最終章・奪回、魔法協会
なんか、やる気なくなってどーでもよくなってきたこの頃
『上陸部隊、上陸を開始。被害は5%。当初予想より非常に少ないです』
ナビィの声が鳴り響いた。
「それはよかった。戦闘機は?」
『現在も交戦中』
「オーケー。とにかく私たちはあのデカ物をやるわよ!」
○
鳴り響く発砲音。断続的な爆発音。そして硝煙の臭い。
まさに戦場だった。
「舞、涼!ついて来てるか!」
「はい、兄上!」
「うん!」
霞達は、飛び交う銃弾の中を突き進んでいた。
敵に出くわせば瞬時に叩きのめし、魔法を撃たれれば忍者刀で打ち返す。
「黒き霧の機関員ばかり……!」
先ほどから、銃と魔法の攻撃しかしてこなかった。
忍者がいるなら、刀の接近戦や苦無、手裏剣の投擲による攻撃があるはずだ。
しかし、それがないというのは忍者はどうしたのだろうか?
事前情報では、数は少ないが派遣されているはずだ。
《忍者さん。聞こえますか?こちら、フェニックスオペレーターです》
「感度良好、よく聞こえる」
迫り来る火炎の塊を、忍者刀を振り抜いて流し打ちをした。
《魔法協会の方々の居場所が判明しました。地下室です》
「地下室?どうやって行く?」
《突き当たりに扉があるはずです。しかし、それはダミーで、地下室の入り口は扉の下です》
しばらくして、霞の視界に大きなアンティーク調の木製の扉が現れた。
「あれか……!」
霞は扉をけり破り、扉があった場所に爆裂玉|(大)をセットした。
「離れろ!」
霞が言うとほぼ同時に、爆裂玉が爆発を起こした。
粉塵が舞う中、霞は目を凝らす。
爆裂玉の爆心地には、ポッカリと穴が空いていた。
「……発破したが、もしかしてダメだったか?」
今更だった。
《どうしました?》
「いや……敵の攻撃の爆発で、地下室の入り口が破壊された」
《大変!急いで突入して救助してください!そこだけが唯一の出入り口何ですから!》
「そいつは大変だぁ!」
白々しい霞に、妹たちの白い視線がビシバシと突き刺さる。
霞は全く堪えてないようだが。
「さて、敵に破壊されたが……突入だ!」
堂々と、躊躇いなく、霞は敵のせいにした。
「兄上は敵でしたか?」
「何のことだ?僕は何もしてないぞ。なぁ涼」
「えっと……ボクは目を閉じてたから」
いきなりふられても困る。
兄と姉、どちらに味方したとしても、後でひどい目に合いそうだ。
だから涼は適当にごまかした。
「とにもかくにも突入だ。簡易擬態させたとしても、精々リミットは五分だろう」
「そうですね。急ぎましょう」
「涼、ここの簡易擬態を頼むぞ」
「うん」
涼がこくりと頷いたのを確認して、霞と舞は穴の中に飛び込んだ。
○
その頃、フェニックスでは美里が声を張り上げて指示を飛ばしていた。
「前方シールド30%強化!推力10%減少!」
『敵、超硬レールガンに高エネルギー反応!』
「進路変更、面舵いっぱい!緊急降下!」
その途端、体が宙に浮く感覚を感じてフェニックスが降下する。
シャトルスがレールガンを発射する。
アルミとオリハルコンの合金でできた弾が、光を伴ってフェニックスの強化シールドに直撃する。
ビリビリと強化シールドが大きく振動し屈折する。同時に、衝撃でフェニックスが揺れた。
弾は、しばらく強化シールドを屈折させていたが、弾力のある強化シールドのせいで進行方向が変わって、そのまま飛んでいった。
「戦闘機は!?あのレールガンを攻撃してるの!?」
「弾幕で近付けないとのことです!ミサイルも撃ち落とされます!」
『高度なイージスシステムを採用しているのでしょうか?』
「知らないわよ!解析しなさい!」
『分かりました』
シャトルスが速射砲といった大量の砲装備で砲撃を行ってくる。まさに鉄の雨だ。
強化シールドのおかげで、フェニックス本体にはダメージはないが、シールド発生装置にかなりの負担がかかっている。
「全砲門、シャトルス艦橋に集中砲火!」
フェニックスに装備されている砲装備が、すべてシャトルスの方向に向く。
「ファイヤー!」
レーザーと砲弾が一斉掃射された。
シャトルスに直撃し、爆発を伴って艦橋部分が傾いていく。
爆発が爆発をよび、分厚い装甲が吹き飛んでいく。
風前の灯火だった。
トドメを刺すため、四機の戦闘機がミサイルを撃ち込む。
弾薬庫に引火したのか、今までにない大爆発を起こし、バラバラになりながらシャトルスは墜ちていった。
『敵艦撃沈……』
「終わったぁー!」
緊張感が抜けた美里は、背もたれに仰け反った。
『副長、まだ航空部隊が』
「大丈夫、心配ないわよ。時期に撤退するわ。燃料も多くないでしょうしね」
ぐいっと美里は背中を伸ばした。
「とにかく、フェニックスを停めましょう」
『分かりました。これより自動操縦に切り替えます。皆さんはしばし休憩してください』
○
その頃、霞と舞は薄暗い通路を突き進んでいた。
「この先に気配が」
「やっと着いたか」
