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八話  新たな仲間

 □◆□◆


 ★



 武瑠と直登は商店街に戻って来ていた。

 アーケード内を向かい合って並ぶ軒先。身を隠しやすいこの場所には、誰か隠れているかもしれない。


 武瑠は定食屋跡に入った。


「直登、誰かいたか……って、なにやってんだ?」


 直登はモップの柄に錆びた包丁を縛り付けていた。


「なにって、武器は必要だろ? ――ほら出来た!」


 自慢げに完成した槍を掲げた。


「器用なやつだな。俺も武器になりそうな物を見つけたんだけど、直登には必要なさそうだな」


 武瑠も、木刀と手ごろな角材を見つけていた。

 あのバケモノは、沢部利春が振り回す鉄パイプを受け止めて感電死させた。鞭のように振るう尻尾も、人間を引き摺って素早く動けるパワーも油断ならない。

 それを思えば、手作りした槍や木製の武器では心もとない。それでも素手では到底太刀打ちできないし、なにより武器を持っていないと不安で仕方がなかった。


 直登が何かに気付く。


「武瑠、あれって……武東たちじゃないか?」


 アーケード内の道の真ん中を、武東良樹の班が堂々と談笑しながら歩いている。


「ほんとだっ! 武東っ、お前ら無事だったのか!」


 いきなり商店から声をかけられて一瞬驚いた顔をした武東だったが、武瑠と直登の顔を確認すると笑みを浮かべた。


「なんだ、神楽と相模か。脅かすなよ」


 武瑠と直登は周りを警戒しながら武東たちに駆け寄る。


「脅かすなよじゃない! 信じられないかもしれないけど変なバケモノがいるんだ。とりあえずついて来てくれないか」


 今出てきた、崩れそうな定食屋跡を差す。


 真剣な武瑠の表情を見た武東たちはキョトンとし、次の瞬間大声で笑いだした。


「な、なにがおかしんだよ、口閉じろって! バケモノに聞かれたら寄って来るだろッ!」


 直登の警告も、武東たちには届かない。


「神楽と相模までバケモノ話に付き合ってるのか? こんなことやってるの道信だけかと思ってたぜ」


「道信? 兵藤も一緒なのか?」


 笑いがおさまらない武東たちにイラっとしながらも、武瑠は兵藤道信の姿を見つけた。


 武東の班は、


 瀬良勝徳・皆本理・才賀名美・宇津木弥生・七瀬桃香・物部由芽がいる。


 そのなかに、死んでいた座間巧と同じ班だった兵藤が、青い顔をして混ざっていた。


「兵藤っ、よかった! 生きてたんだな!!」


「か 神楽、お お前らも見たんだよな? 良樹に言ってくれよ 俺は嘘なんかついてないって、バケモノは本当にいるんだってッ! こいつらに言ってやってくれよぉッ!」


 武瑠にしがみついた兵藤は、泣きそうな顔でまくしたてる。


 その様子を見た宇津木弥生は、


「はいはい、バケモノ話はもういいから。さっきまでかくれんぼに付き合ってあげたのに、バケモノなんて出てこなかったじゃない……」


 ため息を吐く。そして武瑠と直登の武器を目にすると、


「そんなモノまで用意するなんて、神楽と相模はさらに重症ね。もう集合時間は過ぎてるのに、バケモノごっこで遊んでるなんて……。佳菜恵ちゃんに叱られても私たちのせいにはしないでよね」


 バカにするかのように目を細めた。


「ごっこじゃないっ、本当にバケモノがいるんだよッ! 話をするから今は隠れよう、ここは目立ちすぎる!」


 直登の切迫した物言いに、おそるおそる七瀬桃香が口を開く。


「ね、ねぇ。直登くんたちがこう言ってるんだから、話くらい聞いてみない?」


 そんな桃香の肩を、後ろから物部由芽が抱いた。


「そんなこと言ってぇ~、桃香まで話に付き合ってあげることないのに。そ・れ・と・も、そうやって相模の気を引こうとしてるのかなぁ~?]


「ゆ、由芽ぇ!? な、何言ってんのよ! ち、ちがうんだから、そ、そんなこと……」


 桃香はズレたメガネを直しながら、耳まで赤くして否定する。

 ……残念なのは、直登がこのやり取りを聞いていない事だろう。


 武東は桃香と由芽を無視して、


「道信が血相変えてやってきたと思ったら、いきなりバケモノが襲ってきたなんて言い出したんだ。お前らまでそんなこと言うつもりか? いい加減バカ話には付き合ってらんねぇよ」


 武瑠と直登を軽く睨む。


 弥生も同意見だったようだ。


「そうよ。いい加減にしてよね、冗談に品がないのよ」


「修学旅行が終わったら受験勉強漬けになる俺たちのために、佳菜恵ちゃんが仕組んだレクリエーションかと思ったから、かくれんぼまでしてやったのに。誰も探しにこなかったじゃないか」


