56 対決 テニス編
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二戦目の敗戦により次の勝負の場所、テニスコートまでの雰囲気は悪かった。
決して誰かが悪いわけではない。ただ敗戦で落ち込んでいるんだ。
市民プールから出ると、棚山たちは上機嫌で次のテニスコートに向かっていった。取り残された俺たちは、重たい足取りでテニスコートに向かっていく。
あの後、夢葉や奈美からは、
「どんまい!」
「次勝てばいいから!」
などの励ましの言葉をもらったが夏帆からはなんの言葉もなかった。
ずっと俯いて、何も喋らなかった。やはり自分を責めているのだろうか?
トボトボと明らかに元気のない夏帆の足取りを見ながらそう思う。
今回勝っておけば彼女はこんな顔をしなかったかもしれない。
そんな中負けてしまった不甲斐ない自分を責めたくなる。
更に悔しさが増してくる一方で、夏帆とも話をしたかった。
しかし、今は夢葉や奈美もいるため不可能だ…………が、今話しておきたい。このままでは彼女がずっと自分を責め続けてしまうんじゃないかと思ったから。
俺はなんとか、二人になれる案を絞り出す。何かいい案はないか?と必死になって考えたところ、こんな案が思いついた。
「あ、靴擦れが……」
「え?」
「どうしたの?洸くん?」
二人が振り返って尋ねてくる。
「ちょっと靴擦れしたみたいだ………」
「え?大変!大丈夫?」
「ああ、だけどちょっと休みたい……」
「いいよ?やすも?」
「でも、棚山たちが遅いと文句言うかもしれないから、先行って俺が少し遅くなるって伝えてくれない?」
「「で、でも…………」」
今日の俺は、洸くんの方。だから二人が棚山のことを嫌っているなんて知らない設定だ。だから俺は躊躇なく頼んだ。
「逃げたと思われて不戦勝にされるのは困る、夏帆をあんな奴に渡したくないんだ……だから、頼む……」
そう言ってお願いすると、
「う、うん……わかった」
「了解……夏帆がかかってるもんね……」
「じゃあ、私はどうすればいい?」
先ほどまで黙っていた夏帆が沈黙を破りそう尋ねてきた。
「夏帆は、万一俺が歩けなかった時のために側にいてくれ……」
「うん……」
「じゃあ、私たちは、先に行ってそのことを伝えるからね」
「夏帆、洸くんのことよろしく!」
「う、うん。二人もよろしくね」
「「任せて」」
そう言うと二人は、先に歩いて行った。二人が歩き出すと、俺は歩道の隅の方により、靴を脱いだ。
靴擦れなんて、二人を先に行かせる口実でしかないが靴を脱いで、靴の砂を取った。
「だいじょうぶ?」
夏帆は心配そうに尋ねてきた。それに俺は、
「お前の方こそ、大丈夫か?」
と言った。
「な、なにが?」
彼女は俺の予想外の言葉に意図を読み取ることができない様子でキョトンとして、俺に尋ねてきた。
「お前、さっきから、自分のせいだとか思ってるだろ?」
「違う……違うもん」
「じゃあ、その暗さはなんだよ?」
「負けて悔しいだけ……」
「確かに負けて悔しいのもあるかもしれないけど、一番は、私のせいで負けさせてしまったと思ってることだろ?」
その言葉を聞いた瞬間に彼女が眉がピクリとする。
これは、彼女が市民プールに来てからずっとそうだった。表情はいつもどこか曇っておりソワソワが止まらない。挙句に負けたら自分のせいだと既に自分を責め始めていた。
確かに、教えてもらえなかったことや練習できなかったことは大ダメージであったが、俺は帰った選択を悔いたことなど一度もない。
あの行動が正解だと今でも確信している。
あんなに怯えていた彼女を無理に練習に付き合わせる選択なんてなかった。なによりも俺は彼女を一番に選択した。
だから俺は、彼女がそうやって自分を責めているのを見て逆におかしささえ抱いていた。
負けたからといって彼女が自分を責めるのを俺は許せなかった。
それを言う。
「自分が悪いなんて思うな。俺は勝負よりも夏帆を大切にしたい。あんな状態のお前を無理させたくなかった。これは「練習をしない」という俺の選択なんだから俺がわるいんだよ」
「違う………私が教えなかったから………あの時、泣いたから……」
「一種目くらい負けても問題なんてない。俺は、夏帆が大切なんだ……だからお前は悪くない……」
「でも、圧倒的な強さを示したいんじゃないの?全勝は必須条件だったんじゃ……」
「確かに、俺は全勝したかった。今後棚山が近づかないように……だけど勝負内容では、五番勝負で多く勝った方が勝ちだ。だから後二勝すればなにも問題ない」
「で、でも…………」
「いいか?根本的な話をすれば、泳げなかった俺が悪い。小学校の頃練習すればなにも問題なかった。以上!」
いつまで経ってもラチがあかないと思った。だから俺はこう言った。だいたい元々出来てればこんなことにはならなかったので結果的に俺が悪い。だから夏帆にはなんの問題もない。
「……………」
「なにか、おかしなこと言ったか?」
黙り込む夏帆に俺はそう尋ねた。
「い、い………て………ない」
「聞こえない」
「言ってない!」
「おう、それでいい」
「意味わかんない……」
「なにがだよ?」
「私が落ち込んでてもいいじゃん。なんで嘘までつくの?」
どうやらバレていたらしい。
「士気が落ちるからだよ……」
「どういう意味?」
「だから、夏帆が喝を入れてくれないと俺の士気が下がる……」
「もう、意味わかんない……」
そういう彼女の声は震えていた。
そして、数秒後………
夏帆が俺に抱きついてきた。
ぎゅーとしてから、そのまま、「これで元気注入したから……」と恥ずかしそうにいう。
俺も突然のことで驚いたし、恥ずかしかったが、嬉しかった。
彼女が元に戻ってくれて。俺が頑なに言ったおかげかもしれない。
その後、俺の体から離れた夏帆は、「次は勿論勝てるよね?」と言う。
俺は、「ああ。任せろ!」
と言った。
そして、テニスコートに向かってから一時間が経過した。
「ゲームセット。3ー1。洸の勝利!」
俺は、第三戦目に勝利した。
これで三種目を終えて、2ー1,
勝っているが油断はできないスコアだ。
棚山は試合に負けると、ラケットを投げつけて怒りをあらわににした。
落ち込む男子軍に喜ぶ女子たち。そして、夏帆。
夏帆は笑って「よくやったよ〜〜」と言ってくれた。
笑顔を見せてくれて俺は嬉しかった。
さて、次の種目だが………
「おい、次の種目はサッカーだ。グランドに来い」
やっぱりだ。この種目因縁の対決になりそうだな。
棚山は気付いていないかもしれないが、中学時代、練習試合を組んで俺たちのクラブユースは棚山の中学のサッカー部に6ー2で勝利している。
その時、ハットトリックを決めたのが、当時背番号10の俺。
そして、棚山も1ゴールを決めている。
互いに10番どうし。
中学時代の勝負に終止符をうってやる。
次回は、サッカーです。
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