緩やかに走る速度を緩めていく。
「扉……?」
アンティーク調の木製の扉が現れた。
霞はゆっくりと扉を開いた。
中にいる人が息をのむのが分かった。
「…………」
中には、ローブに三角帽子といういかにもな人達が潜んでいた。
霞は、その人達を無言で見渡した。
「あ……、霧島の者です」
お届けものです、というような宅配便の人のように自己紹介。
その言葉に、緊張していた魔法使いはホッとするのがわかった。
「霧島の忍者が来たということは、助けがきたのですね」
全身真っ黒な格好をした女性が近づいてきた。
まさに、魔法使いといった格好だ。しかし、気味悪さはなく、むしろ高貴な感じを漂わせていた。
「今、暗部の機関員が掃討作戦を行っている」
「そうですか……では皆さん、私達も行きましょうか」
そう一言いうと、いく人かの魔法使いの姿が消えた。
「そういえば、あなたは加奈と知り合いでしたね?」
「加奈?あぁ確かに」
霞は頷いた。
「あの娘は現在負傷してまして……出来るなら治療を」
「……舞、治療を」
霞は背後に立っていた舞に言った。
「どこにいますか?」
「奥の部屋です」
舞はスタスタと奥の部屋に入っていった。
同時に、霞の通信機に通信が入る。
《こちらオペレーター。施設内を制圧しました。そちらはどうです?》
「こちらも保護した」
《そうですか。よかった》
ふと、よぎった引っ掛かりを感じて霞は尋ねた。
「忍者は……見たか?」
《忍者ですか?しばらくお待ちください》
通信機がしばらく沈黙した。
《いえ、忍者は確認されていません》
「おかしいな……」
霞は眉をしかめた。
「どうしました」
「いや、忍者が確認されていないんだ。どこに潜んでいる……」
その瞬間だった。
「こんなところに隠れていたか」
部屋に男の声が響いた。
低く、冷たい声だ。
「……に……兄さん…」
「……涼!」
ズタボロになった涼が、ひょっとこのお面を被った忍者に捕まっていた。
涼の忍装束は、至る所が切り裂かれていた。
「……貴様、何しやがった」
珍しく、敵意剥き出しで霞は威圧的に言った。
目は鋭く細められ、臨戦態勢だ。
「小細工をしていたからな。ただ邪魔を排除したまでだ。しかし……坊主と思ったら嬢ちゃんだとはな」
――ガチン!
金属音が響き渡った。
霞が瞬時に斬り込んだのだが、苦無によって阻止された。
鍔迫り合いにより金属が擦れ合う音が響き、火花が散る。
「涼になにしやがった」
「何もしてないさ。今はな」
霞は力押しで忍者刀で苦無を払う。
そして一歩踏み込み、腰の捻りと腕の力を使い、忍者刀を方向を変え、大きく横に斬りつける。
――ガキッ!
再び、忍者刀と苦無が火花を散らす。
霞は連続して斬り込んで畳み込む。相手の忍者は防戦一方だった。
しかし、厳しい状況であるはずなのに、焦っている様子はない。むしろ、余裕に思えた。
「怒りは周囲を曇らせる」
「そんなの――!」
知っているとは言えなかった。
周囲に細い糸が張り巡らされており、それに気付いた霞は瞬時に離脱を試みたからだ。
「無駄だ!」
「――っ!」
細い糸が爆発を起こした。糸に超高性能爆薬を編み込んでいたようだ。
「奥義・爆裂蜘蛛の巣。焼け死にな」
「……そうはいかないんだよ!」
炎獄の中から、霞が飛び出してきた。
そして、そのまま斬りつける。
霞の斬撃を、寸前のところでかわしたが、ひょっとこのお面は真っ二つとなり、素顔が現れる。
「くぅ……!」
「残念だな。さっきのは変わり身だ!」
更に一歩踏み込む。
「我流・紫電颯刃!!」
忍者刀の背が、鳩尾にクリーンヒットした。
そのまま、相手は吹き飛んでいき、壁にぶちのめされる。
起き上がる隙を与えず、霞は追撃を行い、相手の鳩尾に拳を喰らわせた。
「ぐぅ……!」
更に霞は拳を振り上げて、
「終わりだぁ!!」
思いっきり叩き付けた。
衝撃で、大理石っぽい床がヒビが入るぐらいだ。
相手の忍者は白目を剥き、口からは泡を吹いて気を失った。
「……貴様は手を出してはいけない一つに手をかけた。愚行だったな」
そう呟くと、倒れている涼の所にいってしゃがみ込んだ。
「大丈夫か?」
「……精神面が酷いかも」
「……そうか」
霞はそれ以上詮索せずに、涼を持ち上げた。
何があったかは聞かない。涼もきっとあまり言いたくないだろう。
「……ちょ、兄さん。これは流石に恥ずかしい」
涼は俗に言う"お姫様だっこ"の状態で霞に持たれている。
あまりの恥ずかしさに暴れ出す。
「コラ、暴れるな。落としてしまう」
「下ろして!下ろしてぇ!!」
「はいはい。舞に手当してもらいに行こうな」
「いやぁ!自分で歩くぅ!」
「無理言うな」
そんなやりとりをしながら、霞と涼は舞のいる奥の部屋に消えていった。
「あらあら、微笑ましいわ」
スッカリ忘れ去られていた黒衣の女性が、口に手を当てて柔和な笑みを浮かべていた。
魔法協会、奪還。