44 挑戦状
「言ったな?じゃあ勝負しろよ」
俺が瞬時に言ったことで、棚山も同じような調子で言ってきた。
「ああ、勿論だ」
俺も変わらず同じように返事をする。棚山は凄い形相でこちらを睨みつけてくる。俺は依然として冷静な顔をしていたが、内心では思いっきり睨みつけていた。
一触即発ムードである。だがしかしここで夢葉たちが話に割って入る。
「ちょ!孝!それは、よくない!!」
「そうだよ、掠奪なんてよくない!」
「いや、でも俺は好きなんだよ。死ぬほど恥ずかしい思いをして告ったのに、アッサリフラれたんだぞ?宮水って人なら仕方ないと思ってたけど、違う奴じゃねーか!我慢してたけど、もう我慢ならねぇ!」
「でも、それは、さ、さすがに……」
「ほ、ほらっ!人生そんな一途でいられるわけないよ!………夏帆もなんか言ってよ」
「え、えっと………私は」
「夏帆、俺はお前のことが諦められない。だから、この勝負俺が勝ったら………」
この場は完全にカオスな状態になっている。棚山以外の男子たちもあんぐりと口を開けていた。しばらく閉じていないことから知らされていなかったのだろう。
「夏帆………いいだろ?俺もコイツよりも………いや、コイツ以上に…お前を幸せにしてやる。な?夏帆?」
「えっと………」
完全に困惑している夏帆。返答にとても困っている様子だった。
だからこそ、俺はこう言う。
「ああ、いいぞ。お前が勝ったら俺は夏帆と別れる」
そう言った瞬間に、夏帆はこっちを向いてくる。その瞳には、涙が浮かび上がってくる。
悪い……またこんなに心配させるようなことを言って。
だが、これは俺がやらなければならないことだ。
これに勝って夏帆の隣に相応しい男だと陽キャの棚山に認められて初めて俺は、改めて、この思いを伝えられる気がする。
今度こそ……
「ああ、わかった。じゃあ、それで決定な」
棚山は満足したのか、ニヤリと笑みを浮かべた。
夏帆は相変わらず、俺の方を向いて瞳に涙を浮かべてる。繋いだ手は、少し震えていて、握る力は強くなっている。
怒りなのか、不安なのか、戸惑いなのか。
この時の夏帆の感情は分からなかった。
どんな言葉をかければいいのだろう。全然分からなかった。
だから、今自分が思っていることをそのまま伝えた。
「心配するな。絶対負けない」
大きな声で言ったわけではない。夏帆だけに聞こえるような声音でポツリと言うと、より一層手を強く握ってきた。
これがどういうサインなのかは、わからない。
だけど、今の言葉は伝えた。
突発的な考え、こういうことは言えるのに、大事な場所だけすごく入念に考えたことが言えないのが本当に、苛だたしい。
しかし、過ぎたことである。今は今のことを解決するまでだ。
「勝負内容はどうするんだよ?」
俺は棚山にそう尋ねた。勝負すると言ってもするとしか言ってなく、内容、時間、場所など、何も決めていなかった。
「勝負は、五番勝負だ。5競技をしてどちらが多く勝てるかそれで決める」
「わかった。その種目は?」
「サッカー、水泳、バスケ、テニス、、野球だな?どうだ?」
これぞまさに陽キャのスポーツだ。
「ああ、別にいいぞ。それじゃあ、いつにするんだよ?」
「7月12日の日曜日。この日は部活がない。だから1日かけて、勝負をする。」
「ああ、わかった」
「負けねぇからな」
「俺も負けるわけにはいかない」
その会話が最後であった。のちに、電車に乗って帰ったが、グループの空気は最悪で誰も会話をしなかった。
俺は夏帆を家に送るために、夏帆の家の最寄り駅まで一緒に電車に乗った。
そして、降りると、夏帆を家まで送っていく。その道中も会話はなく。本当に気まずい雰囲気であった。
なにか話題を考えなければならない。そう思い、考えていると、
「今日は色々大変だったね……」
夏帆が話し始めた。
「ああ、そうだな」
「なんかゴメンね……」
突然夏帆が謝った。
「なんでだ?謝る理由なんてないだろ?」
「いいや、あるよ。観覧車で困らせたし……それに、棚山のことも………ゴメンね?私、昔あんな断り方をしたからこんなことになって…………そのせいで……洸夜が棚山と勝負することになって……」
「ああ、別にいいんだ。一回鼻をへし折りたいからな」
「ホントにゴメン………負けても気にしなくていいよ……全部私のせいだから……」
夏帆は明るい声音でそんなことを言うが、
なんでそんなに涙流してんだよ。
すすり泣くような声を聞いて隣を見ると、夏帆は涙を流していた。
「はあ……小学生時代の初恋を引き合いに出すからこんなことに…………おかげで今の関係が崩れちゃうよ……」
これは、後悔なのだろうか?
夏帆は、まだ、明るく振舞おうとしている。それなのに、身体は正直で涙が止まらない。
無理しているのが、他人の俺でもよくわかった。
「負けないから………」
「え?……」
「俺はアイツなんかに負けないから……心配するな」
これが今伝えられる最高の言葉だった。
こんなことをしなくても、一言自分の気持ちを伝えて、お前は俺のものだから渡さないとか、そんなベタでカッコいい言葉を言えればよかったのだが……俺には、言えなかった。用意していた言葉が出なかった。
それでも、夏帆は、その言葉を聞くと。うん、と嬉しそうに頷いてくれた。
こんなに彼女を苦しめるなんて………
あと自分がもう少し強ければ、感情を表に出せてれば、早かったら、強引だったら……
こんなことにはならなかったのかもしれない。
だからこそ。
俺は心の中でこう言う。
――夏帆、色々ゴメンな。愛してる。
あと、この章も残り3話くらいです。
次回は、ばあちゃんの誕生日プレゼントを選びに行く月曜日です。
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