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四十二話  切羽詰まる攻防戦

 □◆□◆


 ★



 ヒト型を牽制する直登。和幸も石を投げて援護している。

 武瑠は追ってきたコウモリ顔の足止めに必死だ。


「貴音、佳菜恵ちゃん! はやく三島さんを連れて逃げるんだッ!」


 鬼気迫る武瑠の表情に頷いたふたりは、一颯を支えて走り出す。


「武瑠くん……」


 振り向く一颯は、武瑠の後ろ姿を見ながら唇を噛む。


  私はー―またみんなに迷惑をかけてしまっている


 そんな自分が情けなくて仕方がなかった――。





「皆本ッ!」


 一颯たちが十分離れてくれたことを確認した武瑠は、奮闘する皆本へ叫んだ。


「いいから先に行っちゃいな~。俺一人の方が気楽でいいや~」


 余裕のある言い方だが強がっているのはあきらかだ。

 三匹ものバケモノを相手にしているのだから当然だろう。


 傷がひらいたのか、皆本は左腕の出血がひどい。

 動きも鈍くなっている。このままでは……。


 援護しに行きたい武瑠だが、ドライバー付きの『コウモリ顔』がそれをさせてくれない。


  なんとかして、打開策はないのか?


 そう考えていた武瑠に光明が差す。


 平衡感覚が乱れたのか、『コウモリ顔』がバランスを崩した。

 武瑠はその一瞬を見逃さない。


 棒を投げ捨てると、目に刺さっているドライバーへ前蹴りを放つ。


 身を反らせて大きな悲鳴を上げた『コウモリ顔』へ組み付くと、ドライバーをさらに奥へと差し込みながらぐるぐる回す。


 武瑠は、必死に転げまわるバケモノにしがみつき、その手を弛めない。



 不意にバケモノから力が抜けた。



 刺し込まれたドライバーが脳に達し、大事な器官を壊したのだろう。

 『コウモリ顔』は何度か痙攣した後、ピクリとも動かなくなった。


「なんでこんなことを……くそぉッ!」


 起き上がり、ドライバーを捨てた武瑠が地面へ吠える。


 これで二匹目――。何度経験しても『殺す』という行為と感覚には虫唾が走る。


 苦悶の表情で絶命しているバケモノに同情したわけではない。

 この『非現実』的な今は確かな『現実』なのだと思い知らされ、改めて憤りを感じたのだ。


 武瑠が棒を拾い上げ、皆本の援護へと向かおうとした時、横から二度目の光が放たれた。


 目を移した武瑠は、黒ずくめの大男が『大形』のトニトゥルスにもたれるようにして沈んでいく姿を見た。


「あの人、やられちまったのか!?」


 どこの誰かは知らないが、あの男がバケモノのなかでも一番厄介な『大形』を引き受けてくれていた。

 途中までは攻勢だったようだし、このまま倒してくれるのではないかという期待もしていたのだが……。


 『大形』が皆本へと目を向ける。


「マズいッ!」


 ただでさえ劣勢なのに、あの『大形』にまで参戦されては皆本といえども凌ぎきれるものではない。


 武瑠は皆本を援護すべく全力で走った。

 だが『大形』は皆本ではなく、直登と和幸のいる方へと動いた。


 急ブレーキをかける武瑠。


 直登たちも『大形』の接近に気がついたようだが、目の前の『ヒト型』を相手にするので精一杯だ。

 皆本も、三匹のバケモノ相手に劣勢のまま。


 自分はどちらに行くべきなのか!? と迷う武瑠。


 その迷った一瞬で、皆本が窮地に立たされてしまっていた――。


 ◇


 『コウモリ顔』の爪を避けきれず、木刀で受け止めた皆本だったが、動きが止まったところへ『ヒト型』が迫ってくる。

 なんとかあごを蹴り上げて『ヒト型』の牙から逃れることは出来たが、皆本は体勢を崩してしまう。最悪な事に、そこへ迫ってくるもう一匹の『ヒト型』の攻撃は防ぎようがない。


「あちゃ~、マズったな~。どうしよう……」


 左腕に力が入らないので、目の前の『コウモリ顔』を押し返すことも出来なかった。


 まさに絶体絶命!


