4 連絡手段は確保するべきです
あれから本当によく働かさせられた。
俺、生徒会役員じゃないのに………
役員の二倍の仕事量をこなしている気がする。
結局、執務室では今日の分が終わらず今は喫茶店で資料を作成、確認している。
側にあるのはブラックコーヒーのショート。
二百十円。痛いなぁ……
お財布が若干軽くなってしまうが、場所を提供してもられるのなら致し方ない。
今は、六時四五分。
あと十五分ほどで、西条がここの店の前にやってくる。その前になんとか、仕事を終わらせたい。
それとこのブラックを飲んでしまわなければ………
注文して手元にコーヒーが来てから約一時間。
もうすっかり冷え切っている。アイスコーヒーにはなっていないが湯気などもう出ない。
うん……冷え切っているけど……意外においしいなぁ……常連になりそう……
ノートパソコンを見ながら、コーヒーを呷る。
ゆっくりカップを下ろすと、店員さんと目が合った。
昨日の店員さんだ。目を向けるとプイッと目をそらす。
俺……そんなに目を合わせられたくないのかなぁ……もしかして長く居座り過ぎたか?
沢山の思案が頭をよぎるが、店員の意図の確信に迫ることは出来なかった。
取り敢えず、今は目の前にある資料を片付けないといけない。
ったく……なんで大事な行事の企画書の目通しを俺がやんなきゃなんだよ……これ、めちゃめちゃ大事なヤツじゃん。
今、眺めている資料は文化祭の企画書だ。
副会長が制作し、俺が目を通している。会長はあと何をするんでしょうか?こんな最重要資料を俺に手渡すくらいだからもっと重要なものを処理しているに違いない。うん、きっとそうだ。そうに違いない(思考放棄)
かなり頑張り資料をまとめていると店内に七時を知らせる音楽が流れた。
西洋風のこの音楽は店の趣と合っていて聞いていてとても心地よかった。
もう、七時か……西条さんは?いらしたかな?
ノートパソコンを閉じ、窓の外の方を見る。しかし、店前に女子高生の姿は見えない。
どうやらまだ来ていないようだ。もう少し仕事をしよう……と再びノートパソコンを開こうとしたら、
「あの……お客様。そろそろ、よろしいでしょうか?既に一時間ほど何も注文されていないので……もうすぐ混みますので……」
店員さんは核心をついてこない。
しかし、訳すとこうだ。
あなたは一時間近くなにも注文していないで、場所ばっかり使っているからそろそろ帰れ!
ふむ。我ながらひどい言われようだ。(被害妄想激しめ)
もうここで仕事をすることは不可能そうなので、今日は大人しく店員さんの言うことを聞いて店を出ることにした。
「二百十円です。それと、個人的に居座り代五百円です。」
「え?なんですか?それ?」
「だから、居座り代です」
「初耳なんですけど……」
「一杯しか飲んでいないのにあんなに居座ったので当然です」
店員の女性は、そう言って俺に視線を向ける。
わかる、俺にはわかるぞ。これ、払えよ払えよ、絶対に払えよの目だ。
しかし、そんなのは払わないし払う金もない。財布が軽いんだ。勘弁してくれ。
「当然なんですか?」
「はい、なんたって一杯しか飲んでないじゃないですか!沢山注文していたらそれはナシでもいいんですけど……」
店員さんは負けない。どうやってでも俺から居座り代という意味わからないお金をせしめようとしている。
「因みに、その代金は店の売り上げに加算されるんですか?」
「は?そんなの、私のふとこ……もちろん!店の募金として受け取ります」
これ、絶対嘘だ。見ればわかる。目が泳いでる。大学生は懐が寂しいのか……だが、俺もそれは同じ。なので、
「いやぁ……あのコーヒーとっても美味しくて味わって飲んでたんですよ」
適当な理由をつけることにした。しかしコーヒーはとっても美味しかったので嘘ではない。
「へ?そ、そうなんですか?」
「はい、毎日飲みたいくらいです」
「ほ、ほへ?……、まいにちぃ?………」
明らかに店員さんが照れている。その頰は紅い。
「そうです。毎日です。今日ちょっと懐が寂しく……明日も来たいので……今日は、ショートだけでいいですか?」
「は、はい。もちろんです。ありがとうございます。あれ、私が入れたんです。店長からあのお客さんならどうせ不味くてもクレームいれなさそうだから淹れてもいいと言ってくれて」
笑顔でそう言う店員さんだが、俺からしたらたまったもんじゃない。
おい!今すぐ店長出せ!
