表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/70

43 仮カレカノ 友達と遊ぶ フィナーレ








俺は、このシチュエーションを待っていたのか?


狭い空間に、二人だけ。邪魔者はどこにもいない。

伝えるとしたら、あのことを答えるとしたら今しかないんだ。


覚悟はとうの昔にした。


さあ、勇気を出して、自分の本当の気持ちを伝えるんだ。


――愛おしいくてたまらないと






お化け屋敷からどれだけ時間が経過しただろう?体感ではそんなに経過していないように感じる。


しかし、もう夕日が沈み始めていた。


時間が経過していることも忘れて子供の頃のように無邪気に遊んだ。

こんなのは、いつぶりだっただろう。同学年と遊んでこんなに楽しいのは……


しばらく味わったことのない感情は初めてのことのように新鮮だった。

そして、彼女が隣で手を繋いで、笑顔をこちらに見せてくる。


本当に幸せな時間だった。お化け屋敷後のアトラクションもすごく楽しかった。


メルヘンチックなメリーゴーランドも、頭がおかしくなりそうなフリーフォールも。


浮遊感に襲われて吐きそうでも隣で彼女が叫びながら、でも、楽しそうに乗っているところを見て、


あ、やっぱり。俺、こいつのこと好きなんだな。


と思った。明言を避けていたのだが、楽しそうな彼女を見ると、あまりにも脆くぽろっとその言葉が頭に浮かんだのだ。


もう、誤魔化せない。いや、誤魔化さない。


彼女が自分の気持ちを正直に伝えたように、俺も正直になるのだ。


その思いが、強くなった。



更に時間が経ち、遊園地の閉園一時間前になった。


もうあたりは薄暗い。電車で来ていた俺たちはそろそろ解散する時間であった。


しかし、女子三人組は、出口と真反対の方向へ進んでいく。俺も引っ張られるようについて行った。


何をしたいんだろう。もう閉園一時間前なのに。


尋ねたいところであったが、彼女たちが小走りをしているのだ。とても急いでいる様子でそんなことを聞ける雰囲気ではなかった。


しばらく小走りを続けた女子たちはある場所の前でいきなり走るのをやめた。


「ついたよ……やっぱり、遊園地といったらフィナーレはあれでしょ!」


そう言って夢葉が指をさした方には観覧車があった。夜が近付いているためなのか、カラフルにライトアップされた観覧車は綺麗だった。


「昼の観覧車もいいんだけど、やっぱり乗るなら夜景がキレイな夜でしょ!」


奈美が相槌をうって言う。


「これも決めてたんだ。私、どうしても、洸くんと観覧車に乗りたくて………」


若干、息を切らしながら夏帆は俺にそう言った。


「そうそう、だから、これは最後に取っておいたんだ。夏帆のお願いだったから」


「へ、へぇ……そうだったのか……」


まさかの観覧車に驚いていたが、夏帆の要望であることを知ってより一層驚いた。


まさか、彼女がそんなことを思っていたなんて。


観覧車は園内から見えていたが、何故か夏帆たちは見向きもしなかったのだ。

あんな代表的なアトラクション、乗らないのが不思議だと思っていたが…………そういうことなんだな。



俺がそんなことを思っていると、夢葉と奈美が、


「じゃあ、私たち先に行くけど……棚山たちは?」


後ろについてきている棚山たちに話し掛けた。


「いや、俺たちはいかない」


観覧車が嫌いなのだろうか?

ジェットコースターのときはそんな素振り見せなかったのだが、棚山たちはこぞってみんな断った。

どういうことかはわからないがここはスルーでいいだろう。


俺自身、今の心境。他人まで構っていられる状況ではないのだ。


夏帆が観覧車に誘う、密室になりたいということだから。そういうことだろう。


「じゃあ、私たちは先に行ってるね〜〜」


といい二人は先に観覧車の乗り場まで向かって行った。

何故一緒に行かない?


もしかしたら乗るゴンドラを離すためか?


彼女たちがそこまで気を使う理由。夏帆はいったい彼女にどういう頼み方をしたのだろう。


それがすごく気になった。しかし、俺は尋ねなかった。いや、尋ねられなかったのだ。



「じゃあ………そろそろ行こ?」


二人が先に向かってから数分後、彼女がそう言った。


「あ、ああ………」


自分でも緊張していたのがよくわかった。それでも、夏帆はいつもと変わらない様子で歩く。


夏帆はもうとうの昔から覚悟してたんだな。

俺もここで……言うしかない。


そう自分に言い聞かせ俺たちは、観覧車に乗った。





微妙に不安定な観覧車は、少しずつでも着実に上に上がっていく。


久々に乗る観覧車は、やっぱり高くて、所々ガタンガタン微妙に揺れて非常に不安定さがあった。


しかし、懐かしさもある。幼少期に乗った時と全く変わらない揺れ、高さ。昔、乗った観覧車ととても一致している箇所が多くあり、自然に昔のことを思い出していた。



そういや、昔も誰かとこんなことしてたなぁ。


遠い昔、とは言っても小学生の頃だが、女子と二人で遊園地に観覧車を乗りに来たことがある。


その時もその女の子は俺の隣ではなく、向かい側に座っていた。

その女の子が今の夏帆と重なっている。


全く持って同じことをしていたのだ。


こちらの方を向いて、ニコニコしている。まるで、俺が怖がるのを見たいと言わんばかりに。


「どうしたんだ?」


と俺は彼女に尋ねた。だって、夏帆が何故笑っているか不思議だった。普通はもっと気まずい雰囲気になるものではないか?


