表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ひねくれた性格の作者が【浦島太郎】を書いてみた

作者: 吉富ユウキ

むかし、ある村に心が優しくて筋肉が凄い浦島太郎という若者がいた。


ある夏の日の深夜、日課の筋肉トレーニングで火照った体を冷まそうと海の方に行ってみると、そこにはいかにも関わりたくない系の少年たちが夜遊びをしている最中だった。


その少年たちの方をよく見てみると、少年たちは産卵の為に陸に上がってきたアカウミガメをいじめていた。それを見て浦島はいてもたってもいられなくなり、少年たちに声をかけた。

「亀が可愛そうだろう。逃がしてあげなさい。」

しかし、少年たちはたくましい上腕二頭筋と大胸筋を持った浦島太郎に怯むことはなかった。

「んだよ、てめぇには関係ねぇだろ。俺たちが見つけたから俺たちのモンだ。」

浦島太郎は自慢の筋肉で少年たちを二つ折りにしてやろうかと思った。しかし、大きい個体だと180キログラムになると言われているアカウミガメを一方的にいじめるこの少年たちとケンカするのは得策では無いと思った。ここで争うと最悪、産卵に来たアカウミガメの卵を潰すことになるかもしれない━━という建前で本当はケンカに勝つ自信が無い浦島太郎は和平交渉を試みる事にした。だって180キログラムの亀をいじめる少年たち複数人相手に勝てる見込み無いし。

「それでは、お金をあげるからそれで亀の所有権を僕に譲ってくれないか?」

そう言って浦島太郎は持ち合わせのお金全額を差し出した。しかし、夜遊び少年たちはそれを見て

「これだけじゃあ足りねぇな、なめてんのか。」

と言ってきた。持ち合わせがそれだけしか無い浦島太郎が困った顔をしていると

「じゃあツケにしておいてやるよ。二日後の同じ時間にこの場所に金持ってこい。その大胸筋……てめぇはあの村の浦島だろ?もしも二日後ここに来なかったらてめぇの家をぶち壊す。」

そうして、浦島太郎は亀の所有権を手に入れた。色々なモノを犠牲に…。


浦島太郎が「ヤバイ、この村から出ないとこれから先、生活することが出来ない…。」と考えて夜逃げを覚悟したところ、誰かから声をかけられた。

「浦島さん……浦島さん…。」

さっきまで危ない夜遊び少年たちと会話していて極度の緊張状態だった浦島太郎は、この周りに人がいない状況で話しかけられるという事に恐怖を感じた。

「すみませんでしたァァァァ!」

亀から見て10時の方を向いて浦島太郎はとても綺麗な土下座をした。ちなみにもう既にそこには夜遊び少年たちの姿は無い。亀はこの状況を見て再び話しかけるか悩んだが、また話しかける事にした。

「浦島さん……浦島さん…。」

「ヒィィィスミマセンデシタァァァァ!!!」

いい加減話が進まない事に苛立ちを覚えた亀は浦島太郎に体当たりをした。100キログラム越えの体重で。幸い浦島太郎自慢の背筋のお陰で大事にはならなかった。


「浦島さん、先程は命を助けていただきありがとうございました。」

しかし、ついさっきまで緊張状態だった浦島太郎はそんなこと聞いていられるような精神状態ではなかった。

「イイヨ、イイヨ。お礼なんて。だってお礼言われても1銭の価値もナイモンネ。」

もはや壊れかけている浦島太郎に同情した亀は一つの提案をすることにした。

「竜宮って行ったことありますか?」

「どこか知らないところには行けないよ。」

「竜宮は海の底にあります。」

「無理じゃね?」

「連れていってあげましょうか?」

夜逃げを考えていた浦島太郎にはありがたい提案だった。

「家から必要なモノを取ってきてもいいかい?最悪移住も見当しないと…。」

「わかりました。なるべく早く戻ってきて下さいね。」


数分後、浦島太郎は風呂敷に筋肉トレーニングの為の鉄の塊や米を炊く為の釜等浦島太郎が必須と思うものを持って戻ってきた。その後亀の「海の底に稲は自生しませんよ?」という発言により釜は置いていく事になったが。


「さぁ、私の背中に乗ってください。」

「では、よろしく頼む。」

そう言って浦島太郎は亀にまたがった。その時、亀が浦島太郎に聞いてきた。

「浦島さんはどれくらい呼吸を止めることが出来ますか?」

「…?3分くらいだが??」

「わかりました。それまでには海底に着くようにしますね。」

そうして、亀は海に潜り始めた。アカウミガメの産卵の時期が夏なので水温は耐えられないほど冷たくはなかったが、問題は別のところにあった。


亀は海底200メートルを3分ギリギリだとトラブルに対応出来ない為、2分半でたどり着くような計算で泳いでいた。つまり時速4.8km。これは日本人が陸で普通に歩く時の速さとだいたい同じである。亀にまたがった格好の浦島太郎にはかなりの水の抵抗があった。振り落とされそうになった浦島太郎は亀にしがみついた。亀は正直発達した大胸筋と上腕二頭筋の持ち主に抱きつかれるかたちになって不快だったが、抵抗もせずに泳ぎ続けた。風呂敷が流されていくのはスルーしたが。


