第七十三話 『帰り道 2/2』
突然、仲間が昏倒され、チンピラ二人は最初こそ動揺していたが、すぐに勢いを取り戻す。
「………………こぉー」
ボクサーのようなタップで、息を整えるルカ。明らかな煽りに、男二人は肩をいからせる。
「――てんメッ?! 何しやが……ぐほぉっ!」
ルカの鋭い上段蹴りが最初に飛び掛かってきた男の顔面へ。
「ガキがぁ! 調子に乗んじゃ――ゲフォッ!」
返す刀で体重上乗せの正拳が、もう一人の鳩尾に決まった。
ルカと俺と見知らぬ少女の周囲に、計三人の男達が寝転がる。
「ふう……。やれやれ、どうしてユウトは何時も何時も面倒ごとに巻き込まれるの?」
不思議で仕方ない、という調子で聞いてくるルカ。だが、その視線が俺の肩に移ると、今度は「誰、その子?」という表情に変わった。
「えーと、これは、その……さっき露店通りで仕方なく、助けたというか……?」
さて何処から、説明したものかと悩んでいた折、突如遠くで警笛が鳴った。
『オイ、こらーッ!! 貴様ら何をやってる?!?!』
ドタドタ駆けてくる数人の憲兵達。服装を見るにロイギルではなく、トバコの自警団達だろう。どうやら、俺達の揉め事を彼らに通報した住民が居るらしい。
「チッ! 説明は後だ! ルカ、こっち来い!!」
彼女の細い手首を握って、路地へと向かいかける。
自警団の連中にも、突然絡まれたと説明すれば分かって貰えるだろうが、あいにく今はそんな悠長なことしてる暇がない。
『ハー……ハー……』
背負った少女の容体が芳しくないのだ。面倒ごとで無駄な時間を過ごすわけにはいかない。悪いが今日のところはズラかっておくことにした。
「待って、ユウト」
「――どあっ?!」
勢いづいた所を突然、ルカに引き留められる。
「何すんだ?! お前のことも考えて、逃げんだぞ!」
不可抗力とはいえ、さっきの喧嘩はグレーラインだ。素直に職質に応じるのが、ルカにとって得策とは言い難い。しかも、コイツの前職なんざ盗賊ときてる。であれば、尚更逃げなければ――
「分かってるよ、だからアレ」
ルカが通り向こうの片隅に、停まったウノロス車を指差した。荷台の幌から、誰かが手を振ってる。
「ゆーとさん! こっち!」
満面の笑みを浮かべてほわんほわん笑っているのは、我がパーティの狐っ娘ことテトではないか。
「テトがどうしてもユウトのこと心配してさ、連れてきちゃった」
「ああ……俺、なんも言わずに出たもんな……」
今更ながら、自分のフォロー不足を悔いる。しかも、彼女らの手助けが無ければ、この状況を打開するのは難しかっただろう。
「サンキュ! ルカ! テト! 助かった!!」
走りながら、彼女ら二人に礼を言った。すると、ルカが、にまっと笑む。
「当然だよ。ボクら、仲間だもんね」
その言葉は温かみに溢れており、一仕事終えた俺の疲れをじんわり癒やすようで。
「ゆーとさん、お帰りなさい! もう、ご飯出来てますよぉ!」
荷台に乗り込んだ俺を、テトが柔らかく出迎えたのだった。
ルカが御者台に飛び乗って、車を発進させる。仮宿であるホテルに向けて、一直線に。
こうして、俺の一日は幕を降ろすのだった。
『ゆーとさんっ?! また知らない女の子が?!?!』
『ユウトが、露店街で拾ったんだってぇ。ボクも詳しいことは知らないけど』
『なあぁ……! ムゥぅう……!!』
まだまだ前途多難な異世界生活ではあるが……。