そう思っていた俺からすると、これはあまりにも予想外。全然、場の空気は悪くないのである。


「いや、洸夜がいつ怖がるかと思って……」


「観覧車なんてジェットコースターと違うからそんな問題はないぞ……至って普通だ。下だって見れるしな」


「それは、夜だからでしょ?」


クスクスと笑いながら話す、夏帆に俺は違和感を感じていた。

てっきり告白の返事を聞きたくて、この場を設けたと思っていたのだが、そんな素振りもなければ緊張した様子でもない。


なら、いったい何故?


俺は、夏帆の心情がわからなかった。


けれど、俺には、もう関係ない。夏帆が今、求めてなくても俺は言うのだ。こんなベタなシチュエーションじゃなきゃ俺はとてもダメだ。


だから、俺は言う。


一回軽く深呼吸して、俺が言葉に出そうとする瞬間と観覧車が頂点に達した瞬間が同じであった。


「あのな、夏帆、あのことなんだけど――」


ヒュ〜〜〜ドカーン!



大きな音を立てて散る色彩。それは花火であった。


俺は状況を把握出来ずに途中で言葉が止まってしまった。


「ね?実は、これを見て欲しかったんだ。だから、二人に頼んだの」


花火が散った後、夏帆はこっちを向いて、そう言った。


「花火が見たかったのか?」


「うん、日頃色々とお世話になってるし、洸夜も花火好きかと思って……だから時間とか色々計算して一番のタイミングで、一番の景色から見て欲しかったの」


「そ、そうか……」


俺はそれしか、言葉にできなかった。


「うん、そうなの。洸夜と花火を見たって思い出を作りたくて。洸夜………大好きだよ」


彼女はそう言うとニコッと笑った。



ああ、なんで彼女はいとも簡単に感情を言葉に出せるのだろう。

そんなこと、俺だって……わかってるし……俺だってそうだ。


しかし、俺の声はもう出せなくなっている。あれだけの覚悟を持っていたはずなのに、俺は言えずじまいなのか?


これだけのシチュエーションをお膳立てしてもらって何もできないのか?


返事はわかっているのに、何故か俺は怯えている。

自分でも今の状況を説明しろと言われたら無理だ。


本当に意味がわからない。言うと決めていた言葉でさえもこの一瞬で消え去り、俺の脳内には真っ暗な暗黒の闇。


なにも考えられずなにも言えなかった。


すると、そんな様子を見ていた夏帆が、


「ゴメンね……こんなシチュエーションにしちゃって………答え出さなきゃって焦ってるんだよね?」


違う、それは違うんだ。もう答えは決まっている。


テスト週間の時から、ばあちゃんと電話した時から、テスト返却でそれは確定してあとは、俺が返すだけなんだ。


だから、謝らないでくれ…………


脳内で瞬時にそれだけ言えるのに、何故か言葉には表せられない。

長年の会話不足のせいだろうか?

ここに来て、こんな大事なところで………


ここでなにも言わなければ、彼女を傷つけることになるのに……


そんなことを思っていても口は開かなかった。


「返事は待ってるよ?ちゃんと待ってるから……」



そう言った彼女が少し悲しそうだったのが、瞳から離れない。


俺のせいだ。


伝えるだけなのに………


ただ一言言えればいいだけなのに……この言えない原因がただの羞恥心なら俺は、自分を殴りたい。

プライドのために傷つけるなんて俺の主義に反している。自分に怒りが湧いて仕方なかった。



観覧車から降りた時に、彼女から「最高の思い出になったね!」と言われた。俺は、頷いていたが、俺は人生で一番、俺のことが嫌いになった瞬間だった。



そのまま俺たちは、遊園地から出た。

もう時計の針は、八時を過ぎている。



遊園地のバス停に向かおうとしている時、突然、後ろにいた棚山が声を出した。


「夏帆、ちょっと待ってくれ。」


「え?な、なに?」


突然名前を呼ばれた、夏帆は驚きつつも棚山に答えた。


「あのさ……今日一日一緒に遊園地いてはっきりした。俺、お前のことが好きだ。だから付き合ってほしい」


「え、えっーと。」


「彼氏がいるのは、わかっている。だけど、俺はお前が好きだ」


「おい、それはちょっと」


俺が割って入ろうとすると、棚山は続けていう。


「俺は中学の時、夏帆に同じように、告った。そして、フラれた。理由はなんだと思う?夏帆はこう言ったんだ『私は宮水くんが好きだから、その人と付き合っていずれ結婚したい、だから無理です』って、なのになんでお前は、違う奴と付き合ったんだよ?おかしいだろ?」


「そ、それは……」


「だから、宮水ってやつじゃなくてもいいってことだよなぁ?電車で聞いた、こいつの好きなところも俺だって十分クリアしてるだろ?だから、おい、川幡だったか?俺と勝負しろ、そして、俺が勝ったら夏帆を俺に譲れ」


彼女の気持ちなんて考えない棚山は俺に向かってそう言ったのだ。

みんな呆気にとられて、言葉が出ていない。

しかし、俺は間髪いれずこう言った。


「奪ってみれるもんならやってみろや」


自分の気持ちもロクに伝えられないくせにこんなこと言うなんて、ズルイ以外何者でもないが、俺はいい人間じゃないんだ。


俺は彼女に自分の気持ちを伝えるまで………


もし、その時まで彼女が、俺を選んでくれるなら、手放すつもりなど毛頭ない。

この話は、とても悩みました。

無難なところならここで告って終わりにしたかったんですけど、洸夜の面倒さを考えたらこんなテンプレ通りにはいかないなって思えて……

それで、今回はこうしました。面倒ですみません


賛否両論あると思いますが、暖かく見守っていただけると有り難いです。


ブックマーク、評価、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