表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YES/NO『青春デビューに失敗した人間が、異世界デビューを成し遂げられるか?』  作者: 志島踏破
第参章 君のハートをスチールっ★ 〜鍛冶職人系女子メルの依頼〜
81/88

第七十七話 『嫁にふさわしいのは誰?』

「お帰りナサイ、ユウト。ご飯にスルカ? 食事にスルノカ? ソレトモ……が、い、しょ、く?」


「なんだもう帰ってきたのか、ユウト。僕の食べ残しでもどうぞ」


「お帰りなさい! ゆーとさん! ご飯出来てますよ? ……ちょっと失敗しちゃったですけど……」


 現在、我がパーティでは、嫁力よめりょく大会なるものが開催されている。

 俺は取り囲むように立つ三人の少女を前に肩が重くなった。

 全員、ルックスは悪くない。むしろ可愛いくらいだ。現実世界に居れば読モとかアイドルとかやれるくらいに、見た目はよろしい。


 しかし、その内情は『酷すぎる』の一言に尽きる。


「私は焼き肉食べホーダイがイイなぁ。なぁ、君も食べたいダロウ? サァ、行こう! 今行こう! スグ行こう! ひと食い行こうゼ!」


 モ●ハンみたいに言ってんじゃねーよ……。


 食い意地の張り過ぎたルーニィはまず設定を理解していない。シチュエーションは『仕事に疲れて帰ってきた夫をどのように迎えるか?』である。 

 たぶん、パートナーを翻弄することに関してはピカイチのセンスを誇っている。マイナス30点。


 続いて、ルカ。


「次いでにゴミ出しに行ってくれないか? あ、あと食べ終わったら、自分でお皿片付けといて。ちなみに風呂は洗ってない」


 何でここまで冷酷なの……。取り敢えず奴への憎悪(ヘイト)値が100上がったでござる。


「お仕事お疲れ様です。あの、サンドイッチ作ってみたんです……! あ、あんまり上手く出来なかったですけど良かったら……。あ、お飲み物もありますよ!」


 旦那を(いたわ)ろうという姿勢だけは、三人の中でダントツ。しかし、目の前に出された手料理は……。


「あ、あの? ゆーとさん? どうかしましたか? お気分が悪いんですか?」


 猛烈な吐き気に顔を青ざめさせる俺を前に、彼女はオロオロする。 


「え、いやあ、なんでもないよ……」


 引き攣つった笑みで誤魔化すものの、この産廃料理ばかりは誤魔化せない。


 何で、ただのハムサンドから『牛乳拭いた後の雑巾』みたいな臭いが漂ってくるんだよ……。

 こんなモノがレストランで出されたら、『シェフを殺せ』と言っちゃうレベル。


 ……やべ、あまりの異臭に意識が……。どうして、こんなことになったんだっけ……?



