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序 ─花よりも 心の散るは 仲ノ町─
一度だけ、花魁道中を見たことがある。
あれはたしか二年前、桜が盛りと咲いていたころ。
憎悪と怒りで曇った目には、仲ノ町を道中する花魁はひときわまぶしく映った。
少女のようにあどけなく、可憐な花魁だった。
道々に立てられた誰哉行灯と、鶴の紋が描かれた箱提灯とに照らされた花魁は、顎を上げてゆったりと八文字を踏んでゆく。着飾った禿や新造たちの上にも桜の花びらが絶え間なく舞い散り、夢のように美しかったのをよく覚えている。
あれは、夢だ。
数多の男が理想と欲望と金子とで練り上げた、この世ならざる幻影だ。
──なにが花魁だ、傾城だ。着飾っちゃあいるが、一皮剥けばあたしと同じ女郎じゃねえか
そう、同じだ。
同じ廓という籠に閉じ込められた鳥だ。
ただ綺麗な羽を持っているか、持っていないかという違いだけ──。
殴られ蹴られて血のにじんだ唇をきつくかみしめ、肚の裡で何度も吐き捨てた。