美味しかったからいいけど、そうやって根暗そうでクレーム入れない男子高校生を実験台にするな!次やったらクレーム入れてやるからな!(そんな自信ない)
「とっても美味しかったです」
「本当ですか?今日が初めてだったので嬉しいです」
「また明日も来ますね」
「はい、またのお越しを凄くお待ちしています!」
二百十円を払ったはずなのに、しっかりと正当な金額を払ったはずなのに……なんだこの背徳感は……
なんだか金額をまけてもらったようで後味が悪い。
しかし……あのコーヒーと店員さんのスマイルは素敵だった。明日休日だからお見舞いの約束があるのか微妙だが約束したので取り敢えず明日も通おう。
今ここにこの店の常連さんが一人増えたのであった。
○
ヤバっ!意外に時間かかっちゃった!
今、私は遅刻寸前。乗車した電車が駅に到着すると電車から勢いよく飛び出した。そのせいで客の注目を集める。しかし約束の時間が迫っている。
腕時計を見ると針は六時五十八分。
ホントに遅刻しちゃうよ!初日から遅刻なんて幡川になんて言われるか……
きっと、くどくど言われるに決まっている。だから遅刻なんて……
Suicaを手に持ち改札口に迫る。しかし、目の前には多くの人。
もうっ!なんでこんな時に!
急いでいない時空いているくせして急いでいる時に限って混雑している。しかし、仕方ない。今は帰宅ラッシュ。混雑するのも当たり前なのだ。
長蛇の列に並んでいると、駅に七時を報せる音楽が流れた。
ああ!遅刻決定だ!
きっともう彼は待っているであろう。幡川に謝るのは癪だが仕方ない。その後もしばらく待って私が改札口を出たのは七時五分だった。
全くなんで改札口が2ヶ所しかないの?あと、Suicaの金額先に入れておけばいいに……
こんなに時間が掛かったのは、トラブルがあったからだ。七十代くらいのお爺さんが必死にSuicaをタップしているが、金額不足で通れない。それをお爺さんは理解していないから何回もSuicaを叩きつけるのだ。後ろにいる人が教えてあげればいいのに、面白がって教えない。
結局駅員さんが駆けつけ騒動は収まった。そのお陰で五分の遅刻である。
もう、先に行っている可能性だってある。どうしよう昨日の相談を幡川が覚えているのかすら不安になってきた。
今日も清々しいほどボッチしてたし……
私はそんな心配をしながら約束のカフェの前に向かった。
喫茶店の前まで行くと幡川の姿はない。やっぱり先行っちゃったのかな……私が昨日言ったこと忘れたのかなぁ……
そう思いスマホを取り出して連絡をしようとすると、
「あ、そういえば、幡川の番号だけ知らない……」
クラスグループはあるのだが、幡川だけ入っていない。別に入れたくない訳ではないのだが、誰も彼の番号を知らないのだ。故に招待できない。
前、クラスのオタク男子が聞いてみたらしいけど、
たとえ、教えたとして何か俺に用事ある?
と言われたらしい。側から見たら最低野郎だけど、これも貧乏性のせいだと考えた方がいい。
きっと最低限の人としかやっていないのだろう。
でも、一緒に老人ホームに行かなければいけなくなった以上、連絡手段は必須である。
私が頼んだら教えてくれるかなぁ……
そんなことを考えながら、喫茶店の前で待っていると、
チリンチリンとベルの音が鳴りお店から人が出てきた。
喫茶店の入り口の前に立っていた私が避けようとすると、
「西条……いたのか……」
と背後から声がする。
「えっ!?幡川!!」
驚いた。なんでなんでなんで!?なんで喫茶店から出てくるの?
「お、おう……どうかした?」
「え、えっとあの……遅刻してゴメン……」
私は謝った。
「あ?……遅刻?……えーっと。気にしてないから」
幡川はそう言った。予想外である。もっとぐちぐち言うと思っていたのに……
「え?意外……文句しか出てこないかと思った」
「……俺がそんなに文句を言うタチに見えるか?」
幡川は若干呆れた感じで私を見つめる。
「い、いや。でもかなり遅刻したし………」
「したかもしれないけど、俺はそんなに気にしてないから大丈夫」
「そう?」
幡川って意外に優しい………
私は不覚にも陰キャメガネにそう思ってしまった。
「じゃあ、揃ったし、行くか。」
幡川がそう言って歩き出す。
「ちょっと待って!」
「なに?どうした?」
私が止めると幡川は振り返り私に問う。
ほら、あれを頼まなきゃ。あれ?なんで緊張してんの?陰キャに聞くのが恥ずかしいから?
