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YES/NO『青春デビューに失敗した人間が、異世界デビューを成し遂げられるか?』  作者: 志島踏破
第参章 君のハートをスチールっ★ 〜鍛冶職人系女子メルの依頼〜
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第五十話 『制服ドロボーの依頼』


 面会室。


 なんか刑事ドラマとかでよく見る感じの作りの空間だった。

 八畳間くらいの広さが、木の檻で二等分されており、片方に俺と餅田、もう片方にメルと男性兵士がいる。

 柵向こうのメルは神妙な表情で「頼みがあるの」と切り出す。


「いくら?」


 間髪入れない俺の問いに、彼女は判然としない面持ちになった。


「だから、いくら払う?」


 カウンターをとん、と叩いてもう一度問う。


「ええっ?! お金取るの?!」


 ヒステリックに喚く高音がやかましいので、耳に指栓を。


「当たり前じゃん。なんで、頼んだら、人が動いてくれると思うんだよ。それが嫌なら、頭のひとつでも下げろ」


 俺は脚を組み、餅田が出してくれたコーヒーをずずっと啜った。

 彼女は、自分の出した飲み物の可否が気になるのかさっきからソワソワとこっちを窺っている。

 俺は餅田には見えないように顔をしかめた。


 あっま……。こいつ、どんだけ砂糖入れたんだよ。フラペチーノじゃねぇんだぞ。

  

 と、俺がつくった厳しい表情をメルが自分に向けられたものと勘違いしたらしい。

 彼女は、小さく首を振ると「信じらんないわ……こいつ」とこぼす。「ご覧ください、これがレディーに対する態度でしょうか?」と煽って来る。

 俺の目が細くなった。


 なんだ、コイツは。自分が、おとぎ話のお姫様か何かと勘違いしてんじゃねぇか?

 困ってたら、白馬の王子様が助けに来てくれるとでも?

 現実、そんなことあるわけねぇんだよ。

 付き合うのだって、結婚だって、世の中、そのほとんどが打算と妥協の結果だろ。彼女いない歴イコール年齢の俺様は既に悟ってんだよ。

 不愉快なクソ甘コーヒーを脇に退けて、俺は身を乗り出した。

 メルは唇をとがらせて、まだ文句を言っている。そんなワガママ女を非難する。


「信じられんのはそっちだ。人の用事を考えずに、いきなり呼びつけやがって。なんだ、あの手紙は? 電報かよ。こっちは無礼な貴様に文句つけるために、わざわざ赴いただけなんだけど」


 俺の発言に、彼女は「デンポウって何だべ?」と呟く。

 だが、何かを思い出したように、頬をかいた。苦い表情で、


「い、いやーちょっとそれには深い事情があってだね……」


と目を逸らす。

 なんか含みを持たせて来るな。

 俺が目をしばたたかせていると、餅田が小声で耳打ちしてきた。


「それがさ、昨日あの人手紙書かせてって、なーちゃんに頼んだの。けど、なーちゃん、マジギレしててさ。『三秒以内に書け』って意地悪してさ……」


 なるほど、そんな事情が。

 メルも随分と面倒な奴を怒らせてしまったものである。

 

 しかし、それにしてもさっきから餅田の吐息が耳にかかっているんだが。

 俺はひとり、頬を染める。耳も何だか熱くなってくる。

 こういうウブなところ、ホント自分童貞だわ、と自覚させられる。


 と、刺すような視線が前方から。


「……」


 メルが思いっきりこちらを睨み付けていた。

 なんでそんなリアクションをするのかは分からないが、餅田が険悪な視線を感じ、一歩退く。


「で、その頼みってのは何だ?」


 まだ引き受けたわけではないが、取り敢えず詳細だけでも聞いておく。

 メルはまだ不満そうな表情をしているが、ひとつため息をつくと、ゆっくり話し始めた。


「布地を買ってきてほしいの」


「布地?」


 これは思わぬ依頼だ。

 てっきり、脱獄の手配でもさせられるのかと。


「そ、服の生地ね。アンタ、昨日私の家で見た服のこと覚えてる?」


 ああ、と生返事。

 お世辞抜きにしても、かなり精巧に作られた代物だった。

 メルは自分用に裁縫したらしいが、充分売り物になるだろう。


「あれと同じものをもう一回作りたいの」


「なんで? そんなに未練あったのか?」


 俺が問い返すと、メルは「鈍いわね」と肩をすくめた。

 

 ほんと、もう帰ろうかな。


「だーかーら、それを作ってあの長谷川とかいうヤツに返すの。そしたら、アタシもここから出してくれるでしょ?」


「ふぅん、そんなんで許してくれるかねぇ」


言質げんちはとってあるわ」


 俺は、確認するように餅田を見た。彼女もうんうん、と頷いている。

 そんなんで、盗人を許しちゃうあたり、長谷川も結構チョロいのかもしれない。


 っていうか、どんだけ制服好きなんだよ。あいつもあいつで、よく分からんわ……。

 

「で、その材料を俺に取って来て欲しい、と?」


「そ、お願い。報酬は20000ヴァーツ払うわ」


 メルは人差し指を一本立てて、頷いた。


 暫く、思案に暮れる。


 ま、悪くない仕事か。いや、それどころかかなり良い条件。

 どうせ、買い物を代わりにするだけだし、しかも、ギルドを挟まない個人依頼だから20000が丸々懐に入ってくる。

 近頃、しょっぱい依頼続きで段々厳しくなっていただけに、その仕事は魅力的だ。


「どこの店で買えばいいんだ? ここの近くなら、今日中に片付けられるけど」


 俺が勝手に話を進めると、メルは笑いながら、


「今日中は無理だと思うなー」


と言う。


「は?」


「あなた、『トバコ』って知ってる?」


 怪しく目を光らせたメルが指示したのは、外部への遠征。


「アタシが買ってきて欲しい布地はそこにしかない布地なのさ」


 つまり、例の危険街道『イストナロード』を抜けた先にある街への買い物だった。


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