最終章・事は知らぬうちに進むもの
もうヤダ……。終わる予定が終われないグダグダだ。
フェニックス艦内。
円卓を囲み、暗部機関、魔法協会、そして霧島兄妹が座っていた。
各人の前には小型モニターが置かれている。
「さっき、官邸と繋がったわ。宮内庁が襲われたそうよ」
部屋全体が薄暗くなり、円卓中央にホログラムが浮かび上がる。
宮内庁と地下倉庫の全体像だ。
「彼らは正面から堂々と侵入。駆けつけた皇宮警察を殲滅。更に地下回廊に侵攻したわ」
ホログラム上で無数の赤い光点が宮内庁舎の下へ動いていく。
これが、敵を表しているらしい。
「その後、近衛軍団と交戦を開始」
新たに青い光点が現れて交わった。
「しかし、展開が遅かったことから苦戦。防衛ラインを突破されて各個撃破されていきます」
青い光点の壁の中央が破られ、赤い光点が流れ込む。
青い光点が次々と消えていく。
「その後、彼らは10分に渡り一時的に宮内庁全域を制圧。しかし、すぐに撤退したとのことです。現在、第三深界を含め探査中です」
淡々と説明を行っていた美里は以上です、と最後に言って椅子に座った。
「まず、桃地家と鷹山家を解放するべきではないか?そうすれば、情報統制を強固に行え、大胆に行動ができる」
『既に、部隊を送っています。しかし、移動に少し時間がかかると思われます』
「……あ〜〜、そういや、かなりの山奥だって言っていたな」
霞は朱里が実家に戻る際に、ぼやいていたことを思い出した。
曰く、アスファルトの道路がないらしい。
「とにかく、奴らがどこにいるのか分からないとな……。なにしでかすか分からない」
「はぁ、分からないことだらけね」
美里がため息をつき、椅子の背もたれに仰け反った。
そんなお手上げ感が支配した部屋に飛び込んでくる少年が一人。
「次の目的地が分かりましたぁ!」
「なにぃ!」
美里は勢いよく立ち上がった。
その際、円卓の縁に足をぶつけた。
「ふ、副長……」
「だ、大丈夫よ……。報告を」
「はい……。では」
少年は戸惑いながらも、手に持ったファイルに目を通す。
「微かではありますが、彼らの通信を傍受していました。解析を行った結果、彼らは『豊稲神社』に向かっています」
「豊稲神社……?」
聞き慣れないのか眉をしかめた。
しかし、霞は驚愕の表情。
「豊稲神社だと……!」
「知ってるの?」
「知ってるもなにも、友人宅だ」
「そうだったの……」
神妙な顔つきになり、円卓に肘をついて手を組んだ。その手を上に顎をおく。
「残念だけど、これから先は私達は手を出せないわ」
「……なぜだ」
「管轄が違うわ。神社とかは文部科学省文化庁の管轄。勝手に暴れたら文句がくるわ」
「……ここの管轄はなんだよ」
「……政府直属だからね。この組織」
「は?」
「前任は情報局……内閣情報局と言った方が分かるかしら?」
内閣情報局…正しくは情報局。
戦時中、プロパガンダや情報統制をおこなった内閣直属の組織。
今は暗部機関として形を変え、色々と活動しているのだ。
「だから、勝手なことしたら反乱と思われかねないのよ。前にちょっとやらかして目をつけられてるし……」
「……何したんだよ」
「積極的な春闘。給与、予算アップを求め、財務省に殴り込み」
「………」
そりゃ、目を付けられる。
「ということで、部隊は送れないわ。まぁ、桃地と鷹山にも部隊を送っているから実働部隊は少ないわ」
「魔法協会も先ほどの戦闘でほとんどがダウンしてしまいました……」
つまり、霧島家で何とかしろということか……。
「兄上、愚妹は……」
「あぁ、無理だろうな」
涼は先の戦闘でかなり痛めつけられている。動けと言うのは酷だ。
しかし、二人だけというのも、ただやられにいくようなものだ。
「あぁ……涼くんね、悪いけど引き取ってよ?」
「あ?医務室に置いてくれても――」
「無理、今野戦病院とかして一杯よ。あなたの家においた方が衛生的」
「……なら仕方ない」
そう言うと霞は椅子から立ち上がった。
隣に座る舞も同じように立ち上がる。
「これからはこっちで勝手にする」
そう言い放つと、さっさと部屋から出て行ってしまった。
舞もその後を追う。
「……孤立無援となるとはな」
「どうします?鳴海先輩が……」
「少し様子を見る。トリガーハッピーだからな」
「ハイ?トリガーハッピーですか?」
意味が分からず、舞は首を傾げた。なかなか可愛らしい。
「……知らない方がいいかもな」
「そう言われると知りたくなります」
「我慢だ。忍耐だ。忍者だろ」
「それ以前に人間です。秘密にされると知りたくなるのは人間の性です」
結局、霞は何も言わずに歩いていく。
無論、舞は不満で口を尖らせていた。
○
『行っちゃいましたよ。いいんですか?』
ナビィが部屋に残る美里を含めた人間に言った。
「なにが?引き留めなかったこと?それとも部隊を派遣しないこと?」
『いえ、違います。"黙っていたこと"です』
ナビィの言葉に少し眉をしかめた。意味がすぐに理解出来なかったようだ。
しかし、ナビィが言わんとすることを理解すると、手を頭の後ろに組み、再び背もたれに仰け反った。
「いいじゃない。言ってあげる義理もないしね」
『しかし、仮にも我々を助けに来てくれた方々ですよ』
「そう言っても、結局は"教官"がやっちゃったでしょ?役にたってないわよ」
頬杖をついて、どうでもいいように言う。
「事態は"闇"の範疇を越えたの。あそこに手を出したのが分かった時点でね」
『分かっていますが……』
「それに、彼らなら言っても無駄だったでしょうね。"放っておいても勝手に解決する"って言っても」
ハアとため息をついた。
無力さを感じさせる。
「確かに、明日には終わっているでしょう。どういう形かは分かりませんが……。そこに、私達が介入することはできません」
魔法協会の――大魔導師と言われていた女性が言った。
そして、部屋は沈黙に支配された。