水深200メートル、つまり21気圧程のところにある竜宮へたどり着いた。正直人間が長時間居座れるような環境では無いが、陸に戻るのは夜遊び不良少年たちが怖いので浦島太郎は耐えた。頭痛や吐き気はするが、うまい具合に酸素はあったので生活出来なくもないと思った。


先に一匹で御殿の中に入った亀がもどってきて、浦島太郎を中に案内した。案内されるがままに御殿の中に入ると中からこの竜宮の女主人である乙姫が色とりどりの魚と共に浦島太郎を出迎えてくれた。

「ようこそ浦島さん、私がこの竜宮の主人である乙姫です。経緯は先程亀から聞きました。亀を助けていただきありがとうございました。お礼に竜宮をご案内します。どうぞゆっくりしていってください。」

浦島太郎は竜宮の広間へ案内された。浦島太郎が用意された席に座ると食事が用意された。しかし、用意された食事は主に海藻だった。

「……あの、他の食事は…?」

「海藻とプランクトンしかありません。」

「……魚は?」

「我々に仲間を捌けとおっしゃってます?」

「……イカやタコは?」

「捕獲しようと思ったら我々が逆に食べられます。それでも取ってこいと?」

「……何でもないです…。」

そこへ亀が貝をとってきた。基本浅瀬にある貝は陸に用事がある亀くらいしか取れないのだ。亀から貝を受け取った浦島太郎はそれを調理しようと思った。しかし、魚に止められた。

「ダメです。」

「何でだよ!」

「海中にある酸素は有限です。火を使うということはそれだけ酸素を使うことになります。我々はそれでも生きていけますが、あなたと乙姫様はそういうわけにはいきません。乙姫様と心中でもしたいんですか?許しませんよ?」

「ハイ…。」

ということで、浦島太郎の食事は海藻と貝(火が通ってない)となった。




乙姫が「もう一日いてください。もう一日いてください。」と何度も言う上に、浦島太郎自身ももう帰る家が夜遊び不良少年たちに壊されていて無いだろうから帰らなかった日が続いた。そして3年の月日が流れていた。そこで浦島太郎は思った。夜遊び不良少年たちは既に自分の事を諦めているのでは無いだろうか、と。環境は良かったが、食事が殆ど海藻なのでもう既に飽きていた。なので浦島太郎は地上に戻ろうと思い、乙姫に話をつけることにした。

「乙姫様、今までありがとうございます。ですが、もうそろそろ家へ帰らせていただきます」

「帰られるのですか? よろしければ、このままここで暮しては」

「スミマセン、さすがに毎日海藻には飽きたんです。ミネラルだけでなく、炭水化物やたんぱく質を取りたいんです。」

「ミネラルは人体に必要なモノなんですよ!」

「だけど!人間には他の栄養素も必要なんですよ!!」

 すると乙姫様は、寂しそうに言いました。

「・・・そうですか。それはお名残惜しいです。では、お土産に玉手箱を差し上げましょう」

「玉手箱?」

「はい。この中には、浦島さんが竜宮で過ごされた『時』が入っております。

 これを開けずに持っている限り、浦島さんは年を取りません。

 ずーっと、今の若い姿のままでいられます。

 ですが一度開けてしまうと、今までの『時』が戻ってしまいますので、決して開けてはなりませんよ」

「はい、わかりました。ありがとうございます」

正直、浦島太郎は話が長い上に、時が入ってるとか訳の分からない事を言われていたため半分聞き流していた。


乙姫と別れた後、亀にしがみつくと地上についた。海底の水圧に体が慣れていた浦島太郎は体に異変を感じていた。余談だが、深海魚は地上にあげると気圧の変化に耐えられずに死ぬ。


亀から降りて「ありがとう」と亀に礼を言った。しかし亀から返事は無い。更に亀は全く動かない。どうしたものかと亀を覗きこむと、あろうことかその亀は白骨化していた。

浦島太郎は怖くなった。今さっきまで自分を乗せていた亀があたかも何十年も経ったかのように白骨化している状態は信じがたいものだった。


更には顔を挙げると周りの風景が3年とは思えない程変わり果てていた。カレンダーも無ければ太陽光の当たらない海底にいた浦島太郎は自分の時間感覚がおかしくなったのではないかと思った。そこで近くにいた人に今はいつなのかを聞いたところ、自分の記憶の時代よりも700年程経っていた。浦島太郎はパニック状態になった。何故こんなことになったのか見当も付かなかった。


そして何か手がかりが無いかと思ったら手元にあった玉手箱に目が行った。この玉手箱の中にヒントがあるかもしれない、そう思った浦島太郎は玉手箱を開けた。すると、大量の煙が箱の中から出てきた。玉手箱の中から出てきた煙を浴びている浦島太郎は何故か走馬灯の様に竜宮での事が思い出された。……もう海藻は勘弁です。


煙が晴れた。そこに残っているモノは開けられた立派な箱と白骨死体のみだった




おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