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YES/NO『青春デビューに失敗した人間が、異世界デビューを成し遂げられるか?』  作者: 志島踏破
第参章 君のハートをスチールっ★ 〜鍛冶職人系女子メルの依頼〜
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第六十一話 『収束』

「おいっ! この下衆野郎どもっ! ボクならここに居るぞ!!」


 若干、震えてはいるがそれでも周囲に響き渡る大声でルカは叫んだ。

 その紺色の瞳で睨み付ける先には、集団で一人の少女を虐げる、かつての仲間たちがいた。


「あん? ……オイオイ、獲物が向こうから来てくれたぞ」


 よおー、裏切者!

 腰が引けてんぞーっ

 ひゅー、かっこいー


 頭領の呟きを皮切りに、他の団員たちが彼女をはやし立てる。

 嘲笑には応じず、彼女は身構えた。右手に携える模擬刀で彼らの注意を引く。

 ふと、男たちの中心に居るテトと目があった。

 乱れた金髪の下から覗くみどりの瞳が、ハッと大きくなる。

 テトの小さな唇が、もぞっと動くのを捉えた。「どうして」と呟いたように見えた。


「どうして……? さぁ、どうしてかな? ボクにも分かんないや」


 中段の構えで敵に意識を集中させ、武器には最大限の殺気を集める。

 周囲が暗然としてるので、彼らには自分の持っている模擬刀が本物にでも見えていることだろう。


「なぁに、ワケ分かんねぇこと言ってやがる! おらぁ、テメーらッ! さっさとそいつをなぶり殺しにしてやれぇッ!! 武装してるから遠慮は要らねぇぞッ」


 頭領の怒声に男たちが吠え、各々が槍やら短剣やらハンマーを振り上げ突進してくる。

 ルカの足元が少しだけ震えた。初めて目の当たりにする人間の殺気。

 それも大人数で。逃げ出したくなるほどのプレッシャーが前面から押し寄せる。

 だが、まだ動いてはいけない。

 作戦の遂行のためにも……今だッ


 タイミングを計ってルカは横っ飛びに走った。


『出でよ、破獄の檻! 咎人をいざ封じん! グリーフ・ジェイル!!』


 その瞬間、凛とした美声が轟き、地面が割れる。

 ルカの目の前から、男たちを取り囲むように鉄柱が突き出た。


「うぉ!」

「なっ、なんだ?!」


 男たちの困惑の声も空しく、無数に林立した柱は幾重も重なり合って、とうとう彼らを封じ込めてしまった。

 天まで登った鉄の触手が結ばれると、辺りは再び静寂を取り戻した。

 そんな中、うわずった盗賊の団長の声だけが聞こえる。


「えっ、へ? え??」


 彼の配下の大多数が目の前の檻に飲み込まれた。

 近くにいる腰巾着二人も不意を打たれ、ロクに動けない。


「キルナさんッ!」


 ここぞとばかりに、声を張り上げる。

 ルカの視界端で途轍もない速さの閃光が横切った。

 大剣を背に担ぎ、地面すれすれを雷鳥のように駆け抜ける剣士。


「なんだッ?! こなくそぉ!!」


 頭領は大慌てで懐の小刀を抜くが、あっという間に間合いを詰められる。


「安心しろ。命までは取らん。貴様らは全員、ブタ箱行きだ」


 低くドスの利いた声と同時に頭領は足をすくわれる。


「あだだだだだだっ!!」


 そして、そのまま肘固めの体勢に持ち込まれる。


「かっ、かしらぁっ!」

「くそッ、この女っ!!」


 たまたま檻の外に居て助かった二人が焦る。

 急いで、頭領から正体不明の剣士を引き離そうと駆け寄った。が、


「せやあああっ!」


「ごふっ……」


 ルカの遠慮のない一撃が、片方の頭に叩き落とされた。

 無理矢理意識を吹き飛ばされ、腰巾着が落ちる。


「ひっ! ひぃいい!!」


 仲間が遂に全員やられたと知り、もう片方の顔面から血の気が引く。


「おい、ルカ……。偽物の武器とはいえ、殴れば凶器だぞ。気をつけたまえ」


 怯える賊に犬歯を剥いて威嚇していたルカに、キルナは溜め息混じりの注意を促す。すると、ルカはむっと口を尖らせた。


「……だったら、ボクの武器返してよ」


「ダメだ。子供にあんなモノはまだ早い」


「ちぇっ……ケチ」


 逼迫(ひっぱく)した事態にも関わらず、呑気に会話をする二人。その状況に賊の男はますます青ざめた。


「なんだ……なんなんだよ」


 ただ者じゃない、そんな思考が彼の脳裏を過ぎる。思わず後ずさった。

 すると、


「おい、逃げんのか? 遠慮するな。かかってこい、ホラ」


 未だ頭領を取り押さえたままのキルナが、濁とした目でいざなう。

 その得も言われぬ不気味な威圧感に、とうとう盗賊団最後の戦力が武器を捨てた。


「じっ、冗談じゃねぇッ! くそッ!!」


 精一杯の悪態をついて、彼は森の向こうへと走り去っていった。

 

