9 ヘッドフォンと謎の祝福
「なあ高瀬。女子が突然告るときってさ、どういうときだと思う?ていうかどういう意味があるんだ?」
放課後早々、紘は音楽室にも行かなければ家庭科室に行くこともない、なんなら一年三組に行くこともなく、一年二組にある自分の席に座ったまま動けずにいた。
理由は一つ。
昼休みに何故か佳菜から告白紛いのことをされたことだ。紛いというのもタイミングがタイミングなだけにあれを告白にカウントしていいのかさえ、紘にとってみれば分からない。
本当によく分からない。
昼休み以降は、佳菜にコンタクトを取ろうにも避けられ続け、唯一のヒントは、いつの間にか机の引き出しに入っていた『放課後、家庭科室にこい』という脅迫状じみたプリントだけだ。
心葉の方は、こちらも何故か避けられ続けて今のところは会えず仕舞いだし、佳菜は何を考えているのか分からない。こういうときに限って、頼みの綱の水姫は塾にさっさと行ってしまいもう学校にいないわ、ついでに夕も学校を休んでいるわで、紘の思考は途方に暮れていた。
なので、あまり役にたたないかなと、内心思いながらも龍一に相談することにしてみたのだった。
「ん?なんだ、お前たちはもうそんなところまで関係が進んでいたのか」
「な!?もしかしなくても高瀬はこうなるかもしれないと予想していたのか」
まるで紘の状況をすべてを知っているかのように話す龍一に紘は感心していた。
意外にも佳菜と紘の関係にも気づいていたらしい。昼休みの話だというのに、こういうのに気付くとは。案外クラスのことも気にかけていたのだろうか。
「まあな。愛しい相手が側にいないときこそ女はその人のことを想うものだ。いて当たり前の存在がいなくなったときに、その存在の大切さを知るみたいな感じだ。そうだろ?」
「お、おおう」
「やっぱり、一日会えなかったことが効いたのかもなぁ」
うんうんと感慨深げに頷いている龍一。
それと、いつの間にかそこにいたのか、机の上に立ち紘の頭の上にくす玉を用意している一成(一応、行儀が悪くないように上靴は脱いでちょこんと下に並べてある)。
そんな二人を見て、紘は会話のズレを感じた。
「……会えなかった?」
「そりゃあ、今日は休んでるからな。告白は……アレか、電話だったのか?」
「高瀬、ちょっとまて。それと今にも俺の上で紐を引っ張ろうとしている加藤も」
「「なんだ?(なんでしょう?)」」
「お前たちは誰が告白したと思ってるんだ?」
「「河風だろ?(様では?)」」
「うん……違うね」
二人の勘違いを解くべく昼休みの出来事を話すと、龍一は佳菜のことが好きだったのかショックを受けていたし、一成はくす玉の中身を入れ替えると言って教室を出ていってしまった。
「遠野は河風一筋だと思ったていたのに……くそ」
「どこ情報だよそれ。ていうか、高瀬は三沢のこと好きだったのか?」
「いや、別に全然。だが、二次元にも通じるレベルのクラスのマドンナがお前に告白というのが気にくわなかっただけだ」
「さいですか」
「それで、遠野はどうするんだ?オッケーしちゃうのか?」
「いや、するもしないも訳が分からなくてさ。どうすべきか悩んでいたんだよ」
「だったら、取り敢えずはその指令コードに従うのが一番だな」
「し、指令?なんのことだ?」
何のことかわからずにいると、龍一は説明の際に机の上に出していたプリントを指差す。
「まあ……そうかもな。よし!俺ちょっと三沢に会ってくる!ありがとな高瀬!」
紘は龍一に礼を言って、帰る支度を一気に終わらせる。
今日は練習するつもりで持ってきたベースもあるのでなかなかの大荷物だ。リハビリも兼ねて家でも練習するつもりなので、当分の間はこの荷物感は続きそうだ。
と、そうこうしているうちに教室を出ていた一成が戻ってきた。
「遠野様!今度は完璧でございます」
ささっと、一成は加藤の前まで駆けてくると紘の目の前できれいに頭を垂れた。
献上するかのように両手でくす玉が掲げられている。人の頭より一回りほど大きなそれは金色に塗られていることもあって、端からみたらとんでもないような状況になっている気がする。
「えっと……これは?」
「はい。新しい方は絶賛制作中にありますが、河風様とバンドを組み始めた記念もありますので、こちらは先の内容を変換しました。ぜひ、お二人で祝ってください」
正直くす玉はいらない。
それに、気になるワードも転がっている。
けれど、あまりにキラキラ輝く瞳をした一成を前に紘は断ることができなかった。
「あ、ありがたく使わせてもらうよ」
通学鞄にベース、両手で持つくす玉……。
想定外の大荷物を抱え、紘は佳菜のいる家庭科室に向かった。