第七十二話 『帰り道 1/2』
トバコ露店街からテトとルカの待つホテルまでの帰り道。
行きはウノロス車で快適な移動であったが、帰りは徒歩である。どうやら、麻薬料理を販売していた犯罪店主たちを、車で護送するのに使用するらしい。よって、俺ともう一名は片道二十分近い道のりで、歩きを強いられているわけだ。
「俺が背負ってるのは大根だ……大根なんだ……」
暗示をするように石畳の道を行く。さっきから心臓の拍動が早い。
単純に人間を背負っているから、というのもあろうが、それ以上に熱を持った『何か』が定期的にムニッとした感触を寄越すからというのもある。大きさ的にはルカとテトよりもだいぶあるらしい。まぁ、そもそもあいつらが小さすぎるという問題もあろうが。
『フー……フー……ウッ』
耳の裏に小さな吐息がかかる。こそばゆいという感覚を通り越して、もはや苦行じみていた。俺は顔だけ後ろに傾けて、その主の顔を見る。銀髪の褐色少女が苦しげな呼吸を繰り返していた。熱はさっきから上がり続けているようで、頬も紅潮しっぱなしだ。
「び、病人ですからネ……! 問題ないね、ウン」
自分でもわざとらしいくらいの言い訳を放つ。
気のせいであろうか、周囲の視線が自分たちに向いている気がする。
逃げるように先を急いだ。
「ひゅうーッ! お熱いねぇ、お二人さんよォ!」
「男の方、釣り合ってねェぞー(笑)」
人相の悪い男たちにすれ違いざま茶化される。
長い非リア人生を歩んできた俺にとって、こんな悪口はいつものことであるが、久々にカチンときた。嫌味ったらしく、小声で毒づく。
「ルセェヨ、チンピラ……」
「あ?」
俺の悪口を耳ざとく聞きつけたゴロツキは、急に進路を変え凄んでくる。
「い、いえー別に何も……くふふ」
青い猫型ロボットみたいな笑い声で誤魔化すが、男たちは見逃してくれない。
「ああ?! 聞こえてんだよ! 今なんつった?!」
「き、聞こえてたんだったら、もう一回言わなくても……イイッスヨネ……」
そこまで言ってソレが単なる煽りであったと気付く。しかし、時すでにお寿司。不良達の額には立派な青筋が浮いていた。
「舐めてんのか、ゴラァッ!」
肩をいからせた男がブローの構えを見せる。
「ちょっ、ちょっ、ちょ! 暴力は!!」
慌てて、身をよじろうと試みるが如何せん、女の子をおんぶしている状態では足取りも鈍重。
かといって彼女を放り棄てて、身を守るわけにも――
「ぐほぉっ?!」
腹にきついパンチがめり込んだ。地面に勢いよく、頽れる――不良が。
『え?』
汚れた大地にうずくまる男を見て、俺もその他のチンピラも言葉を失った。
目の前に一人の子供が立っている。藍色の髪で短髪、黒パンにカッターシャツという出で立ち。こちらを振り向いて安堵した表情を見せるのは、
「ふぅ、やっぱりトラブルに巻き込まれてたんだ。やっぱり君はボクが居ないと駄目だね、ユウト」
昨日仲間になったばかりの僕っ子少女、ルカ・ヴァレンタインだった。