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YES/NO『青春デビューに失敗した人間が、異世界デビューを成し遂げられるか?』  作者: 志島踏破
第壱章 異世界転生がなんか思ってたのと違うんだが
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第十一話 『THE すねぇく 俺氏、爬虫類と出遭う』

「ったく……どんだけ広いんだよ、この森……」


 俺は小さく舌打ちする。さっき歩き始めてから、もう一時間は経過した筈だ。

 

……いや、もしかしたらまだ三十分くらいしか経ってないのかもしれない。


 如何せん、時刻を知る手段が現在、手元にないのだ。


 腕時計は日頃から嵌めてないのが祟って、今日も持参してないし、スマホはリュックの中だ。そして、その肝心のリュックも転生の折、失っている。


 つまりはこの身一つというわけだ。あまりにも不遇な異世界転生なことだ。

 普通、ネット小説に従えば、俺は今頃、強力な武器とチートスキルで以って、ハーレムウハウハだったはずなのに。


 あまりに不遇過ぎる。やはり、俺が生来持ち続けてきた不幸スキルはこの世界でも健在なようだ。


 こうして童貞ぼっち19歳の怨念サーキュレーションは更に、勢いを強めていく。


 

 くそ……リア充共が憎い……


 俺はついさっき天界で起きた例の出来事を思い出す。顔が小物悪役のように醜く歪んだ。

 現実だけでなく、勇者召喚の儀においても、自分はおまけとして扱われたのだ。……いや、補欠として扱ってくれたのなら、まだ納得のしようもあっただろう。

 だが、俺はあの場で完全に邪魔者として排除されたのだ。


 上澄みに残ることが出来ず、沈殿物へと堕された者の嫉妬と憎悪は根深い。


 ぎりぎりと奥歯を噛みしめた。今の自分なら、何を相手にしてもその憤怒で打ち破れる、そんな気がした。


 そして、次の一歩を苛立たしげに踏み出したとき、何だか妙な感触が足元に残った。


「んぇ?」


 俺は不快感に顔をしかめながら、地面を見る。

 マダラ模様のぶっといロープがNICEなスニーカーで踏みつけられていた。

 俺は壊れかけのロボのようにそのロープを視線で辿る。

 そいつは段々と太くなり、そして数メートル離れた箇所で幾重にも渦巻いている。

 最上部に、その長―い体躯を有するぬしの顔があった。


 俺は無表情なのか怒っているのかよくワカラン顔のヤツと視線を合わせる。

 当然、目と目が合った瞬間に恋が芽生える筈もない。むしろ剣呑な雰囲気が立ち込め始めていた。


「い、いやー……誰にでも勝てるなんてそんなわけないっすよねぇー? う……うっそぴょーん……!」


 俺は相手を宥める為に愛想笑いで頭頂部から両手を出して、ウサギさんの真似とかしてみる。ぴょんぴょん。

 だが、彼はシュルルー、ルシュルー、ルルルシュー……と赤い舌を出したまま真顔を崩さない。

 ああ、こんなときにギアスがあれば。


「あは、あはは……」


 愛想笑いと共に、冷や汗ダクダクで後退しようとすると、相手は突如、ガバァと口を開いた。


 本部へ入電! 敵は捕食体制に移行せり!

 どうやら、当方はウサギさんと誤認されたようである!

 至急、回避行動をとれ!


「のわあああああ!」


 本日数度目となる危機再来に俺はその場から、文字通り脱兎・・の如く駆けだしたのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おーい、三人共ちょっち待ってくんね? すんげーもん見つけたわ」


 こんもりと木々が生い茂る森の中。

 のんびりした口調で喋る男の声がした。

 

