第0話 彼がウサギを選んだ理由
初投稿です。よろしくお願いします。
※この作品は現在書き直し作業中です。一話以降は変更になりますので、読まれる方はその点をご了承の上お読みください。
その日はいつもと変わらない休日のはずだった。
目覚ましをかけず、朝の九時ぐらいまで惰眠を貪り、起きたら近所の牛丼屋の朝定食に舌鼓を打ち、家に帰ってからはたまっていた洗濯物を洗濯機にかけて一息を入れる。
それからゆっくりと現在プレイ中のソシャゲのログインボーナスをゲットする。
ここまではいつも通り。
普段と違ったのは、一件のメールが着信していたことだった。
「なになに、新作ゲームのご案内ねえ……」
これもよくある内容だったので、特に疑問を抱かず、その新作ゲームがどんなものなのかチェックすることにした。
「タイトルは……幻想討魔伝か。昔、似たような名前のアクションゲームがあったような……」
ちなみにそのゲームは源平合戦で敗れて死んだはずの平氏の武者が蘇って、邪術を用いて勝った源氏に復讐を狙う横スクロールアクションゲームだった。
一方こちらの幻想討魔伝はRPGのようだ。
正直、アクションゲームは苦手なので、もしこのゲームがそれだったら即座にスマホの画面を閉じていただろう。
現在プレイ中のソシャゲは二つほど。もう一年以上プレイしていたので、ちょっと飽きてきたところだった。
このゲームが面白そうだといいのだが……。
「ほう、和風ファンタジーか。珍しいな」
私の独断と偏見だが、ソシャゲのRPGは大半が西洋ファンタジーで和風はかなり少ないと思う。三国志や戦国時代がモチーフのものはあっても、純粋な和風ファンタジーはなかなかお目にかかれないと思う。
昔のゲームなら桃太郎をなぞっているものや天外で魔境なやつ、風来坊が試練に挑むものや眼帯の侍がクエストするやつ、鬼に変身したり大正桜に浪漫が溢れるやつなど、パッと思い浮かぶのはそれぐらいか。
で、肝心の幻想討魔伝のストーリーを簡単に説明すると、日本の戦国時代から江戸時代をモデルにしたヒノモト皇国という国を舞台に、プレイヤーは妖魔と呼ばれる民衆を苦しめる敵を討つことを生業とした討魔士となって戦うというもの。
大河ドラマとか時代劇が大好きな私は、この内容にすぐに飛びついた。
「よし、やろう」
即座にインストールを開始。
ダウンロードが完了するまでの間にトイレと飲み物の用意を済ませる。
そしてダウンロード終了と同時にスタート。
『世界は、妖魔と呼ばれる存在の大量発生に危機に瀕していた。極東にある島国・ヒノモト皇国もその例外ではない。だがここに、ひとりの討魔士が産声を上げた』
簡単な状況説明のナレーションが終わり、キャラ作成の画面に移行する。
どうやらこのゲーム、プレイヤーの分身となるキャラを育てるタイプらしい。
最近、こういう感じのゲームをやっていなかったのでいささか新鮮だ。
まずは性別を決める、か。
私は大抵、こういったゲームはその世界に入り込みたいので出来るだけリアルの自分の分身になるように作成する。
そのため性別は男に設定だ。
次は主人公の種族。
選べる種族は人族、獣人族、鬼人族、雪人族、鳥人族、森人族、海人族の七種類。
いつもなら迷わず人族を選択していたところなのだが、この時はちょっとした気まぐれを起こしてしまった。
「いつも人間だしな……。たまには違うのにしてみるか」
それに、気に入らなくなったらやり直せばいい。
ソシャゲの気安さが、私に普段とは違う選択をさせてしまった。
それぞれの種族の詳しい説明を見てみる。
詳細は次の通りだった。
○人族
いわゆる人間。これといって得意なものは無いが苦手なものも無い。努力次第で何にでもなれる可能性を秘めた種族。
○獣人族
動物の力を受け継いだ種族。身体能力に優れる一方で、魔法は苦手。また、稀に先祖返りと呼ばれる、より強く動物の力を持った個体が生まれることがある。
○鬼人族
鬼と人の間に生まれた種族。人族よりも優れた資質を持つ万能タイプ。ただし清められた神聖な場所では能力が低下する。
○雪人族
寒冷地や標高の高い山々に住む種族。男は身体能力に秀で、女は魔法に優れている。種族全体としては技量が高い者が生まれやすく、優秀な職人を輩出することでも有名だが暑い場所では力を発揮できない。
