三十八話 砕かれた〝願い〟
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小屋の前で座り込んでいる一颯と利子。
「無愛想で感じ悪い……」
そこへと戻ってきた貴音が口を尖らせた。
隊員に連れられて地上に出た一颯たちは、小屋の前で待たされていた。
助けてくれたお礼を言いに行った貴音だが、機関銃を手に周りを警戒している隊員は返事もしない。
ヘルメットで聞こえなかったのかと何度か話しかけたのだが、あからさまな無視をされてしまったらしい。
「助けてくれたわけだし、文句なんて言いたくないけど……。それにしたって、返事くらいしてくれてもいいとは思わない?」
無視というのがショックだったのか、貴音は相当ご立腹だ。
「あんたもそう思うでしょ?」
和幸にも同意を求めるが――返事はなかった。
「ちょっと、高内ぃぃぃ……」
貴音が怒気を放つ。
「え? あ、ご、ごめん! 何の話だっけ?」
それに気がついた和幸は、慌てて両手を合わせた。
「だから!――ハぁ、もういいわ……」
力なくうなだれた貴音は一颯の隣に腰を下ろす。
「先生たち、どんな話してるんだろうね……」
一颯のつぶやきに、貴音と利子も佳菜恵の方を見た。和幸もさっきからそれが気になっているらしい。
佳菜恵は高崎と話をしている。
口論しているわけではないが、近寄り難い雰囲気を醸し出しているので話しかけることも出来ないでいた。
後ろからの足音に振り向くと、大柄な男がもう一人の隊員を連れて戻ってきた。
高崎が大風見と呼んだ彼が、この特殊部隊の隊長であるということは一颯にも判った。
連れている二人の隊員とはあきらかに雰囲気が違う。
良く言えば威風堂々として自信に満ち溢れた男の風格
悪く言えば自己中心的で自信過剰
一颯が感じたのは後者だった。
「あ、あの……」
貴音が立ち上がり、小屋から出てきた大風見に緊張の顔で話しかけた。
一颯も立ち上がる。
「助けてくれて、ありがとうございました!」
見事にハモり、丁寧に頭を下げた貴音と一颯。
それを見た大風見は目を丸くする。
「さっきの威勢の良いお姉ちゃんだな? いいねえ、あんなバケモノに追い回された後にそんな態度がとれるなんてな。普通はショックで言葉が出ないもんだ」
愉快そうに口を弛ませると、
「ずいぶんと肝が据わってるな。ふたりとも隊員に欲しいくらいだ!」
そう言って豪快に笑った。
「すみません。大風見さん、お話があります」
佳菜恵が神妙な面持ちで大風見の前に立つ。
「これはこれは……先生。どんなお話しでしょうか?」
「私たちを助けて下さり、ありがとうございました。 それで、まずは私たちを安全な所までお連れ下さい。その後、まだ生き残っている生徒たちの救出をお願いしたいのです」
深々と頭を下げる佳菜恵。
それを見た一颯と貴音、そして和幸も頭を下げた。
大風見たちは機関銃を持っている。
生き残っているみんなを探すのには苦労するかもしれないが、トニトゥルスに遭遇しても倒せるだけの火力を持っている。
自分たちではみんなを救うことが出来ない今、大風見たちにお願いするしかなかった。
「まあまあ皆さん、頭を上げなさい」
大風見の野太い声。
顔を上げた一颯たちに、大風見は微笑んでいた。
みんなを、武瑠くんや直登たちを助けてもらえる
そう思った一颯の目頭は熱くなる。
佳菜恵たちの顔も明るくなった。
「そのお話し……」
大風見は微笑んだまま、
「お断りする。我々の任務は人命救助ではない」
そう言い、唖然とする一颯たちから隊員たちへと向かった。
「残り時間はまだある。追加のサンプルとして、トニトゥルスの生体を一匹捕獲することにした! すぐに装備の確認をしろっ!」
大風見の顔から笑みは消え、その目は獲物を追うハンターのものになっていた。
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