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YES/NO『青春デビューに失敗した人間が、異世界デビューを成し遂げられるか?』  作者: 志島踏破
第参章 君のハートをスチールっ★ 〜鍛冶職人系女子メルの依頼〜
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第四十三話 『決定的衝突』

 どんどんどん!


 扉をノックする音は止まない。その音は家全体に響いているようで、商品棚も僅かに振動していた。


「え……アレ……どうしよ……」


 俺は店内で迷う。このまま出ていくべきか、それとも。

 俺って店員じゃねぇしなぁ……。

 当たり前の思考が首をもたげ、俺は地下室への階段に向かった。

 重たい扉を開け、口を開いた闇に向けて、大声で叫ぶ。


「おーい! メルぅ! ロイギルの連中が来て――ぐぎゃッ?!」


 最後まで言い切らないうちに、俺の眉間にレンチが飛んできた。

 目から火花が散って後ろ向けに倒れる。

 ズドドと階段を駆け上がって来る音がして、メルがまたも俺の胸倉を掴んだ。

 彼女は小声で責め立てるように、


「大声だすなよ! 今日は連中が来る日だから、居留守使ってたんだっつーの!!」


「え、あ、そうなの? でも、あいつらも客なんじゃ……」


「あんなクソ共こっちから願い下げだよ! 誰が売ってやるもんか」


 犬歯を見せて怒りを顕わにするメルに俺は呆気にとられる。

 何故、彼女が彼らにそこまでの敵意を抱くのかは分からない。その拒絶感の裏にある真意は読み取れない。

 と、店内での物音に気付いたのか、外で男たちが勢いだつ。


「オイ、今音しなかったか?」

「ああ。たぶん、いるぞ……」

「おいっ! 開けろッ!! いるのは分かってるぞ!」


 更に扉を叩く音は強まっていく。

 メルは、「ああー、もーう……」と額を抱え、そして恨みがましげに俺をねめつけると、扉の方へ向かった。


「おい、出るのか?」


「あーん? ったりめぇだろ。これ以上近所迷惑なことされるとこっちが困るんだから」


 気丈に背中越しに語ると、彼女は勢いよく扉を開き、男たちの間に飛び出していった。

 俺は彼らの様子を入口近くの小窓からこっそり窺った。

 根性無し、と言われるかもしれないが、飛んで火に入る夏の虫も大概だと俺は思っている。生憎、自分からいざこざに巻き込まれに行くほど俺は暇でもない。とっとと逃げ出しちまおう。

 そう考えて踵を返そうとした所で、


「うっせーぞ、この馬鹿ども!」


 メルの吠え声が轟いた。途端に、外の雰囲気が険悪に張り詰めた気がした。


――おいおい……

 

 俺は事の運びが気になり、その場に留まる。馬鹿だな、早く逃げちまえばいいのに。

 頭の中の自分がそう囁くが、どうにも足は言うことを聞かなかった。ソレはまるでここで逃げてはならない、と主張しているかのようだった。

 

 さて、どっちが俺の本心か。


「今日はやってないよ! 何の用だッ」


 目を剥いて威嚇するメルに、男たちは一瞬虚をつかれて言葉を失う。

 だが、先頭に立つ男が、すぐに気を取り直し、怒号を放つ。


「何の用だじゃない! 先月から手紙を送っていただろう! なぜ、返信をよこさないのだッ」


 つばきを飛ばす男に、メルは鬱陶しそうに身体を引く。

 そして、彼女は小さく舌打ちをして。


「アンタらのそういう所が嫌いなんだよ! なんで、あんな(・・・)偉そうな手紙送りつけといて、受取人が返事なんざ書くと思ったんだよ?!」


 メルの主張に、連中は唖然とする。

 相手の反応が思わぬものだったのだろうか。 

 男はギリッとひとつ歯軋りすると、突然、メルの細い腕を掴んだ。

 いつも荒っぽい口調の目立つメルだが、このときばかりは「きゃっ」と女みたいな悲鳴を上げた。


「言い訳はどうでもいい! 後は支部で聞くっ。とにかく来るんだッ」


「おい……」「な、誰だ……」

 

 気付いたときには、俺は店外に飛び出していた。

 ロイギルの三人衆はいきなり現れた俺に、如実に警戒を示す。


そして、


「こいつッ、武装してるぞ!」


 一人の焦り声でそれは戦闘前のような緊張に変わった。


「あ……」


 そこで俺は自らの犯した失態に気付く。俺の手中にはさっきまで品定めしていた大剣が握られていたのだ。そりゃ、強引に店主を連れ去ろうとした所に、店から刀剣を握った男が出てきたら連中も動転するだろう。


「剣を抜けッ」「くそっ」「えぇい!」


 男たちも、各々三色の反応を示し、つるぎを抜いた。銀刀が陽光を反射し、鋭利に光る。


――やっべぇ……


 冷や汗がダラリと頬を伝った。


「あの……すんません、誤解です……」


 片手で彼らを制しながら、俺は愛想笑いと共に、商品を地面に置いた。

 そういえば今の発言で思い出したが、『誤解です』とは本日二度目となるセリフだ。


――思い出した


 意識を失う直前、俺はテトがすぐ近くにいたのを見たのだ。

 これはその時に吐いたセリフ。今頃、彼女は俺のことをどう思っているのだろうか。

 

 もしかして、帰ったら机の上に、『さようなら。探さないで下さい テト』とかいう置手紙があるんじゃなかろうか。そんなことになったら、もう明日には首を吊ってる自信がある。

 だから、まだギルドに残っているかもしれない、その一縷の可能性にかけても早くこの場を辞さねばならないのに、


「信用できるかぁぁぁ!」「公務執行妨害ということで斬っちまおう!」「覚悟ォ!」


 男たちに俺を逃がしてくれるような余裕はないらしい。

 一番近くに居た男が長い剣を振りかぶった。

 日差しに遮られた部分が俺の右目に黒い影を作る。

 

――ヤバい、死ぬかも。


 時が、止まる。

 メルが悲鳴ともつかぬ大声を上げているが、それも水平線に引き伸ばされ、何を言っているのか判然としない。沢山の記憶が流れた。映画のスクリーンを極限まで圧縮したような映像が瞼の裏にスピード上映される。 

 これがフラッシュバックってやつかぁ。


 感心していると、俺の身体に懐かしい熱さが蘇った。

 じわじわと身体の芯からせり上がって来るエネルギー。

 咄嗟に理解する。

 だが、今ここでアレを行使してしまうと……?!

 ダメ元で念じる。

『防御だ! 防御しろッ』

 もう、刃先は俺の眼前に迫っていた。


「くそッ!」


 目を閉じたその瞬間、俺は――


次話、『ロイギルの逆襲』

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