○鳥人族
鳥の力を受け継いだ種族。地面に立っての戦闘は苦手だが、持ち前の翼を生かした空戦時は能力が飛躍的に向上する。獣人同様、先祖返りが起きることがある。
○森人族
蜥蜴や蛇、蛙といった生物の力を継いだ種族。森を住処とし、森での戦いにおいては無類の強さを発揮する。獣人同様に先祖返りが起きることがある。
○海人族
水に住む生物の力を得た種族。水上、水中での戦いを得意とする一方で、陸上では並以下の能力となってしまう。獣人同様、先祖返りが起きることがある。
結構色んな種族があって迷ってしまうな。
今回は人族を除外するとして、鬼人は神聖な場所では能力が下がるというのがなぁ。個人的にちょっとデメリットが大きすぎると感じた。まあ、そういった明確な弱点があるのもヒーローっぽくて嫌いではないが……。
雪人、鳥人、海人は能力を発揮できる場所が限定されるのが痛い。
森人はヴィジュアルがちょっと……。別に蜥蜴や蛇が嫌いというわけではないが、自分の分身と考えると感情移入がしづらい。
消去法で残ったのは獣人だった。
魔法が苦手という特性があるが、普段RPGで自分の分身を作る時は大抵戦士タイプなので無問題だろう。
というわけで獣人族を選択。
するとA、B、C、Dの四つのタイプから選択せよと表示される。
○Aタイプ(犬、狼、山猫、鼬)
筋力…10
体力…9
技量…7
魔力…4
精神…4
敏捷…10
○Bタイプ(猫、狸、狐、猿、兎)
筋力…7
体力…7
技量…10
魔力…6
精神…5
敏捷…9
○Cタイプ(熊、牛、猪)
筋力…14
体力…13
技量…6
魔力…3
精神…2
敏捷…6
○Dタイプ(馬、鹿、羊、山羊)
筋力…7
体力…9
技量…8
魔力…4
精神…4
敏捷…12
ふむ、また判断に迷うな。これは。
Aタイプはバランスに優れた戦士。Bタイプは獣人では一番魔力が高いが、筋力、体力は低め。Cタイプは完全なパワーファイター。Dタイプは速さ重視だけど他の数値も悪くない。何しろ人族の数値を確認したら向こうはオール7だった。
正直、特化タイプよりも万能タイプが好きなのでCタイプは除外。Dタイプは選べるヴィジュアルがちょっと好みじゃない。いや、鹿とか羊の角を生やした感じは結構好きだが、イマイチこうティンとくるものが無かった。
後はAタイプとBタイプだけど、トータルバランスがより優れているBタイプにすることにする。
ここでひとつ問題が生じた。
どんな容姿にするか、だ。
私が選択したBタイプが選べるのは猫、狸、狐、猿、兎の五つ。
基本的に獣人はその動物の耳が頭部に生えている、見慣れた感じ。角が生えてる牛や鹿といった動物は耳の代わりに生えてたりするが。
「ネコミミ、タヌキミミ、キツネミミ、ウサミミ……。どれも自分の分身と考えるとちょっとなぁ」
唯一、猿だけは耳は人間と変わらない感じなのだが、その代り髪形やもみあげが猿にそっくりになるように固定されていた。
(はぁ……、これはいつも通り人族にするかな)
そう思った時だった。
容姿の選択画面で、パターンがもうひとつ存在することに気が付いたのは。
ひとつは珍しくない動物耳を生やしたタイプ。もうひとつは完全に動物になっているタイプだ。
スマホ画面に映し出される、二頭身のデフォルメキャラが獣耳タイプと動物タイプに切り替えられるのを確認しつつ、
「完全に動物な方が我慢できるな」
と思い至り、後はどの動物を選ぶかに絞られる。
二足歩行の猫、狸、狐、猿、兎……。
吟味した結果、兎を選んだ。
その理由はというと──。
「首狩りウサギ……。昔やった高難易度迷宮RPGを思い出すな。ヤツを再現するのも悪くない」
とあるレトロゲーに、即死攻撃を繰り出してくる恐怖のウサギが登場するものがあった。あれをモデルにキャラを作るのも一興。そう思ったのだ。
こうして種族と容姿を決定する。
次に出てきたのはアンケートの設問だった。
『これから貴方に10の質問をします。貴方の能力にかかわるものなので、よく考えて答えてください』
なるほど。このアンケートに答えた結果、先ほどの初期能力が変化するという訳か。
質問1)貴方はどんな戦い方を好みますか?
