょっぱなからかなり難しいボールが飛んできたが防ぐことができた。しかし、
棚山はかなりの正確さであった。これは、絶対に油断できないものである。
俺は、弾いたボールを取りに行き今度は俺がその蹴った場所にボールをセットした。
改めて立つと本当に難易度が高くて思わず笑ってしまいそうになる。
さて、どこに蹴るかだが………
ニアサイドは、見たがノーチャンスであろう。ファーサイドもかなり難しい。それなら、やっぱりアレしかないかもしれない。
俺は、無回転シュートを打つことにした。かなりの確率だが、俺は無回転シュートには自信があった。二列目のポジションなので、やたらミドルシュートの機会がある。
その時に確実に点が取れるように俺はあらゆるパスとシュートを練習したのだ。
そして、無回転シュートでは中学時代でも点を取ったこともあった。アレは流れの中からだが、今はセットプレー。ゆっくりできるからまだそれに比べたらマシだろう。
俺は助走をつけて、ファー、いわゆるアウトサイド側に、ボールを蹴り込んだ。
放たれたボールは、高く上がり、バーギリギリのところまで行った。そして、バチンとバーに当たる音が鳴った。
弾かれたか?と思ったが、幸いなことに比較的内側だったので、バーに当たってそのままゴールイン。
一回目のフリーキックは成功した。
棚山は失敗して、俺が成功上々な滑り出しだった。
二回目も夏帆が場所を選ぶのだが、夏帆が次に選んだ場所は。
「か、夏帆。本当にここなのか?」
「うん、次はここにする」
夏帆が次に指定した場所は、右サイドで角度はあるものの、ゴールまでの距離が40メートル近くある場所だった。
これ、本当に難しいんだが………夏帆。なんで、こんな場所ばかり選択するんだ?
不思議な選択をする彼女に疑問を抱きながらもフリーキックの2本目は始まっていく。
次回は続きです。あとこの章も3〜5話くらいです。よろしくお願いします。
ブックマーク、評価、よろしくお願いします。