 弥生に混ざって、瀬良勝徳まで不機嫌をあらわにした。


 臆病な才賀名美は、ケンカになりそうな空気を感じ取ってビクビクしている。


 マイペースな皆本理だけは、退屈そうに欠伸をしている。


 直登がずいっと前へ出た。


「お前らがいま生きているのは、道信の言葉に従って隠れていたからだ。バカ呼ばわりするより、感謝したほうがいいぞ」


 信じないどころか、話を聞こうともしない武東たちへのイラ立ちが隠せない。


「はぁ? 相模、バカ話もここまで来ると面白くねぇんだよ。そんなおもちゃ作ってる暇があったらな、もっと面白いバカ話でも考えたらどうだ?」


 お互いに詰め寄る直登と武東。その間に武瑠が割って入った。


「直登落ち着けってッ! 武東もやめてくれ、言い方が悪かったなら謝るっ。だから……」


「武瑠ッ、なんで謝らなきゃいけないんだッ! コイツらが……」


 ムキになる直登を武瑠はなだめる。


「だから落ち着けって! 今はケンカしてる場合じゃない、そうだろ?」


 不満をあらわにしながらも、直登は口をつぐんだ。


「武東も宇津木さんも、みんな聞いてくれ。兵藤は嘘なんか言ってない、座間が殺されたんだ。バケモノにッ!」


 武瑠の必死の表情と衝撃的な言葉に、武東たちは顔を見合わせながら注目した。


「座間が――死んだ?」


 震える兵藤に武瑠は頷いた。


「座間だけじゃない、三屋もそうだ。遠野と沢部、猪垣や羽豪も死んでた。俺たちと一緒だった篠峯聡美も殺されたんだ! 赤浜さんは目の前で連れ去られたし、他の奴らは行方がわからない。だから、みんなで島を脱出するためには力を合わせなきゃいけないんだよ!」


 懸命な武瑠の訴えに少しずつ皆が騒ぎ出す。


 その騒ぎをかき分けて、興奮した兵藤が前に出た。


「だろ! みんなも聞いただろ! 神楽だって見たんだよあのバケモノをッ! だから何度も言っただろっ、俺は嘘なんかついてないんだッ!」


 兵藤を横目に、弥生と武東が目を合わせた。


「ちょっとまって。神楽たちが真剣なのはわかったけど、私たちはそのバケモノっていうのを見てないのよ、信じろっていう方が無理だと思わない?」


「それに、そんなバケモノがいてみんなを殺してるなら、まずは港に戻って佳菜恵ちゃんに報告するべきなんじゃないのか?」


 まだ半信半疑らしい。


「だから言ってんじゃん、船の近くでアイツらに襲われたんだって……。今あの辺りはヤバイんだよ……」


 脱力した兵藤が膝をついた。


「俺たちも佳菜恵ちゃんに報告しようと思って船まで戻ったんだ。生きてるやつはいないしバケモノももういなかった。今は三島さんと貴音と和幸が、船に隠れながら俺たちの帰りを待ってる」


 武瑠の言葉に弥生が首を傾げる。


「なんで別行動してるのよ? みんなで隠れてればいいんじゃないの?」


「助かるためには隠れてるだけじゃダメだと思ったんだ。船を動かそうとしたんだけどカギがなくて、俺と直登は……」


 ここで、血相を変えた兵藤が武瑠の胸ぐらを掴んできた。


「船を動かそうとしただぁ! 神楽ッ、お前は自分たちだけで逃げるつもりだったのかよ!」


 あまりの剣幕に、直登と瀬良勝徳が止めに入った。


「相模ッ、瀬良ッ、離せよッ! こいつは、俺たちを見捨てて逃げようとしやがったんだぞッ!」


 直登は暴れる兵藤を羽交い絞めにする。


「聞いてくれ道信。俺たちはお前らを見捨てようとしたわけじゃないッ! 相手はあんなバケモノだ、俺たちだけで何が出来る? 警察なり自衛隊に来てもらった方が、助かる人数が多いと思ったんだ!」


