28 誕生会が始まる
私は、老人ホームに向かっている。
部活がテスト期間のため中止になっているので、以前と違い、辺りはまだ明るい。
日は沈んでおらず、茜色の空の下、老人ホームに向かっている。六月の風は、夏が近づいているのもあり生暖かく感じた。梅雨明けするとこれから、晴れの日が多くなっていく。気温も高くなる。
季節は、明るくなっていくのに、私の心情は真反対だ。
なぜ、こんなに暗くなっているのか……理由はとうの昔から分かっている。気づいている。知っている。
本来なら、ここで解決したかったのだ。それなのに、うまくいかない。
あの紙を渡されたとき、本当に彼の気持ちがわからなくなった。
彼は何を思って、この紙を私に渡したのだろうか?
こんな大切なチャンスを潰してまで、先に行けなどあるだろうか?
もう和解はしないつもりなのか………
それとも他のことをするためにこの機会を捨てたのか
理由は考えれば幾らでも思い付く。
けれど、それを吟味すればするほどわからない。
明るい景色なのに、こんなに心細い。
あの時の道のように感じてしまった。
心中不安で埋め尽くされながら、私は老人ホームまで行った。
○
「夏帆さん、よぉ〜来てくれた。待っとったぞ」
老人ホームに行くと、洸夜のおばあちゃんが出迎えてくれた。
「誕生日プレゼント買ってきてくれて感謝するぞ。加代さんもきっと喜ぶはずじゃ……」
洸夜おばあちゃんは私に頭を下げてお礼を言った。
「いえ………」
軽く笑顔をつくり、答えた。
そして、私は洸夜おばちゃんの後ろにいき車椅子を押した。
「すまんの……」
洸夜おばあちゃんは、申し訳なさそうにお礼を言った。老人ホームの廊下を車椅子を押しながら歩いていく。
「今回は、特別に別の部屋を用意してもらったんじゃ」
「いつもの部屋じゃないんですか?」
「おお、今回は特別にな。洸夜が頼んでくれたんじゃ……」
「洸夜君が………」
初耳だった。いつそんなことをしたんだろう……
「あやつ。わしがお世話になってるから大切なお友達には、しっかりお祝いしたいって言い張ってな」
「そ、そうなんですか………」
「それに、夏帆さんにも世話になってるから、せめてものお返しがしたいって言ってな……」
「…………」
まさか、彼がそんなことを思っているなんて思ってなかった。
「あやつはな………大切な人に、嘘ばかりつくやつなんじゃ……」
「え?」
「都合が悪いと、相手の為に嘘をつく。困らせたくないから誤魔化す………傷つけたくないから自己犠牲にはしる。自分が大切だと思う人に悲しい顔をさせるのが大嫌いなんじゃ……」
「…………」
私は無言で洸夜おばあちゃんの言葉を聞く。
「だから、わしにもよく嘘をついたり誤魔化したりしとったわ。わしはそんなのお見通しだったがの………」
「…………」
「………夏帆さん、もし洸夜がそんなことをしたら誤解しないでほしい。ああ見えてあやつはどこまでも他人しか考えておらん。」
私の方を向き、洸夜おばあちゃんはそう言った。
「はい……」
私は、頷いた。もう少しで涙が出そうであった。
彼がそんな風に思っていてくれるのが嬉しくて。
「あと、あやつと喧嘩をしたら、自分の思うことをそのままガツンと言ってやれ。そうすればなんとかなる………」
どんな理論だろう……
けれど、わからなくもない。
きっと正直であれと言うことなのだろうか。
そんな気がした。
「わしは、今からいつもの部屋に行ってくる。加代さんを見ておくから、部屋の準備頼んでいいかの?」
「はい。任せてください」
「うむ。任せた」
そう言うと、洸夜おばあちゃんは、私に紙を渡した。
「これは?」
「部屋の番号じゃ」
そう言うと一人で車椅子を動かして自分の部屋に向かった。
やっぱり、洸夜と仲直りしたい。
彼の気持ちがわかった気がする。
これまでの行動を考えたらきっと、そうだ。
私は、洸夜おばあちゃんと別れる前にもらった紙を開いた。
『204号室。しっかりやっとくれよ』
とだけ書いてあった。
部屋の番号だけかと思ったら一言メッセージまで、洸夜おばあちゃんは本当にいい人だ。
私は、その紙のとおりに、204号室の部屋の前に行った。
よし、さっさと準備を終わらせて、洸夜を驚かせよう。
そして、今日のうちに絶対に仲直りするんだ。
そうやって扉を開いた。
「…………なんで……?」
部屋を見てみると、完璧な飾り付けが施されていた。
そして、部屋の奥にいる、一人の男。
「洸夜………なんで……?」
まさかの彼がいた。彼は私の姿を確認すると、一言こう言った。
「夏帆、大切な話がある……」
次は、また同じ場面を洸夜と夏帆の目線から書きたいと思います。
二話同時投稿の予定でいますのでよろしくお願いします。




