13 君のもとへ
昼休み
授業が終わり、スマホを開いてみるとメールが一件きていた。
幡川からだ。
内容は、
寝坊して学校にこれない……
今日は一緒に行けない。
だった。
なんで??なんで老人ホーム行けないの?寝坊なら大丈夫じゃないの?
なんでかな?
すごく気になった。
もしかしたら、もう行きたくないのかもしれない。
そうだったら、やだ。
それに、今日、謝ろうと思ったのに………
結局、謝れないの?
そんなの、辛いよ………
スッキリしない……このモヤモヤがずっと続くなんて………
今日のお昼の弁当は、美味しいはずなのに、まったく味がしなかった。
○○
午後二時。
俺は、美月さんと研究の真っ最中だった。
旬の果物を使いスイーツを作る。
旬の果物は有名な果物ばかりですぐに新作が出来そうなのだが、これが意外に難しい。
取り敢えず、全部ぶっこめばいいわけではない。
果物には相性があるらしい。
究極を作るためには、相性の良いものを入れなければならないのだ。
それに、スイーツのジャンルだって沢山ある。
ますます悩んでしまう。
「美月さん、これ、今日中に終わりますかね?」
「うっ……う〜ん。うん、うん。」
「返事かどうか全然わからない………俺、今日は六時には帰りますよ。勉強まったくしてないので……」
「え!?まじ?」
「マジですよ……帰りますからね」
「じゃ、それまでよろしく……」
あと四時間、美月さんのために必死に頑張ろう。
俺は、そう思い、フルーツをカットし始めたのだった。
○○○
午後七時。
私は一人で、老人ホームに向かっていた。
一人というのは初めてで味わったことない心細さが心中を襲う。
まさか、こんな心境になるとは………
まだ、通い始めてから一週間未満。
決して通い慣れた道ではなかった。
心細く老人ホームまで行くと、受付のお姉さんが出迎えてくれた。
「あれ?今日は夏帆ちゃんだけ?」
「はい……」
「洸夜くんは?」
「今日は来ないらしいです……」
「そっか、二人で来ると、おばあさんたちも喜ぶよ?」
「………はい」
「元気ないの?」
お姉さんが私にそう声をかけた。
「え?いや、別にそんなことは……」
「なんか、一昨日と表情が違ったから……」
「昨日、幡川にドタキャンして、その罪悪感があるんです……」
「友達と遊び行ったの?」
「な、なんでそれを?」
「洸夜くんが言ってたよ……西条は、友達を大切にする優しい奴だから誘いを断らないって、俺よりも友達との関係を保つ方が大事だから致し方ないって」
「………そうなんですか」
「よき、理解者だね。洸夜くんは……」
「そうですね……」
まさか、わかっていたなんて………
私は、驚いた。それなのに、気にするなって心が広い……
やっぱりいい人だった。
やっぱり今日のうちに謝っておきたい。私はそんな思いが強くなっていった。
老人ホームの祖母たちの部屋に到着すると、祖母たちは笑顔で迎えてくれた。
「よおきた!夏帆さん。待っとったよ!」
「洸夜くん残念ね………」
「まあ、寝坊なら仕方ないよね……」
「お?そうなのか?具合悪いって連絡きてたがの……」
「えっ、こっちは、寝坊って………」
ここで意見が食い違う。私は、寝坊と聞いていた。それなのに、幡川のおばあさんは具合が悪いと言っている。
どっちがホントなの?
私は焦った。
まさか、幡川が嘘を送ったんじゃないかと思って、
「おかしいのぉ……洸夜は具合が悪いって書いてあったしの……」
「まさか、夏帆のやつは嘘なんじゃないの?」
私の祖母がそう言う。途端私は不安になってきた。
どうしよう………
もしかして、ほんとに具合悪いのかなぁ……
「夏帆さん……頼みがあるんじゃが……」
幡川のおばあさんが私に言った。
「はい、なんでも聞きます」
「洸夜の家に行って様子を見てくれんかの?アヤツ一人暮らしで無理する可能性大なのじゃ、去年みたいになったら笑い事じゃ済まされんしの……」
「去年ですか?」
「ああ、アヤツ。バイトをしてるんじゃが、睡眠を一時間しか取ってなく倒れて救急車に運ばれたんじゃ」
「え!?それ、ホントですか!」
「ああ、紛れもなく事実じゃ。そして、洸夜は休日寝とらん。倒れてもおかしくない」
「私、様子を見に行きます!行かせてください!」
「じゃあ、地図を描くから少し待っておれ……」
五分後、幡川のおばあさんは私に地図を渡してくれた。
私はそれを受け取ると、走り出す。
真っ直ぐ幡川の家に向かって。
「幡川、どうか、ただの寝坊であって!」