 ことは全てルーニィの発言から始まった。

 彼女の『嫁にしてくれ』という発言に食卓では時間が止まったかに思えた。


 ルカはルーニィを見たまま、自分のグラスにジュースを追加し続けた。溢れ返っても腕の角度は変わらない。

 俺は彼女のポットを傾け直して、一つ溜め息をつく。

 左手に座るテトは、ぽかんとしていて微動だにしない。


「まず……どこからツッコめばいいか……」


「私ガ君のお嫁さんにナルノガソンナニ嫌か?」


 俺の反応が芳しくなかったのか、ルーニィの勢いが引っ込む。代わりにテトが席からガタッた。

 何か言いたげにあうあうあう、と口を動かす。顔が真っ赤だ。


「ん? どうかシタカイ? テト君」


「っ?! なっ、なんでもありません!」


 そう言うと胸元に手を寄せ、俺にチラチラ視線を寄越す彼女。だが、俺が水を飲んでお茶を濁すのを見て、ガックリと椅子に崩折れた。


「まったく、酷い男だよ……ユウトは……」


 ルカがなみなみ注がれたジュースを犬嘗めしながらそう零す。


「何が……」


 癪に障って反問するが、彼女は答えない。じっと、藍の瞳で俺を見つめ、小さく唇を動かした。俺にしか見えないジェスチャーは、たぶん『ばーか』と言っていたのだろう。


 テトが自分に向けている感情には気付いているし、それは素直に嬉しい。

 しかし、まだ時期尚早なのでは、という臆病心が判断を鈍らせている。


 俺はこの件について思考の奥に追いやりつつ、再度ルーニィに水を向けた。


「嫁がどうとかいう話は置いといてだ。それでお前がなんか得することがあるのか?」


 きょとん、という表情で一時停止する彼女。が、すぐ朗らかに笑んで返答する。


「アァ、あるぞ。伴侶とナレバ、戸籍の無い私も君のパーティに入れるからネ。晴れて冒険者登録ダ」


 なるほど、それでそんな突飛な発言が出てきたのか……。


「ねぇ、ところでルーニィは僕らのこと何だと思ってるんだ? さっき3番目がどうとか言ってた気がするんだけど……」


 満杯ジュースを飲み干したルカが口を開く。それについては俺も疑問に思っていた。若干、察してはいるが……。


「そのままの意味ダヨ。君ら二人共、彼の奥さんナンダロ?」 


 テトが飲み物を盛大に吐き戻した。ルカは、相変わらずツーンとしている。若干頬が紅潮しているようにも見えるが……。


「わ、わわ私達は単なる旅の仲間ですよ! 奥さんとかそんな大層なものではなく……!」


 急ぎ早口でまくし立てるテト。しかし、『ま、まぁ……? 時が経てばそういうことも?』と独り言を零した。聞かなかったことにしてあげよう。

 対してルカは頬杖ついて、俺を見ながらこう言う。


「こんなのが旦那じゃあ、ちょっと不安かなぁ……?」


「口に出すな、アホ。ってか、何でお前までちょっと顔赤くしてんの? ん? もしかして、期待しちゃった?」


「ぐっ……! 死ね! 誰がお前みたいな奴と!!」


 またも(すね)に蹴りを食らった。


「痛いのだ……しかし、ルーニィの所はあれか? 一人の夫に複数の妻が居るなんてことが慣習としてあるのか?」


 この国では基本的に、一人の夫に一人の妻である。別段そういう法律があるわけではないが、周囲の住人を見渡す限り、そのようである。


「ウン、ソウダヨ。変カ?」


 真顔で問うてくるあたり、それが彼女たちにとっての当たり前なのだろう。


「いや、別に。ただまぁ、俺はそんな何人もめとる気はないってことだけ」


 俺の返答にルーニィは目を丸くする。そして、テト、ルカの顔を交互に見てこう言った。


「……じゃあ、君はドーシテこんなに可愛い女の子を二人モ侍らせているンダ? 選ぶ気はないのか? それとも『ジラシプレイ』って奴か?」


 『ぶほっ』と咳き込んだルカがコップに水を吐き戻した。俺も危うく椅子から転げ落ちそうだった。

 テトだけが「じらしぷれい?」と首を傾げている。


「あのねぇ、ルーニィ……。だから、僕たちはそんないかがわしい関係じゃないと言ったよね? 話聞いてた? 釈迦に説法なの??」


 シャツを水でビショビショにしたルカが若干、キレ気味に突っかかる。ことわざの使い方を間違っている。それでは自分をおとしめていることになるのだが……。

 その睨むような視線にも臆せずルーニィは、たははと笑った。


「ソウカナァ? 私には君がトテモ彼に好意を抱いているヨウニ思えるんだけどネ。因みに正しくは『馬の耳にネンブツ』かナ?」


 にっこり笑いながら、軽くいなすルーニィ。しかも、ルカの間違いまで指摘。これは……。

 コッソリ本人の顔を伺うとみるみる顔が赤くなっていた。羞恥と憤怒で凄いことになっている。

 やべぇ、と思った瞬間、何かがテーブル下を高速移動。気付いたときには凶悪な脛蹴りがルーニィに炸裂していた。しかし、「いってぇええええええええ!!!」という悲鳴は蹴った本人から発される。


「ん? 何カ当たったカ?」


 不思議そうに自分の脛部を観察するルーニィ。そこには傷の一つもない。

 ルカは涙目でつま先を揉んでいる。


「うう、痛い……イタイヨぅ……なんだよぅ、これぇ……」


情けない姿態だが、痛みにもだえる様には少々同情してしまう。


「おい、大丈夫か? ルカ」


「にゃあ!!」


 何となくルカの肩に触れたが、妙に愛くるしい悲鳴が漏れた。

 

「にゃあって……。お前も可愛いとこある……ナァッ?!」


 ニヤニヤしながら茶化すと、突然激痛が脚部に走った。はうッという情けない悲鳴と共に見れば、ルカの革靴が刺さっている。


「だあぁぁぁぁぁぁッはぁんんん!」


 あまりの痛みに悶絶。周囲の客の目も気にせず、床をごろごろ転がり回った。

 目まぐるしく変わる景色の中、ふと椅子に座ったルーニィと目が合う。

 こいつの足は鉄か、という感想を得た。


 「はっ、そうだ! ゆーとさん! コンテストを開きましょう!!」


 出し抜けにテトが立ち上がる。いかにも名案を思い付いた、と言いたげな表情だ。

 

「な、何の……? 正直言って今それどころじゃないんだが……」


 何か変色している患部に息を吹きかけながら、問うた。ルカもルーニィから貰ったしっぺ返しで、顔を歪めたまま訝しげに眉をひそめている。ルーニィだけが、真摯に……というより面白そうにテトの提案へと耳を傾けていた。

 そんな三人を前にテトはくふふ、と笑いぺったんこの胸を張った。


「では、これより『第一回 嫁力大会』を開催しますっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