10 お家デートと書いて挑戦状らしい
俺は今、美月さんの家にいる。あのスーパーから出て駅に向かい、下り電車に揺られてること、二駅分。
その駅から徒歩五分のマンションの四階に美月さんの暮らす部屋がある。
部屋に入るとき、美月さんが、
「うっ……部屋に男を連れ込むの初めてで恥ずかしいけど……洸夜くんならいいや……」
とボソッと言ったのだ。それで俺は改めて思った。
俺は女子の部屋に入っていると……
そう考えると変に意識してしまうため、他のことを考えるようにした。
美月さんが、部屋に入るなりエプロンを着けて料理を作り始める。
そのエプロン姿が何故だか色気半端ない。
俺は、なるべく考えないようにして、ノートパソコンを取り出し、生徒会の仕事に取り掛かる。
すると、だんだんいい匂いがしてくる。どうやら、美月さんはお約束の人ではないらしい。
料理ができるのは本当だな。俺は安堵する。ここでお約束だったらどう言い逃れしようか考えていたからだ。
十五分ほどで、食卓に見事な料理が並べられた。
「やっぱり、料理できるんですね……」
「いや、まだ、わからないよ?美味しくないかもしれないし……」
そう言ってくる美月さんだが、その瞳は自信に満ちている。
「じゃあ、いただきます……」
俺は、まず最初に味噌汁から飲んでみる。
「………んっ!!おいしい!」
具は、ネギと豆腐だった。シンプルに見えてこれが何気においしい。
「そう?よかったぁ……ほらほら!他もどんどん食べて!」
美月さんに促されるまま、俺は、唐揚げを食べる。
「お!この唐揚げもおいしい!」
「よかったぁ……私が料理上手ってやっとわかった?」
「ハイ、マジでうまいです……完敗です……」
「ふっふっふ!わかればいいのだよ!わかれば!」
美月さんはご機嫌だ。自分で食べておいしい!って言っている。
やっぱり料理系には才能があるらしい。美月さんの料理を食べて確信した。
その後、雑談を交わしながら晩御飯をいただいた。美月さんの料理スキルには本当に驚かされてばかりだった。
その後、俺が洗い物を手伝っていると、隣で
「ね!今日、泊まっていかない?料理の研究手伝ってよ!」
と美月さんが爆弾発言。俺は一瞬固まってしまった。
ちょ、ちょちょ、ちょっと待って!いやいや、ちょしんどい待って!
なんでですかね?俺も流石にここまで予想してなかったよ……
「なんでですか……」
取り敢えず俺は、そう返すことしか出来ない。
「だから、お家デートの続き、一夜漬けで完成させたいし……今日のうちに洸夜くんに美味しいって言ってもらいたいから……これは、私からの挑戦状!」
「なんですかそれ……」
「あれ?最初に言ったけどな……研究をしたいからって……それについて来た時点でもう確定事項だから逃げないで……」
「でも、お風呂入りたいですし……」
俺は必死に言い訳を考える。そうでもしないと本気で泊まらなければならない。あの瞳は、マジでありガチだ。
「風呂ならどうぞ、うちの使って……」
「でも、着替えがないですし……」
「兄が家を出た時にお古を残していったの……それ使って?」
「これってもしかして、逃げる事は不可能ですかね?」
「その通りと答えよう。洸夜くん!今日は付き合ってもらうよ!」
「睡眠は?」
「私も鬼じゃないよ。そこはご心配なく……」
心配だぁ!!
しかし、そんなこと言ったとしても劣勢である事実は揺らがない。もう手遅れだ。諦めるしかない。
そう覚悟した俺は、観念し「わかりました」と美月さんに言った。多分、寝る時間はいつもと変わらなくなる気がする。
○
私は、いつものグループでカラオケに行ってきた。とても盛り上がり楽しいひとときだった。
午後八時くらいに駅で解散し、自分の家に帰宅しようとしていた。
その時、私は見てしまった。幡川が女の人と一緒に歩いているのを………
幡川が買い物袋を持っているから、買い物帰りだろうか?
なんで……だれよ、あの人……
後ろ姿しか見えないが、間違いなく女性。とても楽しそうに幡川と会話している。
もしかして兄妹とか?でも、幡川は一人暮らしって言ってたし……離れて暮らしていた?でも、そうとも考えにくいし………
声を掛けてみようか?でも、あの二人に割り込むのはさすがに気が引けた。
だがしかしその女性が凄く気になるのもまた事実。
ホントに誰なんだろう………凄く気になる……ま、まさか?彼女とか……?
いやいやいや!それは、ない!幡川に限ってそんなこ……と、あんな隠キャに………うっ……
しかし、彼が本当の顔を見せているとしたら……いつもの優しさを彼女に向けているとしたら………
あり得なくはない………
「ま、まあ、決まったわけじゃないし……明日謝って……その後聞いてみよう……」
とにかく、私は、明日謝罪とともにそれとなく聞いてみることにした。
しかし、不安要素もある。幡川が私を軽蔑して無視をする可能性がある。誘った上にドタキャン。我ながら酷いと思う。
普段そんなこと気にしない幡川でも、今度ばかりは怒るかもしれない……
はあ……こんな光景見るくらいなら、一緒に行けばよかったなぁ……
私は、凄く後悔した。
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