「お前たちだけで逃げようとしたことには変わりないじゃないかッ!!」


 直登と兵藤のやり取りを聞いていた瀬良が、武東へと目を向けた。


「武東、どう思う? 兵藤も、神楽や相模も、嘘ついてるようには見えないぞ」


 武東も同じことを考えているのだろう。腕を組んで武瑠たちをじっと見ている。

 班長としてどうするべきか考えているのだろうが、武東よりも早く弥生が口を開いた。


「悪いけど、やっぱり私は信じられないわ。バケモノなんて、話が幼稚すぎるわよ。それに、話が本当かどうかなんて、船まで行ってみればわかることだし」


「そうだな、宇津木の言う通りだ。俺たちは船に戻る。神楽たちがまだ遊んでいたいなら勝手にすればいいさ。……みんな行こうぜ。」


「武東、これだけ言ってもまだ……」


 武瑠は立ち去ろうとする武東の腕を掴もうとしたが、直登に止められた。


「武瑠、宇津木の言う通りだ 行かせてやれよ」


「直登? お前、いくらケンカしそうになったからって……」


 直登は首を振って否定した。


「ちがう そうじゃない。ここで言い合ってても危険が増すだけだ、それなら船まで行って現実を見た方が早い。そうだろ?」


 確かにその通りだと武瑠は頷く。


「それに、どっちにしても島から脱出するためには船で合流しなきゃいけないんだ。武東たちが先に行ってても問題はないさ」


 人数がいた方が中森を見つけやすいのは間違いない。

 武瑠は武東たちにも手伝ってもらおうと思っていたのだが、信じてもらえないのであれば、かえって危険が増してしまう。


 この道で船まで戻るのなら、イヤでも座間たちの遺体を見なければならない。

 それで現実を知ってもらった後、一颯たちと船でおとなしくしてもらっている方が良いいのかもしれない。


「話は終わったか? それじゃ俺たちは行くからな」


 皆に声をかけた武東に、七瀬桃香が申し訳なさそうに手をあげた。


「武東くん。私たち、相模くんたちと一緒に行動したいと思ってるんだけど」


「はあ? 七瀬、お前まで頭がおかしくなったのか。いまなんて言った?」


 凄んだ武東に桃香は身を縮ませた。

 そんな桃香を庇うように物部由芽が武東と対峙する。


「聞こえたでしょ武東。私と桃香は、神楽と相模について行くって言ったのよ」


「班は団体行動だろうッ、班長の俺が決めたんだから従えよッ!」


「団体行動はするわ。ただし、あんたとじゃなくて神楽たちと組むって言ってるの!」


 怒りで興奮してきた武東。弥生も気に入らないらしく由芽に寄る。


「由芽。桃香も、どうかしちゃったんじゃない? 神楽たちが言ってることが本当だっていう証拠は何もないのよ?」


 これには由芽も反論した。


「弥生こそどうかしちゃったんじゃないの? 神楽たちがこんなに必死になって訴えてるのに何も感じないわけ? 証拠がないっていうけど「バケモノ」っていう証拠を見た時には死んじゃうかもしれないんだよ?」


「何がバケモノよ! 野犬かなにかを見間違えたに決まって……」


「もういい宇津木ッ! 俺たちだけで行こうぜ」


 武東が、由芽と桃香を睨みながら弥生を制した。


「選択の自由ってやつだ。物部と七瀬が、こんな茶番に付き合いたいっていうなら勝手にすればいいんじゃないか?」


 大きなため息を吐き、瀬良・皆本・名美にも目を向けた。


「お前らはどうするんだ? 俺や宇津木と一緒に港に行くか、バカ話に付き合うか。自分で決めていいぞ」


「き、決めていいぞって、そんなこといわれても……」


 うろたえる瀬良に、武東は冷たい視線を送った。


「瀬良、はやく決めろよ。いつまでもこんなやつら相手にしたくないんだよ!」


「お 俺は武東と一緒に行くぞ! 港にバケモノがいないならとりあえずは安全地帯だ。島をうろつくよりよっぽどマシだよッ!」


「じゃあ、俺も武東たちと行こうかな……」


 兵藤の言葉を聞いた瀬良も、船に戻ることに決めたようだ。


「名美は? どうするの?」


 弥生が、桃香の後ろにいる才賀名美を覗いた。


「わ、わたしも船に戻る。もう疲れちゃったし、はやく座って休みたいし……」


 名美は、桃香や由芽と目を合わせないようにしながら弥生の傍に寄った。


「皆本、お前も俺たちと来るよな?」


 武東は、ひとり輪を離れている皆本に声をかけた。


「おれ? う~ん……どっちでもいいや~」


 特徴的な皆本の語尾を伸ばす言い方に、武東は聞こえるように舌打ちする。


「こんな時でも変わらずのマイペースか。はやく決めろよッ!」


 イラつく武東にも皆本は動じない――というより相手にしたくないというように見える。


「めんどいなぁ~。じゃあこうするか~……」


 皆本は小石を拾うと武瑠と武東の間に立った。そして小石を落とす。

 落ちた小石は地面で跳ね、武瑠の足下に転がった。


「決まった~。俺、神楽たちと行くことにするから~」


 のんびりとした口調で答えられ、武東の眉がつり上がる。


「そうかよ、勝手にしろッ!」


 吐き捨てるように言うと、武東は弥生・兵藤・瀬良・名美を伴って歩き出す。


 すれ違いざま、武瑠は兵藤に声をかけた。


「兵藤、気をつけろよ」


「わかってるよ。武東たちだって、座間がどうなったのかを見れば信じてくれるさ」


 武東たちの背中を見送る武瑠たち。

 兵藤だけが周りを警戒しながら歩いている――そんな姿が印象的だった。



 □◆□◆

読んでくださり ありがとうございました。

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