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共感性羞恥と問題児先輩の異世界生活  作者: 吉井あお
第1章
7/52

ep.1 理解が出来ないんだ

「おはようございます。」

「あぁ、おはようございます。朝食はどちらで・・・。」

「奥の食堂です。2名様ですね?空いてる席にどうぞ。」


一晩明けて、朝。朝食の仕込みの手伝いをし終えた僕は食事の案内や食器の片付けをする。

アンナは昨日の夕方にはベルハウスへ戻ってしまった。

ミチル先輩は宿泊客に食事を持っていくウェイターとして働いていた。


「お皿、お下げしますね。」

「コーヒーのおかわりを頼む。」

「かしこまりました。少々お待ちください。」


接客は慣れないものの、人の顔を見れば何をして欲しいのか大体の察しはつくのでぼーっと立っている暇がないのはいい。効率よく動けるのは心地がいい。


「ミチル先輩、5番テーブルコーヒー追加で。」

「おう!」


注文を受けた先輩がロバートさんのところへ向かう。キッチンは完全に食堂の裏にあり、僕たちが注文をロバートさんに伝えないといけない。

食堂内をさり気なく見ながら突っ立っていると入口から声が聞こえ出す。


「ママー。ご飯はー?」

「今から食べるんでしょ。」

「おはようございます。4名様でよろしいですか?」

「はい、4人です。」

「こちらのテーブルへどうぞ。朝食セットは4セットで・・・?」

「3セットでお願いします。」

「かしこまりました。」


家族で宿泊しているのか、若い女性と男性、5歳とくらいの男の子と2歳くらいの女の子が食堂へ入ってくる。

僕は何故か嫌な予感がしてならなかった。


「まぁーまぁー!まだぁ?」

「もう、静かにして、他の人に迷惑でしょ?」

「ねぇもう帰ろー。」

「こら、ちゃんと座りなさい。」


男の子の大きな声が静かな食堂に響く。この家族以外にも静かに食事をしているお客さんもいる中で。

僕は恥ずかしくて恥ずかしくて消えてしまいたかった。

まだ5歳くらいの男の子だ。マナーがどうとか、躾がどうとか、言うだけ野暮だ。子供の言動だ。

気にする事は無い。と、思うのに。

周りのお客さんは子供がうるさいなぁ、とか。

母親は教育もまともにできないのか、とか。思っている、思われているのかもしれない。

なんて考えるだけで僕はこの空間が酷く恥ずかしく、消えてしまいたくなる。

子供の無知を笑われているのかもしれない。あぁ、なんて恥ずかしいんだ。

僕が子供の立場で、無知な子供の立場で。母親の、教育のなっていない母親の立場だと考えるだけで、涙が出そうなくらいに恥ずかしい。

僕が周りの客の立場なら、子供がはしゃいでいるだけだ。と考えるのに、それでいいはずなのに。

(恥ずかしい、頼むから、男の子は黙っててくれ・・・)

心臓が痛い。叫び回ってこの湧き上がる感情を蹴散らしたい。

静かな空間で場違いにはしゃぐ男の子から目をそらし、食堂の裏へと向かった。


「3セット、できましたか?」

「あとは盛り付けだけだぜ!ん?どうしたトオル?なんか赤くね?」

「い、いえ、なんでも。」

「ふーん?そういえば、なんか子供いるのか?」

「裏まで聞こえますね、まぁ子供なので多少うるさくても気にしませんが。」

「まーな。ロバートさん!これ持ってくぜー!」

「はい、よろしくね。」

「僕も行きます。」


ミチル先輩は朝食を2セット持ち、家族のテーブルへと向かう。

僕も1セット持ち、後へと続く。逃げ出したくなる気持ちを必死に抑える。


「お待たせ!朝食セットだ!熱いから気をつけてな?」

「わぁ!美味しそう!」

「お待たせしました朝食セットです。」

「ありがとうございます。」


母親はにっこりと笑う。父親は男の子が食べやすいように皿をお盆から出している。

母親は膝に女の子を乗せたまま、父親と皿を交換したりと忙しそうだ。


「お取り皿、おひとつお持ちしましょうか?」

「わぁ、すみません、お願いします!」


僕は食堂の裏へとまた戻っていく。


「へーよくそんな事気づくなトオル。」

「空いた皿を作ろうとしてるように見えたので。ロバートさん!子供用のスプーンとかってあります?」

「デザート用を持っていくといいよ!」

「わかりました。」


僕はデザート用のスプーンと空いた皿を持って再び家族の元へ戻る。

男の子はご飯に夢中ですっかり大人しくなっていた。僕はホッと胸をなでおろす。


「お待たせしました。」

「ありがとう、とても親切ね!」

「いえ、主人のロバートさんが親切なので。」

「とにかく、ありがとね!」


母親は満足そうに娘にご飯を食べさせている。

僕も一難去ったようで安心する。

この家族が宿泊者の最後の組だから、あとは食器を片付けるだけだ。

僕は裏へと戻る。


「いやー、ミチルくんは元気が良くて力もあるから仕事が楽だったよ!」

「まーな!でも、接客はまだ慣れねぇな。トオルの方がよくみんなを見てるしな。」

「トオルくんも何かを言う前に事前にやろうとしてくれるからすごく助かったよ、ありがとう。」

「いえ、もっと役に立てるように頑張ります。」

「じゃあ、お昼までに洗濯物とチェックアウトの部屋の掃除、頼んだよ。」

「はい、わかりました。」

「おう!」


ロバートさんが自室へ戻っていく。僕はまだあの家族とその他お客さんが食べ終えるまで食堂にいよう。


「先輩は掃除と洗濯お願いします。僕食器洗っておくので。」

「なあ、さっき顔赤かったが、風邪とかじゃねぇのか?大丈夫かよお前。」

「っぐ、話を蒸し返さないでください。解決した事なので大丈夫っす。」

「ははーん?さてはトオルのめんどくさいところが出たわけだな?」

「そーですよ、思い出したくないのでこの話は終了です。」

「全く、ソレのスイッチはイマイチわかんねぇな。」


わけがわからないといった顔で掃除をしようと食堂を出ていく先輩。

僕にだって先輩のそこまでして人を助けたいだとか、自分は一番だと信じて疑わない精神はわけがわからない。

お互い様でしょう。と思いながら僕は皿洗いへと戻った。



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