「やれやれ、最近の男共は腰抜けばかりだな……」


「締まってますよ、センパイ」


 ため息をつくキルナにルカは教えてやる。んあ?とキルナが拘束した頭領を見れば、彼の口から泡が出ていた。


「おっと、危ない。すまないね、ルカくん」


「いえ……」


 少々おどけた様子で、キルナは頭領から手を離した。

 太り気味で小汚い肉体がドサリ、と大地に倒れる。

 そこでようやくルカの肩の荷も降りた。


「大丈夫……? テト……」


 さっきから何が何だか分からないといった顔で呆けている少女に歩み寄る。


「る……ルカさん……」


 その目には沢山のメッセージが込められていた。

 だが、状況が複雑すぎてテトの口からは拙い言葉しか出てこない。


「えっ、えっと……えと……」


「……」


 ルカはそんな彼女の前に無言で歩み寄り、膝をつく。

 目の前にすっかりぼろぼろになった少女の姿がある。またしても、ルカの心が痛んだ。

 そして――


「ごめん。ボクのせいだ」


 よたり、と頭を下げる。

 はっと息を呑む音が聞こえた。

 だが、たっぷり数十秒は首を折って、そしてルカは静かに顔を上げる。

 困惑した表情のテトがじっと自分を見つめていた。


「テトが心配してくれていたのに、なのに、ボクは自分の勝手なプライドを優先して君を置いてきぼりにしてしまった……。その傷はボクがつけたも同然だ……。だから――」


 ゆっくりと彼女の手を取る。

 その右手を自分の顔の近くまで持って行って


「どうか、ボクを殴ってくれ。君がこいつらにされたのと同じくらい、ボクを傷つけてほしい」


 またしても沈黙が落ちる。

 テトの後ろにいるキルナは、何も言わず紫煙をくゆらせていた。

 月も星も木々も全てが黙って、二人の行く末を見守る。

 そんな中、狐族の小さな少女は口を開いた。


「どうして……どうして、ルカさんはそんなに泣いているんですか? もう、沢山傷ついているじゃないですか……。私は、今、あなたへの感謝の気持ちでいっぱいなのに」


 両手で取っていた彼女の左手が優しく、ルカの頬を撫でる。


「助けてくれて、ありがとうございます。ルカさん」


 その一言でとうとうルカの緊張の糸が切れた。

 絶対に泣かない、と決めていたのにさめざめと泣いてしまった。

 そんな彼女の頭をテトは静かに慰めるのだった。


 ※


「やれやれ、やっと一件落着だな。全く、私も頑張ったのだから、何か報酬が欲しいところだよ……」


 盗賊団頭領以下、十数名の人間全員に錠縄を締めたキルナが腰を伸ばしながら、呻く。

 すると、テトが耳をぴくっと動かして彼女を見た。


「じゃあキルナさんも、撫でましょうか?」


「何故そうなる……。悪いが、子供に撫でられるほど大人として落ちぶれてはいないよ……」


 純真な顔で問うてくる女の子にキルナは、苦虫を噛み潰したような表情になる。


「でも、そしたら今そこでテトにあやされている人はオシマイですね」


 と口を挟むのは、先ほどまでテトに撫でられていた少女、ルカ・ヴァレンタイン。

 彼女は、冷ややかな目でテトの膝元に居る人間を見下ろした。


「もう……酷いですよ! ルカさんもキルナさんも!」


 さっきから膝枕しつつ、仕切りにその青年の髪を整えていた少女がむっとした顔でおもてを上げる。


「それに、聞けばゆーとさんが倒れちゃったのもキルナさんが原因なんですよね?!」


「それに関しては……まあ、そうなんだけどさ。だって、そいつ危なっかしいし……」