「皆本ッ!」


 自分の名を叫ぶ武瑠の声に、


  神楽はまだ逃げてなかったのか……


思わず口もとが弛んだ。




 一緒に行動するようになってから、皆本は武瑠に尊敬の念を抱くようになっていた。

 クラスメイトになり、知り合ってまだ二ヶ月位だが、それまでも以前から武瑠の噂は聞いていた。

 良い評判しか聞こえてこなかったが、「表面上『良い人』を取りつくろうことは出来るよね~」と話半分に聞いていた。


 だが、それは間違いだったと反省する。

 命の危機の中、仲間の為にこれほど身体を張れる男はそういるものではない。



  ほんと、頼もしい『仲間』だったよ、お前は……


 そう思った瞬間笑いがこみ上げてくる。


 悔いがないわけではないし、やり残したこともある。

 皆本は、身動きできない自分の運命を冷静に悟っていることが可笑しかった。



「皆本っ!」


 今度は後ろから叫ぶ女の声。

 同時に、皆本の顔横を光が通り過ぎた。

 光は目の前で開けている『コウモリ顔』の大口へと入り炸裂する。


「熱ッ!」


 弾けた光と同時に、凄い熱気が皆本の肌を焼く。

 だが、そのおかげで『コウモリ顔』から逃れることができた。


 顔が燃え上がり、『コウモリ顔』はのたうち回る。


「あ、当たった。ほんとに当たっちゃった!」


 興奮した声を上げたのは由芽。

 照明弾のピストルを構える彼女は目を丸くしている。


「由芽……。待ってなって言ったのに、来ちゃったんだ~」


 皆本は困ったような嬉しいような……複雑な笑みをこぼした。

 飛びかかってきた『ヒト型』の攻撃を躱し、一撃を与えた皆本は武瑠へ向く。


「神楽っ、こっちは大丈夫だから~……って、もうあっちに行ってるか~」


 すでに武瑠は直登たちへと向かっていた。


 見捨てられたわけではないだろう。チャンスが出来たのであれば“由芽を守りながらでも逃げられるに違いない”という信頼の証しだった。


「信頼されてるのは嬉しいけど、心配が足りないってのは寂しいもんだね~」


 皆本は冗談をつぶやくと、うねる『ヒト型』の尻尾を叩き落して腹部を蹴り上げた。

 木刀を頭へと振り下ろすが紙一重で躱されてしまう。

 皆本と十分な間を取ったソイツは、息を荒くして体を発光させ始める。


「さて、もうひと踏ん張り~」


 もう一匹の『ヒト型』を牽制し、由芽のところには行かせないよう構える皆本。


 疲れと腕の痛みで、だいぶキツイがこれで二対一。

 しかも、相手は『コウモリ顔』より動きが鈍い『ヒト型』。

 決して油断は出来ないが、逃げるだけなら何とかなりそうだった。


 しかし、片腕を失いながらも隊員の胸を貫き、その血肉をむさぼっていた『コウモリ顔』。 ソイツが体力を回復しつつあった――。



 ◇



 和幸が投げる石をものともせず、『大形』のトニトゥルスは突っ込んでくる。

 そして、走ってきた勢いそのままで和幸に体当たりした。


「ぁぐッ!」


 飛ばされた和幸は地面で二度バウンドする。


「和幸ッ!」


 直登は『大形』の背中へ包丁を突きにいくが、『大形』はその行動を読んでいたかのように直登の方へと急旋回した。


「なッ、なんだよコイツッ!?」


 驚くほど速いその動きに、直登の反応が遅れた。

 下から振り上げられる鋭い爪。

 直登は上体を反らして躱そうそするが、爪はその胸を切り裂いていた。


「ぐッ! ち、ちくしょう……」


 血しぶきを上げて倒れる直登。


 『大形』はそんな直登に見向きもせず、今度は逃げる一颯たちを追いかけた。

 動けない直登に、『ヒト型』が止めを刺しにくる。


「させるかバケモノッ!」


 間に合った武瑠。

 背中を棒で突かれた痛みで仰け反りながらも、『ヒト型』は尻尾で武瑠の足を払っていた。


「うわッ!」


 背中をついたところへ覆い被さられてしまう。


「そう簡単にやられるかッ!」


 武瑠は首へ噛みつきにくるその顔へ、(自慢の?)頭突きを喰らわせる。



 ゴツッ!!!



 ぶつかり合う額と額。


 勝者は――――――武瑠だった。



 額を割られた痛みで天に吠える『ヒト型』。


  お、俺の頭突きってこんなにすごいのか!?


 石頭には自信があったのだが、人間だけでなくバケモノをも圧倒出来る威力に自分でも驚いてしまう。


 なんにしてもこのチャンスを逃す手はない。


 この隙に抜け出そうとした武瑠。

 だが横から来た尻尾に殴られ、またしても背を着いてしまった。


「マズいッ!」


 呼吸を荒くする『ヒト型』が青白く発光する。同時に、武瑠の全身の毛がピリピリと逆立つ。


「た、武瑠、コレを使えッ!」


 胸を真っ赤に染めた直登が包丁を投げた。


 頭上に転がった包丁を手にした武瑠は、『ヒト型』のアゴを貫く。


「くたばれバケモノッ!」


 光が消え、声も出せないその首を切り裂いた。


「さっさと退けよッ!」


 力を失って覆い被さってくる『ヒト型』を、力任せに払い除けた。


「大丈夫か直登ッ!」


「お 俺はいいから、あっちを……。一颯たちを助けてやってくれっ!」


 起き上がった武瑠に、直登は搾り出すような声で叫んだ。

 『大形』は、今にも一颯たちに追いつきそうだ。


「直登……、死ぬんじゃないぞっ!」




 直登は走っていく武瑠の背中を見送る。

 胸を押さえながら起き上がろうとするが、痛みで力が入らなかった。


「頼んだぞ武瑠。一颯たちを、貴音を守ってくれッ!」


 近づいて来る『大形』に、石を投げて応戦する貴音の姿。

 好きな女の子を守ってあげられない自分の不甲斐無さに怒りを感じる。


「こんな時に……情けないな俺はッ!」


 強く地面を殴った。


 この無念さを、この一撃を……武瑠が代わりにぶつけてくれることを信じて――。


 □◆□◆

 読んでくださり ありがとうございました。

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