11 佳菜と心葉
アタシと心葉の出会いは幼稚園の頃に遡る。
今もあまり変わらないけど、心葉と最初に出会ったときの印象は地味で物静かな女の子という感じだった。
心葉はアタシとは違う幼稚園に通っていたので、近所の公園で会えばそのとき一緒に遊ぶ……初めはその程度の仲だった。
それが、何の偶然か小学校からずっと同じクラスだったこともあり、次第に一緒に過ごす時間も増えていった。
「わ、私!ドラムを始めてみる!」
心葉がそんなことを言ったのは中学に入って少し経った頃だった。
心葉には腐れ縁みたいな知り合いのお姉さん(アタシはよく知らないんだけど……)がいたのだが、なんでもその人のライブを見に行って感銘を受けちゃったらしい。
心葉は、小さい頃からコツコツ貯めてたお年玉をすべてはたいてドラムセットを購入し、練習をスタートした。アタシと同じく特に部活に入ってもいなかった心葉は、おそらく人生で初めて没頭できるものを見つけたのだと思う。それはもう、毎日楽しそうに練習していた。
アタシたちは会う時間こそ減ってしまったが、時折演奏してくれる心葉がどんどん上手くなっていくことが自分のことのように嬉しかった。
アタシの方は変わらずで、友達と遊んだり買い物をしたりといった中学校生活を送っていた。一応、心葉の楽しそうな姿に触発されてギターを始めてみたりもしたのだが、Fコード?とでも言うのか、指がおかしくなるアレを克服できずにすぐ辞めてしまった……。
それから時が流れて、中学最後の冬のことだ。
あのときアタシたちに事件が起きた。
「私、バンドを組んでみる!」
もはや恒例となった心葉の演奏会、その最後に心葉はそう宣言した。
初めはアタシたち二人だけだったそれも、そのころには友人たちも足を運ぶようになり、簡単なセッションをやるくらいになっていた。
素人目に見ても心葉だけレベルが違っていた(そりゃあ、毎日練習してればそうだろうけど)ので、個人的にはようやくかといった感じだったが、心葉が自分の意思を出せた瞬間だった。
心葉は案外、やると言ったら即行動に移すタイプなので、その足のままバンドメンバーを探しに外に出ていった。
今にして思えば、あのときアタシも付いていくべきだったのだが、あのときのアタシはすっかり趣味になっていたお菓子作りをして心葉を待つことにしていた。
結果として。
心葉に何があったのか詳しくは知らないが、その日を最後に心葉は演奏会を開くことは無くなってしまった。
バンドのメンバーも探しに行くこともしていない。
きっかけのバンドが解散してしまったことも追い討ちになったのだろう、心葉は自分の気持ちを諦めることにした。
でも、アタシは知っている。
それでも、心葉は今でもあのときと同じくらいに音楽のことが好きで好きで、結局その気持ちを忘れきれずに練習だけはしていることを……。
だから。
アタシは心葉が許せない。
未だにそれだけ音楽のことが好きなくせに家庭科部に入ろうなんてしている心葉のことを。
そんな形でアタシを頼ってほしくない……。
別にアタシだってわかっている。
それがただの我が儘だってことくらい。
だけど、それでも心葉には自分の気持ちを大事にしてほしかった。
滅多に自分の気持ちを外に出さない心葉が皆の前で言ったことなんだ。
高校に入って環境が変わったんだから、もう一度くらいチャレンジしてほしかった……。
アタシに無いものを見つけたのだから、もっと頑張ってほしかった。
もっと応援したかった。
もっと……。
もっと……。
だから────。
……アタシは心葉のことが嫌いだ。