14 これからは
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あれから俺は、美月さんの家から出て電車に乗り、自分の自宅に帰宅していた。
少し、頭がボーッとする。
さすがに睡眠不足だったか………
昨日まで、十夜漬けだったから疲れていたが今日はまだマシだ。
しかし、疲れは蓄積して簡単にはとれない。
家の前で鍵を取り出し、なんとか鍵穴に差し込み、家に入った。
1日ぶりの家は、全然変わりなく以前のまま。部屋の奥には山積みになった洗濯物。昨日の夜帰ったら畳もうと思っていたやつだ。
取り敢えず、洗濯物を畳む。しかし、なんだか眠気が………
家に帰り、気が抜けたのか眠気が襲う。いつもならカフェイン摂取するのだが、コーヒー淹れる余裕もない。
あれ?俺、こんなところで倒れるのか?
美月さんの手伝いだけでそんな疲れは蓄積してないはずなのに………もしかして自分を誤魔化しすぎたか?
やっぱり、休むべきだっただろうか………
そうすれば、こんな眠気なんておきないはずなのに
倒れて運ばれるのはゴメンだ。絶対ああならないと誓ったはずなのに……なるのか?
また去年のように………
突然の眠気に勝てず俺はゆっくりと目を閉じた。
○○
午後九時前。
私は今、幡川の家の前にいる。
ここが幡川の家………
五階建てのマンション、その最上階。お世辞にも綺麗なマンションとはいえなかった。
やっぱりお金ないんだ………
彼が言っていた無駄遣いをしない主義。
マンションを見ればそれは一目でわかった。私の住んでいるマンションよりも全然古い。
ドアの前に立ち、インターホンを押す。
しかし、返事はなく、ドアが開く様子もない。
えっ………もしかして、家にいないの?
返事がなく戸惑ってしまう。
「おーい!幡川!だいじょうぶ?」
声を掛けてみても返事がない。
どうしたんだろう……もしかして……倒れてるとか?
そう考えると、またもや不安になる。
どうしよう……ドア開けた方がいいかなぁ……
目の前にある幡川の家のドア。ここを開ければ家の中に入れる。
しかし、問題は空いているか?
取り敢えず、開いてみることにした。
ギギィ
音を立てながら、ドアは開く。
「え!?あ、あいちゃったぁ!?!」
これまた予想外。まさか、本当に開いてしまうとは、思ってもみなかった。
一瞬、呆気にとられてしまったが、時間がない。
私は幡川の部屋に入る。
部屋の中は質素と言うのが相応しいほど物が何もない。
最低限の家電しか置かれていない。食器にしてもそうだ。食器棚が空っぽに近いほど皿が少ない。しかし、唯一ぎっしりと物が入っているのがあった。
それは本棚。
本棚には勉学の教材がぎっしりと詰まっていた。使い古され彼がどれだけ勉強をしていたのか一目でわかる。
きっと彼は、どこまでも真面目なんだろう。
部屋の奥に進んで行くと、山積みになった洗濯物がある。きっと彼のだ。そして、その近くに人が横になっている。
――幡川だ。
私は、彼を見つけると、すぐに駆け寄った。そして、身体を揺する。
「幡川!だいじょうぶ?幡川ぁ!!」
何度か揺すると幡川が目を開けた。
「ん………おまえ……だれっ………って!!西条!?なんでここにいんだよ!!?」
彼は私を見て、目を見開く。明らかに驚いている。そんな表情だった。
「鍵が開いたから、入っただけ………」
「立派な不法侵入だな……」
「おばあさんの許可は取ってある。」
「なんでだよ………って!どうやって、俺の家を?」
「おばあさんからに頼んだら教えてくれた………」
「個人情報とはいったい………」
「………とにかく、大丈夫なの?」
「あ、あぁ、問題ない。少し睡眠不足で寝坊してしまっただけだ」
「よ、よかった……」
幡川の無事を確認すると涙が流れてしまった。
「おっ、おい?だいじょうぶか?」
幡川は慌てている。
