最終章・意志と覚悟
先に謝ります。次回では期待(あるかは知らないが)裏切ることになるでしょうし……悪い意味で
気がつけば、既に陽は落ちていた。
霞は傷だらけの涼を背中に背負い、闇夜を民家の屋根を走り抜ける。その後ろを、舞がピッタリと追随してくる。
今、霞達は自分の家を目指していた。一刻も早く豊稲神社に向かいたいが、仕方がない。涼を放っては置けない。
ストッと我が家の屋根に飛び乗ると、そのまま玄関に飛び降りる。
舞が玄関の鍵を開け、扉を開く。霞は涼を背負ったまま地下室へ直行する。
「霧島……!」
「あぁ、先輩。追加だ」
霞は桜の隣のパイプベッドに涼を寝かした。
「一体どうした霧島」
「思いの外強くてね。この通り、涼がやられたんだ」
「おい、大丈夫なのか」
「なにが?」
「何って……」
そこで夏はモゴモゴと言いよどむ。
なかなか先を言ってくれない。こんな事で時間を割かれている場合ではないのだ。
「すまんが、時間がないんだ」
そう言って立ち去ろうとするが、肩を掴まれた。
「待ってくれ、事はまだ終わっていないのだろ?」
「……あぁ、しかも援軍もなしだ」
「おい、それは……ヤバくないか?」
「ヤバいね。最悪死んじゃうね」
霞はおちゃらけたように言う。しかし、その事が夏の怒りの琴線に触れた。
「なぜそうヘラヘラしてられる!このままでは世界が壊れるんだぞ!」
夏は霞の胸ぐらを掴んだ。悲しいぐらい身長が足りず、ほとんど見上げる状態になってしまった。
しかし、夏は気にせずまくし立てる。
「霧島しかいないんだ!それはわかっているのだろ?」
「分かってる」
胸ぐらを掴む夏の手を振り払った。
「分かってるさ、その事ぐらい。奴らの目的が何かは知らない。だけど、これ以上は見過ごせない。霧島家として」
「霧島……」
「それと、友人としても……かな?」
霞はニッと笑った。
「…………」
「そう言うことだ。僕らは行く」
そう言って、霞は舞と連れ立って出て行こうとしたのだが、再び夏に肩を掴まれた。
「……今度はなんだ」
「私も連れていけ」
夏の目には明確な意志が宿っていた。
「兄を止めたいんだ」
「……出来ないときは、分かってるな」
「…………分かってる」
答えるまでに時間があった。躊躇いはあるのだろう。
「……舞、ここにいろ」
「兄上!?」
「桜と涼をみる人間は必要なんだ」
「ですが、戦力は二人より三人の方が!」
「確かにな。だが、ほっとけないだろ?怪我人を」
「ですが!」
「それに、舞。右足、痛めただろ」
「!?」
舞は驚いたようで、珍しく驚愕した表情をしていた。レアものだ。
「バレないようにしていたようだが……そんな状態では連れていけない」
「……分かりました」
――ですが、と言葉が続く。
「父さんと母さんに、兄上の訃報を伝えるのは嫌ですからね」
「分かってるさ。じゃあ行ってくる」
そう言って、霞と夏は部屋から出て行った。夏は、部屋から出るときに一礼して。
「いってらっしゃい」
舞は、霞らが出て行った扉に向かって、ポツリとそう呟いた。
○
霞と夏が、霧島家を出た直後だった。
「カスミさぁ〜ん!」
甲高い声が響きわたった。
もう暗くなっているので、近所迷惑になりかねない。
「カスミさん!」
朱里が目の前に現れた。
「うぉ、朱里さん?無事だったか」
「はい、大丈夫です」
朱里は腕をぐるぐる回して健全ぶりをアピールした。
確かに、怪我一つないようだ。これは戦力になるかもしれない。
「朱里さん。聞いてくれ」
霞は事のいきさつを話し始めた。襲撃を受けたこと、暗部機関での事、魔法協会での事、そして援軍がないこと。一部を省略したりまとめたりしたが、伝わったようだ。
「分かりました。手伝います。私も知らんぷりはできません」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
夏が頭を下げる。その事に少し目を丸くして朱里は驚いたが、直ぐに笑顔になる。
「頭あげてください。困った時はお互い様です」
「桃地……」
朱里は夏のそばにそっと寄り、耳元で呟いた。
「カスミさんはあげませけど」
「な、ななな!要らん!そんな物要らん!!」
顔を真っ赤にさせ、顔の前で両手をブンブン振る。
「何やってんだ。先行くぞ」
「あ、はい」
霞の姿が消えた。
「ほら、行きますよ」
「うぅ……」
それに続き、朱里と夏の姿が消えた。
その時の夏の顔は未だに真っ赤なトマトみたいだった。