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湖畔の私へ  作者: 炬燵猫
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引き続きカイくん視点です。

 

 股座またぐらの上に複数の獣が入り交じった様な生き物が座っている。顔は狸か? 足は猫の様で、尻尾は狐。背の模様はうり坊のものとよく似ているが、形は違う様だ。

 よく見ると、耳も狸とは違う。狸の耳は縁が黒くて丸いが、これの耳は犬のように尖っている。


 観察していると、その生き物がくしゃみをした。慌てて抱き抱えると小さく震えている。そうか、寒かったのか。

 手拭いを出して、赤子のように包んだ。そうすると、落ち着いた様で震えが止まった。


 それにしても、此奴は一体何なのだろうか? てっきりハリルが出てくるものだと思い込んでいたのだが、どう見ても犬ではない。

 不思議な生き物だ。


 そう言えば、ユウナを呼びつけてしまったのだった。せめて外に出て出迎えようかと顔を上げると、今までにない近さにあの女が居た。

 何時もの不気味な笑ではなく、驚いたような顔をして食い入るように幼獣を見ている。


 驚いて固まっていると、戸を開けてユウナが入ってきた。草履を脱ぎ捨て、小走りに近づくと小袖から大麻おおぬさを取り出しシュッと女を叩く。


 女は一瞬で消え去った。


 幼獣を庇うように捻っていた体を、元に戻す。


「ユウナ、ありがとう」


「カイ、あの女、ずっといる?」


 ユウナが顔を強ばらせて聞いてきた。

 慌てて来てくれたのだろう、柔らかそうな髪が絡まり膨れている。


「たまに見る」


 ユウナは不快げに喉を鳴らし、俺を叩いた。


「まて、幼獣にあたるだろうが」


 俺がそう言うと、ピタッと手を止めて腕の中を覗き込んでくる。


「種、うまれた? たぬき?」


 やはり顔は狸に見えるのだな。股座に下ろして手拭いを取って全身を見せる。


「種から生れた、何かはわからぬ」


 懐に潜り込もうとする幼獣をユウナの方へ押し出すと、足でブレーキをかけ抵抗する。叩かれたからユウナが怖いのだろうか?


 ユウナがひょいと片手で脇の下をすくい、もう片方の手で尻を支え、裏から表から観察する。


「アゥーン、アゥーン」


 か細い声で幼獣が鳴く、やはり鳴き声も狸の様だ。取り返したい衝動を抑えて、ユウナが改め終えるのを待つ。


 やがて満足したのか、ユウナがそっと幼獣を手渡してくれた。大急ぎで懐に潜り込もうとする幼獣に、手拭いを被せてやる。


「大丈夫。これ、なまえなに?」


「名前か···てっきりハリルが「クゥーン」」


「······ハリル」


「クーン」


「カイ、種、ハリルよんだ?」


「クーン」


「呼んだ……」


 耳ぐらいしかハリルに似ているところはないが、この幼獣は自分の事をハリルだと認識してるらしい。だが、そのままの名前を付けるのはハリルの存在を上書きする様で嫌だった。


「ハル」


「アゥン!」


 呼んでみると、不思議な感覚がした。


「カイ、サヒラー様のうちいく。ハル見せる」


「分かった、支度しよう」


 ハルをユウナに預け、顔を洗いに行くとセグ老が居た。ユウナに着いて来てくれたのだろう。

 急いで顔を洗い、ハルに水を飲ませてから着替える。

 大きな風呂敷を出して斜めにしっかり結んだ後、斜めに肩に掛けてからハルを入れた。顔だけ出して外を見ている。なかなか居心地が良さそうだ。



  ◆◇◆



 サヒラー様は遠慮なくハルを掴みあげると、舐めるように調べ始めた。ハルが悲しい声を上げる。


「ふむ、どの伝承のものとも違うが、いわゆる鵺だろう。胴が良く分からぬが……」


「大史様、これはやはりあの呪いに使われていた獣共なのでしょうか?」


「そうなのであろうな、全く不思議なこともあるものだ」


 サヒラー様はハルの腹回りを撫でながら「いたちか、いやテンか」などと仰りながら思案されていた。


 あの禍々しい影達がハルになったなど、なかなか信じられるものでは無い。だが、不思議と納得している己を感じた。


「朝ごはん、できた」


「今行く、カイも食べていくがいい」


「ありがとうございます」


 前はなかった食卓に、旬の野菜の小鉢と共に握り飯が並んでいる。

 ありがたい事だ、米は税に支払いにと、三年は使えるので作るだけで中々食べられないのだ。


 ミリィアさんがみうとソラに餌を持ってきて並べ、もうひとつの鉢を俺に見せた。


「とりあえず、みうちゃんと同じものをお持ちしたのですけど、これで宜しかったでしょうか?」


「恐らくそれで良いとは思いますが、まだエサを与えたことがないので……」


 ミリィアさんが餌鉢を三つ並べて、それぞれ誘導する。獣の挨拶なのか、鼻をくっつけあってから食べ始めた。ハルもしっかり餌を食べている。


 贅沢に米を使った握り飯はとても美味かった。


 食事中、やたらとフィナがハルについて聞いてきた。今生まれたばかりで、俺とてろくに知らぬのだと言うと不満げに口を尖らせる。


 食事の後、ハルとハリルの墓参りをした。サヒラー様はハリルも混ざっているかもしれないぞなどと、仰っていたがそれはないという気がしていた。


 田圃のあぜを歩いて詰んできた花を供え、手を合わせた。


 ――――お前達の奮闘のお陰で、俺とアミルは助かることが出来た、ありがとう。この不思議な魔獣にはお前から名前を貰ったぞ、安心して眠ってくれ。


 祈りを捧げて居るとハルが唸った。顔を上げるとすぐ横に女が居た。恨めしそうな顔をして、ハルを睨み何かを呟いて居るが理解できない。


 女がハルに手を伸ばすのを見て、我に返った。ハルを抱き抱え後ずさる。何時もは見詰めるだけで消えたのに、睨みつけても消えない。


「来るな、お前の居るべき場所に帰れ!」


 俺が怒鳴るのと同時に、脇から走り出たユウナが大麻を振り払うと、女はあっさりと霧散した。



鵺じゃないと思ってたら鵺だったよ……(o_ _)o パタッ

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