A・物理で殴る
B・魔法で殴る
C・臨機応変に殴る
D・殴らないで逃げる
これは成長タイプかもしれない。Aが戦士、Bが魔法、Cが万能でDが速さといった感じか。なら答えはAだな。
質問2)好きな武器はどれですか?
A・刀剣類(刀、剣)
B・長柄類(槍、薙刀)
C・鈍器(斧、槌、棒、杖)
D・射撃(弓、銃、投具)
銃が選べるのか!
ぐ……! しかし今回目指すのは首狩りウサギ。ここはAにしよう。
質問3)どんな服装が好きですか?
A・重装備
B・軽装備
C・身軽な服
D・裸がユニフォーム
……これ、Dを選ぶやついるのか?
まあ、それはさておき、ここは速度重視でCにしよう。世界観が和風だから、これで初期装備が羽織袴になるかもしれない。
目指すは素浪人だ。
質問4)貴方は城攻めの指揮官です。どう攻めますか?
A・力攻め
B・搦め手から
C・事前に内通者を作る
D・神に祈る
最後はネタなんだろうか?
取りあえず、Bを選ぶ。力攻めは損害が大きくなるだろうし、かといって事前に調略ができるほど自分の頭が良いとは思わない。せいぜい守りが薄そうな所を狙うぐらいだろうな。
質問5)持久走は得意ですか?
A・大得意
B・そこそこ
C・やる意味が分からない
D・病欠する
Cだな。本当のところ、やりたくないがさりとて仮病を使って休むという選択ができるほどの度胸も無いし。
質問6)貴方は魔法使いです。目の前の困った人をどう助けますか?
A・魔法で解決
B・筋肉で解決
C・熟練の技で解決。
D・熱く応援する
どのパラメーターが上がるのか、分かりやすい質問だな。ここは精神アップを狙ってDだ。
質問7)貴方は野球選手です。2アウト満塁の場面での打席、どうしますか?
A・今日のヒーローは俺
B・何とか出塁する
C・魔法があればなぁ
D・監督、代打!
どうしよう。う~~ん、これはBかな。多分これが一番自分っぽい。
質問8)貴方にとって速さとはなんですか?
A・速さは正義であり、正義が速さだ!
B・あればいいってものじゃない
C・特に気にしたことはない
D・そんなことより筋肉だ
これはBかな。どうしても自分はこういう選択をしてしまう。一芸に秀でた人に憧れるのは、自分がそうなれないからかもしれない。
質問9)難しい知恵の輪を解いた感想をひと言
A・物足りぬわ!
B・いい汗かきました
C・知恵の輪? 知らない子ですね
D・リサイクルショップに売りました
これは、どうすべきか……。
正直に答えればB。自分は不器用ではないが、物凄く器用という訳でもないし。う~~ん、これはA以外パラメーターがどう変化するか分からんなぁ。Bでいいか。
質問10)0~9の中で、一番好きな数字を入力してください
最後は選択じゃなくて入力か。
ここは6にしよう。これが率直に一番好きな番号だからな。
『これにてアンケートを終了します。貴方のステータスに反映させますので少しお待ちください』
そう表示されると画面が切り替わり、浮かび上がるNOW LOADINGの文字。
その画面を眺めながらお茶をひと口すする。
最近、こういう感じで能力が決まるなんて珍しいから、これだけでもこのゲームやってよかったなと思ってしまう。
やがて画面が切り替わり、私の分身のステータスが表示された。
◇◇◆◇◇
〈名前〉藤原景雪
〈性別〉男
〈種族〉獣人族(兎・先祖返り)
〈職業〉見習い討魔士(仮)
〈成長タイプ〉前衛
〈能力値〉筋力…7
体力…8
技量…17(34)
魔力…7
精神…6
敏捷…10
〈所持称号〉
獣化(先祖返り)
経津主の手練
異界渡りの防人
〈装備品〉なまくら刀(物攻+5)
見習い道着(物防+2)
普通の足袋(物防+1)
普通の草履(物防+1)
〈所持品〉収納風呂敷(特別製)×1
竹筒の水筒(特別製)×1
おにぎり(特別製)×2
〈所持金〉七万二千三百三十四圓
◇◇◆◇◇
ええ~~と、どこから突っ込んで良いのやら……。
まず能力値。ほぼ狙い通り、全体的な底上げがされているが、技量の値がおかしなことになってる。
まあ、それはいい。
アンケートの解答が分からない以上、こうなる選択をしたということなのだろう。
問題は入力した覚えが無い自分の名前がステータス欄にキッチリ載っていることだ!
私が困惑していると、突然スマホの画面が光り出し、私は思わず目を閉じた。
これが私が故国から旅立つ、最後の状況だった。