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2.この世界には大きく分けて

この世界には大きく分けて二種類の魔法が存在する。一つめが、魔力を持った本…魔本を利用したものだ。この世界の9割の魔法はこれである。二つめは魔本を介さずに利用できる魔法だ。これは、特定の職業の適性がある者のみが使える魔法で、使い方も限定される。「魔本」造りに携わる者たちは、自身の魔力を本に込め、定着させる技術によって新たな魔本を作成している。

ルーシィやハーディは、「魔本」専門の装丁師だ。通常の装丁師は、本の中身となる紙を守る表紙ーー木の板に動物の皮を張ったものーーに装飾を施すことを主な生業としている。刺繍や金箔が施された表紙は、依頼主の意向と装丁師の技術、センスによって世界で唯一のものが出来上がる。

 だが、魔本の装丁は通常の装丁とはまた別の役割をもつ。魔力を有した本は、そのままだと本の周辺に魔力が流れ出て影響を及ぼす。その為、魔力を本に「定着」させ、「魔本」として保存させるための処置を施さねばならない。その技術を持ち生業としているのが、ルーシィ達「魔本装丁師」だ。




そもそも「魔本」と一口に言っても用途は様々である。「魔力を宿す本」は全て「魔本」に属しているため、基礎的な魔法を学ぶための教本もあれば、町の防衛のために張った結界の要に使ったり、はたまた禁術を施すために使われるものも全て魔本である。魔本がなければ人間は魔法を使えず、魔本なしに使える魔法はそれこそ魔本造りなどごく限られた技術しかない。そのため、魔本を造ること、それを無くさず存続させることが非常に重要になってくる。

 魔力を本に定着させるには、一人が「音」によって本に魔力を抑えこみ、もう一人が「糸」によって固定させる。そのため、魔本の装丁はほとんどが二人一組で行われる。ルーシィとハーディの場合、ルーシィが「歌」によって魔力を抑え、ハーディが「縫う」ことによって魔力を固定させている。魔力の固定が完成すると、その本には魔力による鮮やかな装飾が浮き上がる。それは、装丁に関わった装丁師の魔法属性と、魔本の属性、そして何より、どれだけの技術を持って丹念に魔力を本に定着させたかによって変わる。その技術が高ければ高いほどより細かくより大胆でより複雑な装飾が現れるのだ。




 魔本装丁師は、魔本の装丁の他にも今回のように装丁の綻びを修復することも仕事の一つだ。しかも、自分が装丁した魔本の修復というのはほとんどなく、先人たちの残した魔本を修復することの方が圧倒的に多い。他人の装丁を修復するのだから、通常の装丁よりも複雑な過程を求められるのだ。当然、そこに使う魔力も多くなる。更に、ルーシィとハーディが手がけたのは、かなり強力な魔本の修復だった。通常の装丁師であれば、あそこまで完璧に修繕することも困難であり、修繕中、もしくはその後、魔力及び体力不足でひっくり返ってしまうのが関の山だ。それらのことを鑑みても、修繕後通常通りにふるまえるあの二人がどれだけ桁外れか推して知るべし、である。




「じゃ、私は部屋に戻るから」

その日の夜、まだ外は薄闇に包まれたばかりの、寝るにはまだまだ早い時間。ルーシィは既に休む格好になって、共有スペースにいたハーディに声をかけた。

「ん。いつも通り、ご飯のトレイは廊下に出しといて。後で取りに行く。それと、ちゃんとお守りは身につけてる?」

「もちろんよ。これがなかったら寝るどころじゃないもの」

新月の夜、ルーシィが外出できないのは魔力の暴走が起こるからだ。それは、彼女の意思が全く介在しないもので、治療も何もできるものではない。魔力の暴走が始まると、ルーシィの体は発光を始める。ルーシィ自身も目が開けられない位の強い光だ。だが数年前、そんな彼女を助けようと魔本ギルドの闇属性をもつ装丁師が総出で作った、特製の魔本を傍らに置くことで、光をある程度抑えられるようになったのだ。…ただあくまでも、ルーシィが目を開けていられる程度には、なので当然外出はできない。

それからというもの、その魔本は新月の晩は肌身離さず身に付ける、ルーシィの「お守り」になった。

「あぁ、もう光り出してるよ、ルーシィ」

「わ、まずい。それじゃ、また明日。おやすみハーディ」

ハーディがおやすみ、と返事するのを背中で受け止めながら慌てて自室に戻り、布団に潜り込む。新月の夜はいつもこんな風に早々に床につく。他の家がまだ、夕食の準備をしているような時間に…。鬱々とした気分に首を振って頭から追い出し、光が漏れないように布団を頭から被ると、眠くなるまでの数時間、お気に入りの本をパラパラと捲って過ごした。

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