 バツが悪そうにキルナは自分の髪をわしゃわしゃと掻いた。

 

「ふふ。あの(・・)冷鬼れいきがテトにやり込められてる……」


 その様を見て面白おかしそうにルカが茶化した。

 ぐしゃり。

 嫌な音が響く。ルカが隣りを見ると、キルナがくわえた煙草(魔道具)を噛み潰していた。


「おやおや、ルカくん? 君、私の弟子になるって言ってなかったかな?? 弟子なら、少しは師匠を敬ったらどうかね? それともアレはただの演技だったのかな」


 額に鋭い険を寄せたキルナがルカの頬を手加減無しに引っ張った。

 頬っぺたを掴まれ、足が浮き気味のルカは必死に暴れる。


いひゃい、いひゃいっ! ひゃめろ! このにょにババ!」


「だーれが、ババァだ! こんのクソガキが! らあッ!!」


 咄嗟に放ったルカの一言がキルナの逆鱗に触れ、綺麗な投げ技が炸裂した。


「いってぇええ! なんだよ、アンタ! ボクはシロウトなんだから、ちょっとは手加減しろよ!」


 結構な距離を飛翔して地面に叩き付けられたルカだが、すぐに犬歯を剥いて戻って来る。

 食って掛かられた方は鬱陶しそうに舌を打つ。


「ちっ……何がシロウトだ。さっきまで自分はプロ同然みたいなカッコつけだった癖に」


「うぐ……。そ、それは……」


 途端に、勢いが削がれるルカ。

 その急激な変わり様を見て、不思議に思ったテトが尋ねた。


「何かあったんですか?」


「お、知りたいかい? お嬢ちゃん」


 キルナは後ろで真っ赤になって俯くルカを尻目に意地悪な顔を浮かべる。


「あ! 言うなよ! おい!」


 ルカの羞恥とプライドをかけた妨害も空しく、全てはありのままにテトの耳に入れられた。


「――なるほど、そんなことが……。キルナさんが実はルカさんの憧れの人で、それでルカさんが弟子入りを申し込んだ、と」


「まったく、聞けば聞くほど変な話だろう? 私も突然、『今までのことは全部ボクが悪かった。謝る。それと、あ、あんたが良かったら、その……ボクを、弟子にしてくれ』なーんて言われたときは今年一番に驚いたよ」


 数時間前のルカの真似をしながら、キルナは呆れ半分、面白半分に肩をすくめる。

 一方のルカはおねしょがバレた子供のように顔を赤らめていた。

 それを見たキルナは意地悪くニヤニヤと笑う。


「う、な……なんだよ……? 文句あんのかよ……」


「いーや、別にィ」


「その顔ヤメろ!!」


 キルナのしてやったりな表情を見て、またしてもルカが喚くのだった。


「う、んん……なんだ……?」


 そんなやかましいやり取りが続いたためか、テトの膝で眠っていた青年がとうとう目を覚ます。

 もう少しだけ彼の温もりを感じていたかったなぁ、とテトはひとり残念に思う。


「おはようございます、ゆーとさん。もう全部終わっちゃいましたよ??」


「えぇ……どゆこと……」


「ふふ、それはですね。あの子が……」


 寝坊助な青年にことの次第を説明しつつ、ルカとキルナの尽力を讃える。

 その時、テトはちらっとルカの顔を窺った。


 照れ隠しの為か腕を組み、明後日の方向を向いている。

 ついさっきまで虚勢を振り回し、足元もおぼついていなかった子。

 その子がようやく本来の自分を取り戻してくれた。


 そんな気がして、彼女の口からは笑みがこぼれていた。


 

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