35 祖母との通話
テストからちょうど一週間前。
その日は、いつも通りに学校生活をして、放課後すぐに、家に帰宅した。
放課後に生徒会がある予定だったのだが、昼休みにやることにしたので、放課後は直行で家だ。今日はバイトも休み、本気で勉強した。
時計の針が20時を指した時、ようやくひと段落ついた。椅子に座った状態で両手を上にあげ軽く背伸びをした。知らないうちにかなり猫背になっていた。伸びると背骨がボキボキとなった。
カルシウム不足なわけではない。牛乳大好き。
ひと段落ついたので、ふと外を見上げるともう真っ暗。流石に六月でも20時では暗くなったか。そんなことを思いながら、窓の方へ行き、外の風にあたる。
やはり梅雨時が近いのか、ジメジメと生暖かい風が吹いていた。
風にあたりながら外を眺め黄昏れる。この部屋が少し上の階だということもあり、ある程度遠くまで景色が見渡せた。街の街灯が点々とひかり、とてもいい眺めだった。
しばらく風に当たっていると、ある事を思い出した。
「あ、そういや、ばあちゃんにしばらく電話してないな」
このテスト期間は、テスト勉強に専念するということで老人ホームには行っていない。俺も夏帆も各々テスト勉強をしていた。
その間、会えていないのでそろそろ気になるところだった。それに、七月二日。その日はばあちゃんの誕生日である。
プレゼントを内緒で用意してもいいが、俺はプレゼントのセンスがないことに定評のある男だ。
だから、一人で隠して用意する――そんなことは絶対しない。
俺はスマホを取り出し、ばあちゃんに電話をかける。プルプルと発信音が数回したのち、「はい」とばあちゃんが電話に出た。
「あ、もしもし?俺、俺だよ?」
「あ?聞こえんなぁ、俺ってだれじゃ?」
「俺、俺だよ、俺。ばあちゃん。」
「む?まさか?オレオレ詐偽って人かの?あいにくだが、お前に渡す金はない」
「マジメに貴女の孫です。洸夜です」
「お?洸夜か!洸夜ならそう言え」
「いや、流石に声でわかるだろ……」
「いーや。最近の機械は発展しとる、声なんてチョチョイのチョイじゃからな」
「まあ、危機感を常に持っているのはいいことだけど……」
家族にオレオレ詐偽と間違われるほど悲しいことはない。俺はそう思った。
「で、なんの用じゃ?」
「いや、しばらく会えてないから、大丈夫かと思って……」
「なんじゃ心配してくれるのかの?」
「そりゃ、ばあちゃんだし……」
「そういうことなら安心せい、たまに腹痛と言ったらいいのかわからんが腹が痛い以外なんともない」
「いや、それ、なんともあるでしょ……」
「心配するな、たまの腹痛なんて誰にでもある。」
「ま、まぁ、気を付けて……」
「おう……まかせろ」
「あと……」
「なんじゃ?」
ばあちゃんの体調がそんなに問題がないことを確認し終わった俺はもう一つのことを尋ねる。
「七月二日誕生日だから、なんか欲しいものない?」
「欲しいものかの?要らないものなら歳ってもんがあるが……」
「歳なんて誰もが一年に一回貰うもんだから仕方ない……要らないものじゃなくて、欲しいのものだよ」
「欲しいものかの?」
「うん」
すると、ばあちゃんはうーん。と言いながら悩み始めた。古典的な悩み方である。
しばらく悩むと、何か思いついたようで、
「洸夜の彼女かの?」
と言った。
「マジメに言ってくれ……」
あくまで俺は冷静に受け答える。これが初めてではないからだ。
「至ってマジメじゃよ。わしは死ぬ前に、洸夜の彼女、できれば嫁さんが見てみたい。」
「なんだそれ……」
俺はポツリと言った。それがばあちゃんが本当に欲しいものなのか?
いいや、これはからかってるだけだ。だって、中学生の時も同じようなこと言われた事があるから。
「ほらほら、からかってないで……欲しいものは?」
「なんでもいいぞ」
ばあちゃんは悩む様子なく、すぐにそう言った。
「え?」
「だからなんでもいいと言っておる。わしは、洸夜からプレゼントがもらえる。祝ってもらえるだけで充分じゃ。」
「でも……」
「いいか?お前のセンスのなさはわしがよぉーくわかっておる。ベタなやつでもいい。わかったか?」
「そ、そっか……」
「おう、洸夜に任せる!」
「わかった。」
プレゼントは俺が選ぶことになった。少し、いや、途轍もなく不安だが、頑張ろう。
「ほら、テスト勉強の途中じゃろ?いいのか?」
「ああ、そうだった……じゃあ、テストの結果が出たら報告に行く。」
「楽しみにしとるぞ、絶対一位じゃぞ!」
「う、うん……」
「それと、こんな話、テスト期間にしていいのもか悩んだが……」
「な、なに?」
「お前、夏帆さんといると、すごい表情が豊かじゃぞ。いいご縁じゃな。大切にしろ」
「ああ、わかった……」
ばあちゃんがそんなことを言うなんて正直思ってもみなかったが、俺は取り敢えず返事をした。
「じゃあの、頑張れよ」とばあちゃんは一言言うと、電話を切った。
俺は、スマホを自分のズボンのポケットに入れた。
そして、再び外の風に当たる。
俺、夏帆といる時、表情豊かなのか………ご縁を大切に……
しばらくして、俺は窓を開けたまま、また勉強机に戻った。
何故だか、今日はすごく暑い。少し電気代がかかるが扇風機をかけて寝るとしよう。
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