「いや、だいじょうぶ。少し……いや、心配してたから……」
「そんな心配されることじゃな――」
「そんなことない!!疲れてたのは知ってるから!!それに、去年だって……」
「………ばあちゃんから聞いたのか?」
「うん。だから余計心配で………」
「昔は、無理をし過ぎたんだ。高校生になってバイトができるようになって自分はなんでもできるようにしなきゃって……自分を誤魔化して全てうまくやろうとして………」
「………」
私は必死に彼の言葉を聞く。
「でも……叔父が出張して、ホントの一人になったからまた無理をしてたんかもな………」
彼はゆっくりと言葉を絞り出す。
「ありがとう西条。倒れる前に、来てくれて助かった。きっと、様子を見に来てくれなかったらこの調子で続けてまた倒れたと思う。」
「うん。幡川が無事ならそれでいいよ」
私がそう言うと彼は申し訳なさそうに、
「西条……実はな、今日俺、寝坊したのに出掛けてたんだよ。心配してくれたのに、なんかすまんな、それに今日一緒に行けなかったし……」
「それを言うなら、私こそゴメン。私だってドタキャンして、その上に遊び行って……」
「高校生にとって遊びは大事だろ?お前は俺と違って部活に所属してるんだから、無理もない。」
「でも、私から誘っておいて………」
「もう大丈夫だから………おあいこってことにして……」
「で、でも……」
「同じくドタキャンしたんだから、おあいこでいいだろ。内容とか状況とかどうでもいい。それに怒ったりなんてしなかったしな……」
彼は、微笑み、そう言った。
「ホントにいいの?」
「ああ、問題ない。お互い仲良くドタキャンしたんだ。プラマイゼロだろ?」
「じゃあ、明日は……」
「そ、そうだな。明日は一緒に行こう。」
少し恥ずかしそうに言う幡川。
「いや、ずっと一緒に行くよ」
私は勢いあまってそう言った。そうすると、幡川は一瞬、驚きそして困った顔をして……
「ずっとは無理があるだろ。熱を出したりした時お前を引っ張って連れてったら俺が殴られるからそれは却下だ」
「じゃあどうすれば?」
「なるべく一緒に行くでいいんじゃないか?その方がばあちゃんも喜ぶし……」
顔を赤くしながら恥ずかしそうに言う幡川。
「そうだね。そうしよ」
少し恥ずかしそうにする幡川を初めて見た気がする。
そうする様子を見ると、こっちまで恥ずかしくなる。何か話題を変えようと考えていると、頭の中にアレが浮かんだ。
「ねぇ、昨日さ駅で女の人といるのを見かけたよ?あれって………」
「あ〜、あれか?あれはだな………手伝いをしてたんだよ」
「手伝い?」
彼はバイトの他に手伝いもすることがあるのだろうか?
「それってお金あり?」
「サービス残業だったな」
「へぇ〜意外……」
彼がサービス残業なんて耳を疑ったが、考えてみたら幡川は優しいやつだった。していてもおかしくない。
「その女の人とどんな関係?付き合っているの?」
「まさか、そんなことあるわけないだろ」
「そ、そうだよね」
「あの人は、先輩だ。努力家でとってもいい先輩なんだよ」
「そうなんだ……」
「それで、夜遅くまで手伝いをしてたら、遅くなって翌朝見事に寝坊したんだよ」
「なるほど、寝坊するまでサービス残業なんて幡川らしくないけど、やっぱりいい人だね」
「半ば強制だったけどな……」
幡川に彼女がいない。それを聞いた瞬間、私のモヤモヤが晴れていくような気がした。
「ねぇ、幡川。ホントに彼女はいないの?」
「いないな。こんな人と交際してくれる女がいたら逆に知りたいぐらいだ」
「ふつうに接すれば意外に多いと思うけど……」
「そんな慰めはいらないよ」
「慰めじゃない!!」
私は大声をだして言った。そうすると幡川はビクッとして、
「ど、どうした?」
と私を見てそう言うが、
「あのさ!私、今度から洸夜って呼んでもいい?」
私には関係ない。今、確信した。
私は、多分。幡川……洸夜が好きなんだ!!
