表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YES/NO『青春デビューに失敗した人間が、異世界デビューを成し遂げられるか?』  作者: 志島踏破
第参章 君のハートをスチールっ★ 〜鍛冶職人系女子メルの依頼〜
43/88

第四十一話 『すちーるぱーんちっ!』

「オイ。追い出されちまっただろが、コノヤロー」


「うるさいなー。さっきごめんって言ったでしょ」


 アデレイドの中央道を俺とメルは歩きながら、口喧嘩。

 ついさっきまでごっつい店主に放り出されたカフェの前にいたが、通行人の目が痛かったのでそそくさとその場から離れたのだ。因みに、今はストリートを下っている。

 人混みが激しくなってきた。そろそろ帰りたい。


「よぉー、メル。俺もう帰っていいか? 大体聞きたいことは聞けたし」


「へぇー、なんか知りたいことでもあったの?」


 周囲の喧噪が激しいので、二人とも若干声を張り気味にせねばならない。


「ああ。その制服のヒミツとかなー」


 ぎくり、と聞こえた。やっぱり、メルの顔が青ざめた。

 ここまで分かりやすい反応を示されると、実に面白おかしい。

 案外、表裏のないイイヤツなのかもしれない。なし崩し的に。


「な、ななななんのことかね? フルタニくん」


 動揺で語調の震えるメルに、俺は口の端を上げる。彼女を指差して、指摘した。某少年探偵の如く。


「お前、その服、盗んだな?」


 彼女の口がぽっかり開く。そのまま動かない。

 俺は、ようやく謎が氷解したおかげで、かなり気分が良かった。こう、なんというかルービックキューブの六面を全て揃えられたときのような爽快感がある。

 まあ、一面しか揃ったことないから分かんねぇけど。


 俺の推理はこうだ。


 まず、一昨日。すなわち、俺が異世界転移された日のこと。一緒にこの世界にやって来た高校生らが居た。

 男が二名、女が二名である。

 女たちは勿論、制服でリアルからこちらに渡って来ていた。

 そして、その四人がロイヤルギルドの門戸を叩くまでの途上、おそらく多くの人目にさらされたことだろう。

 俺だって沢山の奇異な視線を受けた。だって、どう考えてもこの異世界には、現代服を着ている人間はいやしないんだから。

 人々が彼ら彼女らの制服に驚きを覚えたのは言うまでもなかろう。そして、中にはその服に新鮮な魅力を覚えた者だっているに違いない。

 どんな手段を使ってでもそれが欲しい、と思う人間も居たかもしれない。


 そして、たまたまその魅力に取りつかれてしまった女が、鍛冶場の職人で、長い黒髪で、まあ美少女だったってこと。

 

 それこそが、ことの真相。衣装を自分で作ったなんて真っ赤なウソ。

 

 真実は、盗んだ相手の服を図々しくも自分が使っている、それだけのことだ。

 なれば、被害者の目から逃れようとした盗人の行動も理解できようもの。

 

 全てが繋がった――




 ――所で俺は殴られた。


 ドザザァァァァア!


「……?! ……?!」


 仰向けに倒された俺の視界には、建物群に切り取られた綺麗な晴れ空が広がる。

 遅れて、鼻の下あたりに違和感が。拭う。見る。鼻血だ。


 鋼を鍛え続けることで養われた強烈な右ストレートが俺の鼻面に飛んだのだ。


 ふと、視界に影が降りる。その主は長い黒髪を垂らしながら、何やら額に筋を立てている。

 口元が引き攣っていた。恐いなぁー。


 と思った瞬間、胸倉を掴まれ、無理矢理持ち上げられる。

 信じられないことに、ほとんど身体が浮いていた。

 

 鍛冶職人メルはそのまま俺を建物の壁まで引きずっていく。背中が壁に当たる感触を覚えた。むんずと服をつかむ腕の握力は凄まじく、まったく外せそうにない。

 っていうか締まってる! 締まってる!


「ぐええ……」


とカエルみたいな断末魔を上げて鼻血をブーたれている俺に、メルは滅茶苦茶顔を近付けてくる。ともすれば、彼女の息遣いが鼻にかかるくらい。

 いまさら通りかかったのか、何も知らない奥様方は、「あらあら」「やぁねぇ、昼間っから」「若いわねー」と何とものんびりした会話をしている。

 どうやら彼女らの位置からはメルが無理矢理、俺にキスしているように見えているらしい。


 しかし、当事者としては今すぐにでも誰かに止めて欲しい。

 

 コロされる……

 

 俺の腹部には何処から取り出したのかも分からない『バールのようなもの』が押し当てられていた。

 SAN値がピンチである。

 一歩でも動けば、ドスリだ。クリスマスを控え、すっかり浮かれ気分のこの街で凄惨な殺人事件が起こっちまう。


「アタシが盗品を着込んでいるってぇ?」


「違うんすか……?」


「ちげぇよ……!」


 メルの顔は真っ赤になっていた。対照的に、俺の顔面は真っ青。

 もう息が……アレ、視界がぼやけ……

 身体からストン、と力が抜けた。それを認識し、段々地面が迫って来るのを感じた時、俺は視界の端に黄色い影を捉える。


 小さな身長に、長い金髪。そして、大きな尻尾に、ケモ耳のきつね少女――


――テトがあんぐりと口を開けて硬直していた。


 そのポジションはついさっき女性たちがいたところ。


 つまり、ちょうどメルが俺にキスしたかのように、見える位置だった。


「ごかい……だァ」


 そう呻くと同時に、俺の意識は途絶えてしまった。


次回、『メルの私宅にて』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