「あ? 何やってんの? ジュンペイ」

「どうした?」


 それに応答するようにして、ぶっきらぼうな女の声とクールな男の声がハモった。


「いやいや、珍しいモン捕まえてさぁ……」


 ジュンペイと呼ばれた男——飯島(いいじま)が何か腹に一計企てるような顔で彼らに近付いていく。彼の学生服のズボンには雑草が幾本かくっついていた。


 ぶっきらぼうな女――長谷川(はせがわ)と生真面目な青年――鏑木かぶらぎは怪訝な顔で観察する。

 そして、二人の後ろからは餅田(もちだ)が何処となく不安げな顔で遠巻きに見守っていた。

 いずれの男女も皆、高校の制服を着ており、そして一様に草などが引っ付いていた。


 長谷川はゆっくりと目の前にやって来る飯島にイライラしたように声を荒げる。


「ちょっと何? あんた、ウチら先急いでんのが分かって――ぎゃっ!!」


が、飯島がぐいっと近付けたものを見て、彼女はハイトーンな叫び声を上げる。餅田も彼女の悲鳴につられるようにして「きゃっ!」と控えめにのけ反った。


「おい! ジュンペイ、お前それッ!!」


 鏑木が若干取り乱した様子で言う。


「ん、蛇じゃんねぇ。シュシュシューだってさ」


 しかし、当の飯島は全く動じず自分の手に握られる爬虫類を見ながら笑う。頭を押さえられた体長一メートル近い蛇は長い歯を獰猛に剥いていた。


「シュシュシューじゃねぇよ! このダボ!!」


 そんな彼のボディーに長谷川が思いっきりブロー。


 彼は「ぐうっ……!」と苦悶の声を上げて膝を折った。その勢いで飯島から蛇は逃げていく。

 鏑木は最初に驚いただけで後は平静としていたが、餅田は蛇の一挙手一投足にいちいち敏感に反応していた為、ほっと安堵の表情。


「ごーめん、ごーめん。皆の反応が見たくってさ」


「ああ?! あんまフザけたことすっと、マジぶっこ●すぞお前!!」


 へらへら笑いながら、詫びを入れる飯島に対し、長谷川は青ざめた顔で拳に力を入れていた。

 放っておくと、もう一発殴りかねない勢いである。そんな彼女を餅田が「ま、まあまあ……」と諫めて、何とかその場は流れた。

 鏑木は腕を組みながら苦々しい表情を浮かべ飯島を諭す。


「まあ、取り敢えず、女の子にああいうイタズラはやめとけ」


「わりわり。まあ、確かにさっき身をもって学んだから、もうしませんわ」


「分かったらいいんだ。それにしても、ジュンペイはよく素手であんなモン捕まえられたな……」


「ああ……。うち、ペットの蛇飼ってるからさ。扱いには慣れてるんだよ」


 からからと笑いながらそんなことを言う飯島に他の三人は同時に同じことを考えた。


――蛇をペットにするってどんな家だよ?!



 少し引き気味の態度を見せる三人に、飯島はキョトンとした顔をする。


「あり? もしかして、そういうのってウチくらい?」


 彼を除く全員が無言で首肯を返す。


「マジかよ」


 暫く飯島は家庭環境の違いに絶句。


――どーん!


 そして、彼が目を見張るのと、森の向こうで爆発音が鳴るのはほぼ同時だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ぶらああああああああ!! こっち来んなぁぁぁぁぁあ!!」


 俺は悲鳴を上げながら、全速力でジャングルのような森を駆け回っていた。リアルターザンである。


 歩いているときはあまり感じなかったが、走っているとここがどれだけ走行レーンに相応しくないかが身に染みて分かる。足元に倒木、頭上には蜘蛛の巣、ツタ類、木、木、木!

 何度もそれらに引っ掛かったり、顔面をぶつけたりしながらもアクセルは全開で走破する。

 何故なら、止まること、それは死を意味するから。


――ざざざっ、ざざざっ


 さっきから後方で重いものが引きずられる音がする。

 間違いなくヤツが地を這い自分を追い掛けている。

 パッと見、ヤツの体長はバス一台分くらいはあった。

 とんでもない大物である。それとも、異世界ではあの大きさがスタンダードなのだろうか。

 

 だとしたら、初っ端から飛ばしすぎだろ、このクソゲー。

 こちとら、未だ武器一つねぇ経験値ZEROのビギナー様だぞ?!


 あまりの理不尽さに孫の手でも借りたくなった俺だったが、突如、バランスを失い転んだ。


「なっ! ああっ!」


 顔面から落ちていき、地面とキスを交わす。

 何事、と思い自分の足を見ると、蔦がしっかりと絡まっているではないか。

 急いで、取り除こうとするが、かなり固くなかなか解けない。


 そして、そうこうしている内に目の前にヌッと影が現れた。


「ぎょああああ!」


 ケタケタ嗤っているかのように身体をくねらせる大蛇を見て、俺は失禁寸前。

 さっきトイレ済ませたばかりなのにぃ!


 蛇は心底嬉しそうに大口を開け、腰を抜かした俺に飛びかかる。


「だから来るなぁぁぁぁぁっぁーー!!」


 雄叫びと共に右手を突き出した。


 それは本当に反射的な動作だったと思う。だが、その行為は思わぬ効力をもたらす。


 俺は体内でまたもエネルギーがせり上がる感覚に襲われた。

 そして、その奔流は一瞬で右肩、右腕を伝い、掌に達する。


――ドウッ!!


 突如、突風が手の内から発生する。

 その強風は目の前の蛇を軽く巻き取り、そして、周囲の自然も絡めとりながら吹き飛ばした。

 森のど真ん中で発生した圧倒的なパワーに鬱蒼と茂る者たちは次々に悲鳴を上げる。

 中には根っこからもぎ取られる大木もあった。

 しかし、破壊の渦はそれでも止まらず、全てが掻き消えるまでに暫くかかった。


――そして、一分後


 いつの間にか目の前には綺麗に整地された道が出来上がっていたのだった。


スーツのお兄さんにバイト勧誘されて今日もキョドる

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