十話 バケモノが産まれる!?
*演出上、暴力的なシーンがあります。
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さほど広くはない学校のグラウンド。その隅にある用具室。
薄暗い室内で大きくバットを振り上げた野宮一成は、虫の息になっている相手に止めの一撃を加えた。
何度バットを振り下ろしたのか――。
肩で息をする野宮の額からはいくつもの大粒の汗が流れ落ち、床のホコリを滲ませた。
「尚央――なおぉ~……。なんで? なんでこんなことに……」
部屋の隅に避難していた安部歌奈は、血に染まり大きく目を開いて絶命している水城尚央に擦り寄って涙を流した。
歌奈と一緒に避難していた間下湧斗はハンカチを取り出し、
「安部さん、腕から血が出てる……。手当てするから向こうに行こう」
すすり泣くその肩を抱いて離そうとするが、歌奈は首を横に振った。
小さなバケモノが、内から破られた尚央の腹上で死んでいる。
野宮に殴られたバケモノは、腹部から出る前にその命を絶たれた。
歌奈に寄り添う間下は、震える唇を噛みしめる。
「なんで、こんなことになってしまったんだろう……」
小さな声でそんな疑問を口にしたが、それに答えられる者はいなかった。
――間下湧斗の班は、集合時間前に港へと戻っていた。
担任の若狭佳菜恵が「見学はもう終わり?」と苦笑いしていたが、
野宮一成・猪垣真佐留・羽豪高師・九条利子・安部歌奈・添木実可
の誰一人、こんな島に興味はないのだから仕方がない。
佳菜恵は、姿の見えない教育実習生の高崎衛を探してくると言い残してその場を去った。
他の班が帰ってくるまで、何をして時間を潰そうか考えていた時、あのバケモノが現れてしまったのだ。
最初に襲われたのは猪垣だった。
ひとりで辺りをうろついていた猪垣は、突然現れたバケモノに腕をひっかかれ、叫びながら逃げてきた。
話をしていた野宮と羽豪にしがみつき「バケモノが バケモノが……!」と、腕から流れる血を気にもせずにまくしたてた。
どうしたのかと聞く前に、猪垣を追ってきたバケモノを目にした野宮と羽豪。
ふたりは慌てて彼に手を貸し、プレハブのようなこの港の小さな事務所へと走った。
間下も、九条利子・安部歌奈・添木実可を引き連れて事務所へと駆け込んだ。
バケモノが迫ってきていたが、勢いよく閉めたドアの方が早かった。
ドアを破ろうとする音が響くなか、どこからか佳菜恵の悲鳴が聞こえた。
しかし、誰も助けに行こうと言い出す者はいなかった。わけがわからず、皆一様に震えている。
バケモノは窓を破って侵入してきた。
逃した獲物を仕留めようと、再び猪垣に襲いかかる。
支えてくれていた羽豪を、バケモノへ突き飛ばして難を逃れた猪垣だったが、侵入してきたもう一匹のバケモノに押し倒される。
皆がパニックとなり、誰もが我先にと裏口へと駆け出す。
間下たちは外へと出たが、逃げる途中で利子・実可とはぐれてしまった。が、そのことに気付く者はいなかった。
間下・野宮・歌奈は、島の外周を回るように逃げていたところで、ヨロヨロと歩く水城尚央と出会ったのだ。
着衣は乱れ、至る所に擦り傷があった。頬はこけ、目はうつろでまるで生気を感じない。
バケモノに襲われたのは容易に推測できた。
どう生き延びたのかはわからないが、このままにはしておけないと尚央を連れて逃げた。
そして、たどり着いた学校の用具室に隠れたのだ。
窓から確認した野宮から、バケモノは追ってきてはいないことを知った間下。ようやく深い息を吐き、安心することができた。
たくましく見える幼馴染の野宮が一緒で、ほんとうに心強いと思った時、尚央に異変が起きた。
歌奈に無言でおとなしく手当てされていた尚央が、突然痙攣しだしたのだ。
押さえようとした歌奈が、右腕を尚央に噛まれてしまう。
尚央の眼球は、とても人間とは思えないほど真っ赤になっている。
奇声を上げて暴れる尚央を、間下と野宮が力ずくで押さえつけた。その時に、尚央の腹部が大きく膨らんでいることに気がついた。
その膨れた腹がもぞもぞと動いたかと思うと、腹を突き破って鋭い爪のある手が出てきた。
絶叫した尚央の腹から顔を出したのは、見たこともないバケモノだった。
一瞬人間の胎児かと思ったが、ファンタジーものに出てくるゴブリンのような風貌だ。
頭を出したバケモノは、鋭く赤い眼光で間下たちを威嚇するように甲高い声で鳴いた。
間下は傷ついた歌奈を、尚央の傍から引き離す。
野宮は転がっていた木製のバットを握ると、尚央から出てこようとするバケモノへと振り下ろしたのだった――。
深呼吸した野宮は、うつむいたままバットを握り直す。
「湧斗、安部から離れろよ」
その低い声に、間下は背中に冷たいモノを感じた。
「念のためだ。 安部も殺っておかないとな……」
野宮は歌奈を見据え、両手で握るバットを振り上げた。
「え? な、なに? なんて言ったの? え? え?」
歌奈は脅えながら、冷たい視線を送ってくる野宮を見上げた。
「一成、お前何言って――」
間下が言い終えるよりも早く、
ブンッ
その顔横を風切り音が通りすぎた。
力の抜けた歌奈の身体が間下にもたれかかり、床へとずり落ちる。
野宮はさらに追い打ちをかけ、3度、4度とバットを振り下ろした。
あまりのことに、間下の身体は動かない。
歌奈の頭は割れ、白目をむいている。すでに絶命しているのはあきらかだ。
そんな歌奈の身体が痙攣で跳ねた時、野宮は再びバットを振った。
野宮は、血に染まった歌奈を呆然と見る間下の横にしゃがみ込む。
「映画とかでよくあるだろ? 咬まれたヤツは感染して、俺たちをも襲ってくるかもしれない」
ビクッと震えた間下の顔を、野宮の血走った目が覗き込んできた。
「湧斗はー―咬まれてないよな?」
間下は、小刻みに頭を縦に振る。
「良かった。俺たち親友だろ? 安心しろよ……」
野宮は、顔についた歌奈の血を拭いもせず、間下を引き起こした。
そして、言葉を失っている間下の肩に手を置き、
「湧斗は、俺が守ってやるよ」
さわやかに笑う。
野宮の血走った目が怖い。
一成は狂ってしまったのか――?
そう思いながら、間下は血の汗を流す野宮にぎこちない笑顔を返した。
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