最初は、凄く嫌いだった。こんなやつと一緒なんて冗談じゃないと思っていた。
しかし、時間が経過するごとにどんどん気になっていった。
そして、いない時のつまらなさを知った。
何気に優しかったり、大好きな習字の話をなんでもしてくれたり、困ってしまって助けて欲しい時すぐに助けてくれたり、努力する人を馬鹿にしないところだったり。
今知った、自分の大切な時間を他人に使うところだったり。そして、こんな酷いことをした私を笑って許してくれたところだったり。
深く関わるようになってから日は浅いが、十分な内容を歩んできたつもりだ。
「ああ、別に構わないけど……」
彼に下の名前で呼んでいい許可が下りると、
「私のことも夏帆って呼んで!学校では無理しなくていいから!!わかった!!?」
「は、はい。わかりました……」
無理矢理、下の名前で呼ばせて。そして、私が次にすることはひとつだけ。
「じゃあさ、私と、つっ、つっ、つきっ………つきっ、!!」
恥ずかしさと緊張で呂律が崩壊寸前。
それでも私はアレを言う。
「………つぅ、つきぃ、つき、…………つき、…………月見そば食べに行こうよ!!!」
「お、おう。せいじょ……夏帆が食べたいなら行くか。」
幡川がそう言った時、私の言動を理解した。
あ!!やった!やった!やってしまったぁ!!
せっかく勇気を振り絞って言おうと思ったのにぃ〜
悔やむ私だったが、
幡川の言動を思い出す。そして、気づいたことがある!
洸夜が私の下の名前を呼んでくれた。
ずっと西条かお前だったのに!
そう考えると嬉しいのと恥ずかしいのが混じり告白なんて余裕はなかった。
「今日は、バイト休みだから。時間はあるぞ。だけどもう夜だ。それでも行くか?」
洸夜が立ち上がると私に向かってそう言う。
「洸夜の体調は?」
「もうバッチリだ。一応寝たしな」
「じゃあ………連れてって」
私がそう言うと、彼は財布を手に取り、
「あんま高いやつは勘弁な?」
と私に向かってそう言った。
やっぱり二重の意味で彼の主義は変わらない。
そう思った私は自然に笑みがこぼれる。
「何がおかしいんだ?」
「いや?やっぱり洸夜の主義は変わらないと思って……」
「筋金入りだからな」
「褒めてるけど、褒めてない」
「どっちなんだそれ……」
彼の困った表情。それも愛おしい。今回は失敗してしまったが、次こそは、次こそは、成功させてみせる。
私はそう誓った。そして、新たな目標ができた。
――洸夜に私を好きになってもらいたい
どうせなら、愛されたい。
彼の主義は無駄遣いをしない主義。そして、恋愛にはあんまり興味なし。そんな彼に愛されるなんて難しいことは知っているだからこそ、やりがいがある。
学校でアタックしたら嫌われてしまう。だから、学校終わりが攻め時だ。
そこに重点を絞ろう。
彼が家から出ると、私もそれについていく。
そして、彼の腕を掴む。彼は一瞬ビクッとした。
「ど、どうした?せい……夏帆?俺に触れて大丈夫か?」
「当たり前だよ。払ってもらえるんだから!」
今はこうやって言うしかないが、いつか、「好きだから」を理由にしたい。
「なるほどな、納得。ちょっと遠いところ探すから急ぐぞ」
同級生と会わないようにこんな時まで私の配慮をしてくれる。
彼はホントに優しい。
しかし、私は思うところがあった。
「ねぇねぇ、今日はどこに行ってたの?」
そうすると洸夜がビクッとした。
「あ、え、え、えっとな。それはな………そ、そう!あの喫茶店だ」
なんか誤魔化している気がする。これは追求の余地がありそうだ。
私は、それを強く決意した。
そして、私と彼の初デートは、始まった。
これで当初の予定の三分の一が終わりました。
かなり雑なところも多々ありましたが、読んでいただきありがとうございます。
続きを!といきたいところですが、一度考えたいと思います。そして、物語を上手く纏められそうなら書きたいと思います。
何はともあれ、読んでいただきありがとうございました。




