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1プロローグ

両腕で抱えるほどの大きさの練精釜に材料を入れていく。


エノモンキーの血、堅緑樹の枝、橙樹の実。

練精釜に施された溶解の力によって、入れた材料は性質を保ちながら液体となる。


その液体を、先端が薄く平らになった魔力を通しやすい特性のかき混ぜ棒で混ぜていく。


このときに気をつけるべきは、適量の魔力をムラ無く流し続けること。一定の魔力を流し続けなければ、品質が下がり、効果が薄くなる。


材料が混ざりきったところで、かき混ぜ棒を側に置いてある底の深い壷に入れ、真っ白な羽ペンを手に持つ。

大型の猛禽類が持つような見事な羽のペンは、長年の相棒として手に馴染む。


魔力を流すと、白い羽が薄く光を纏う。羽で魔力を吸収し、自らの力に変える鳥型の魔物の羽で作られた練精用の羽ペンは、練精術に必須の道具である。


魔力を流した羽ペンで、練精釜の上に平面の陣を描いていく。


魔力の光で空中に描くのは、基本の形である円。その内部に曲線、直線の複雑な模様を描いていく。素人目には規則性の見えない模様だが、練精術として、きちんと理論に則った模様である。


何度見ても美しい、無駄の無い理論に則った模様に、思わず頬が緩む。

練精術の行使中ににやにやと笑ってしまうのは、友人に溜息をつかれる奇行なのだが、自然と出るのだからどうしようもない。


円の内側を描ききった後は、円の回りに練精言語と呼ばれる文字を書いていく。

どの国でも使われていない、練精術のためだけに作られた文字は、練精術として力を発揮した模様を文字として登録していったという歴史を持つ。

こうした歴史の裏話を知っているだけで、一字を書くのにも愛おしさが募る。


丁寧に、美しく。

その文字が最も輝く形で描いてゆく。


そうして完成したのは、円の内側に洗練された複雑な模様。その円を囲むようにして書かれた練精言語の言葉。

練精陣と呼ばれる、魔力の光で構成された物に力を与えるための模様である。


練精陣に不備がないかを確認し、仕上げに練精石と呼ばれるつまめる程度の透き通った石を、練精陣の上から練精釜へ落とす。

練精石が通過する瞬間、描かれていた練精陣は練成績へと吸い込まれ、そのまま練精釜の中の材料と解けあっていく。


 やがて、練精釜の中が僅かに光で満たされた。

練精石に吸い込まれた練精陣が、液体となった材料の隅々まで浸透した証だ。


残りの工程は、客に売るための瓶詰めのみ。

お玉で掬ってさっさと、瓶につめていけば、今や大陸中で当たり前となった力の強化薬の完成である。


「…………ふう」


 慣れた作業とはいえ、練精術を行使するときに手を抜くつもりは無い。それは、ほんの少しとはいえ、体に力が入ってしまう気負いとなる。

 集中力の途切れと共に、力の入っていた体をほぐす。


 最高何度の練精であっても常に自然体でありながら、決して集中力を切らさなかった祖父に比べれば、自分はまだまだ未熟だと痛感する。

 

「じいちゃんに追いつくのに、あと何年かかることやら」


自分の不甲斐なさに嘆くよりも、祖父の偉大さに嬉しくなって笑みがこぼれる。


作った強化薬を入れた箱を持って、練精術のための工房から販売用の店頭に移動する。

一〇人も入ればいっぱいになってしまうような小さな店。奥に陳列棚とカウンター、壁には俺が提供できる練精術のお品書きが書かれた紙が張られるだけの簡素な作り。


俺が、タクト・アディルセンが祖父から受け継いだ、大事な店だ。


商品を棚に補充し、店内の掃除が行き届いていることを確認してから、店の外に出る。

扉に掛けていた閉店の札を裏返して開店に変えれば、丁度、朝の始まりを告げる金の音が遠くから聞こえてきた。


空を仰げば、まばらに雲が浮かんだ青空が見える。


「本日は快晴。絶好の探索日和となることでしょう」


鐘の音と共に、都市の内部がざわつき始めた。

今日という一日が始まろうとしている。


練精術の最先端を走り、大国でさえ対等の立場として扱う練精術師たちの聖地。練精都市国家アルメイデス。

魔物が蔓延る魔境に囲まれ、探索者達が魔境に入り、魔物と戦い、練精術の素材を採取するという日常が。

魔物を狩り、あるいは魔物に狩られるという命がけの生活が。

この都市で探索者達を支援し、助ける、練精術師としての俺の一日が。


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