胸の鼓動が早くなる。そう言えば私から連絡先を聞くなんてしたことなかった。みんな、私に聞いてきたから私から言ったことがない。
だからこんなにも緊張してるんだ。
暫く黙り込んでいると、幡川がこっちに歩いてくる。
「えっと、どうした?」
黙り込んでいる私を不思議そうに見つめる幡川。そんなに覗き込まないでほしい。俯いてしまう。
私が恥ずかしい。連絡先聞くの初めてなのに……
「西条?大丈夫か?」
ふと近くで声が聞こえ私は咄嗟に顔を上げた。すると、意外に近くでびっくりした。
「うわっ!!ちかい!離れてキモい!」
「なんで、そんな言われよう……」
幡川の表情は固まっている。でも少しすると元に戻って、
「西条。お前なんか昨日と違うぞ?なにかあったか?」
と鋭いところをついてきた。
「……いやぁ……」
と誤魔化すように返すと。
「遅刻で申し訳なく思っているならもうホントに大丈夫だから。西条が違うとなんか、こっちまでぞっとする」
と言ってきた。
えっと、これは元気付けてくれたと受け取っていいのか?それとも喧嘩を売っているのか?
よくわからんが、幡川如きに緊張するのもバカバカしくなってきた。
「幡川。今日みたいになると困るから連絡先教えて?」
私は緊張することなくあくまで自然体に尋ねた。
「ああ、そうだな。西条なら仕方ないか……」
とそう言ってスマホを取り出した。
「え?教えてくれるの?」
私は驚いた。また意味わかんないことを言うと思ったから。
「その、人間を見ているようじゃない目を向けるのをやめろ」
幡川がスマホをいじりながらそう言った。自覚してなかったが、どうやら幡川のことを虫以下としか思っていなかったらしい。
「……意外。前にオタク君が聞いた時は、メリットがないとか言ってたんでしょ?」
「そんなひどいことは言った覚えないけど、本心ではそう思ってたな……」
「最低……」
ここにいる知り合いは幡川だけ。幸いなことにオタク君がいなかったのでよかった。いたら泣いて発狂してたと思う。色々な意味で安堵した。
「じゃあ、QRコード。」
そう言って幡川がスマホをこちらに向けてきた。
「……うん」
私は、それを読み込む。そうすると、お友達のところに幡川洸夜が追加されていた。
「じゃあ、これでいいな」
そう言ってスマホを閉じる幡川。ホントにスマホを最低限しか使わないやつを初めて見た。これ多分、ガラケーでも生活できるやつだ。
私は、少し感心した。現代社会にこんな人がいるとは……
「じゃあ、クラスグループに招待しようか?」
「いや、それはいい」
私がそう提案すると幡川は断る。
「え?なんで?」
幡川がわからない。入りたくないのかな?
「俺は、スマホを最低限しか使わないようにしてるからな。クラスグループなんて入ったら通知オフにしてないと多分煩くて生活できない」
「でも、クラスの用事とか全部それにながされるし……」
「今まで不便じゃなかったから、多分大丈夫。それに俺ボッチだしな」
この男はボッチを誇っているようだ。呆れるしかない。
「じゃあ、ホントにまずい時は私が教える」
「あれ?いつも「あたし」なのに、今日は私なんだな」
幡川がこう言ったことで気が付いた。いつもは少しでも明るくやつだと見せるようにあたしと言っていたがつい素が出てしまった。実際、あたしと私は一文字違いだが、あたしの方が友達のウケが良かったのでそうしている。
「いつも家ではこれ。学校だとよく見せてるだけ。」
誤魔化そうと思ったが幡川相手に誤魔化すのがバカバカしくなった。別に幡川はそんなこと気にしていないだろうし……
「西条って大変だな……」
何故だか同情されてしまった。
「同情なんてどうでもいいから、とにかく私がどうしてもやばい時は言うから」
「やっぱり、西条いいやつだな」
ふと、幡川がこう言った。
「は?口説いてんの?まじやめて、キモい。」
「そんなつもりじゃないけど……」
口ではこう言ったが本当は照れくさかった。ホントに唐突にこういうこと言って、
ホント、この陰キャメガネ嫌いだ。
是非ブックマークよろしくおねがいします!