最終章・超空中戦
注意・専門用語多数につき、分からない言葉は各自調べてください。後、その専門用語が間違った意味とかで使われていても起こらないでください。多分、ありますので……
東京、霞ヶ関。
各省庁舎や合同庁舎が集中し、日本の政治・行政の中心地である。
そんな日本の重要な拠点の上空に、魔法協会の建物がある。
しかし、現在は黒き霧と黒井忍者に占拠されている。
そんな、宙に浮く魔法協会の建物に近付こうとする物体があった。
暗部機関所有、高機動型全域空中航空巡洋艦『フェニックス』である。
現在、魔法協会がある第二深界を航行中で、眼下に広がる街からフェニックスの姿は見ることはできない。
フェニックスは、上から見れば"山"という字に見え、先端は、最近引退した新幹線0系の顔に似ている。
寸胴は比較的シャープである。
『副長、レーダーに機影。敵艦と思われます』
「敵艦ね……。ヘリとか戦闘機じゃないのね?」
『はい、データベースと照合した結果、5年前の太平洋空戦で確認された『シャトルス』と一致しました』
「シャトルス……!?確かその時に沈んだ筈じゃ!?」
『はい、シャトルスはその時に沈みました。私も確認しております』
「なら、あれの存在はどう説明するのよ」
『多分、シャトルスを元にした姉妹艦でしょう。多少ですが、データベースと一致しませんですし……』
「……データベースと一致って言ってなかった?」
『はい、データベースと98%一致しました』
「98%とか、言ってなかったわよねぇ〜?」
『そうでしたっけ?』
やはりこの人工知能、抜けている。
それが、余計に人間味を出しているのだが。
この人間味こそ、ナビィの良いところなのだ。
「……まぁいいわ。進路そのまま、上昇30」
フェニックスは上昇する。
軽くGを感じる。
「全砲門解放、スタンダードミサイル発射!」
「レーダーロック、スタンダードミサイル発射!」
艦中央付近にあるVLSからミサイルが発射される。
白煙を上げ、ミサイルは停泊中のシャトルスに向かっていく。
「30……20……10…迎撃されました」
「主砲レーザー砲発射!」
艦前方の二連装の砲塔から、レーザー光線が発射される。
直線軌道ではあるが、絶大な攻撃力を誇る。
『ミサイル接近!その数……4!』
「迎撃!プラズマキャノン発射!」
艦側面や上部、下部などいたるところに配置されている、ガトリングのようなものからプラズマ弾が発射された。
フェニックスの周囲に、プラズマの弾幕が展開される。
『迎撃完了』
「オーケー、面舵60。主砲発射!」
主砲塔が少し回転し、砲身を調節され、レーザーが発射される。
レーザーは、見事にシャトルスに命中する。
「上陸部隊、準備できた?」
「はい、いつでもオーケーです」
「ハッチオープン。艦載機を発艦のち、上陸部隊は侵攻を開始!」
「了解!」
「さあ皆!借りを返すわよ!ペイバックタイム!」
○
フェニックスのデッキ。
霞達はそこにいた。
「お前たちはこのヘリに乗ってくれ」
ヘルメットにヘッドホン姿の機関員が言うが、霞達はなぜか頭を傾げるだけ。
今、デッキ上は戦闘機やヘリのエンジンの爆音で支配されており、声がかき消されているのだ。
「通信機の電源を入れろ!」
自分のヘッドホンをトントンと叩くジェスチャーをする。
何とか通じたようで、霞達は耳に装着している通信機の電源を入れた。
「通じるか?」
「あぁ、通じる」
「妹さん方も大丈夫か?」
「大丈夫です」
「うん」
「この通信機は骨伝導タイプだから、どんな騒音でも聞こえる。頼むから電源を切らないでくれよ」
「あぁ、すまなかった」
「分かればいい。じゃあこのヘリに乗って!」
機関員は後ろにあるNH90の胴体を叩く。
金属音が実際はしたのだろうが、エンジンの爆音で聞こえることはない。
霞達は、ヘリに素早く乗り込み、機関員により扉が閉められる。
ヘリの中には、すでに10人以上の機関員が、フル装備の格好で乗り込んでいた。
黒いつなぎの戦闘服に、アサルトライフル。背中にはリュックを背負っている。
「来たわね、早く座って」
コックピットにいる機関員から急かされる。
どうやら、このヘリの操縦桿を握るのは、女性の機関員みたいだ。
霞達は、大人しく簡易座席に座る。シートベルトは面倒だからしなかった。
「戦闘機が発艦しだい、離陸するわよ!」
霞がこっそりコックピットの方から外をうかがってみると、F/A-18Eがカタパルトに接続されるところだった。
ジェットブラストディフレクターが、エンジン後ろで跳ね上がらり、F/A-18Eはアフターバーナーを吹かす。
カタパルト・シャトルが一気に加速し、F/A-18Eを打ち出した。その時の速度は250kmにもなる。
「凄いな……」
始めて生でみる戦闘機の発艦シーンに、霞は興奮を隠しきれない。
「離陸するわよ!」
ヘリのエンジン音が更にけたたましく音をあげ、ローターの回転数を上げていく。
フワリとした感覚を感じると同時に、NH90は宙に浮いた。
少し機体を前に傾け、前進する。
開いたハッチを抜けると、その下は首都東京だ。
第二深界にから見える東京の景色は、色を失って灰色一色だった。
霞達が乗ったヘリは、魔法協会に向かって、全速力で飛んでいく。
「フェニックスの攻撃で、敵の艦艇の攻撃能力がダウンしている内に運ばないと……」
「機長、先行するアパッチヘリのIFFに反応があったそうです」
「フェニックスに通達。後は戦闘機に任せましょう」
霞達の乗ったヘリを追い越して、OH-58Dが飛んでいった。
○
「ダリア1より各機。これより敵機を迎撃する。気を引き締めてかかれ」
四機のF/A-18Eが、フィンガーチップという編隊を組み、飛行していた。
「敵機を補足。マスターアーム解除」
《こいつは……ラファール!》
《フランス機か……。しかし、ホーネットの敵じゃない》
「油断は禁物だ。ダリア1、FOX3」
《ダリア2、FOX3》
《ダリア3、FOX3》
《ダリア4、FOX3》
四機のF/A-18Eのハードポイントから、ミサイルのAIM-120が発射された。
ミサイルは白煙をあげて進んでいく。
《頼む……当たってくれよ……》
しばらくして、HUDにLOSEと表示される。
それは、ミサイルが当たらなかった事を示す。
「チッ、そう簡単にはいかんか」
しかし、僚機のうち一人はミサイルを当てたらしく、一機減っていた。
「敵機視認!ドッグファイトだ!」
四対三のドッグファイトとなると、数の多いこちらが有利だ。
しかしこの際、数の云々は関係ない。この戦域全体をみると数は同等だからだ。
右にハイGターン旋回をし、ある一機の後ろに素早くつく。
「ダリア1、FOX2」
自機のパイロンから、ミサイルAIM-9を発射する。
ミサイルは吸い込まれるように敵戦闘機に向かっていき、炸裂した。
敵の戦闘機は黒煙を吐いて墜ちていく。
《ナイスキル!この調子でやっちまおう》
「他人の仕事ばかり見るな。ほら、後ろにつかれているぞ」
《……やべっ》
敵に追っかけ回される僚機の一つ。
ロール旋回を繰り返して速度を落とし、敵のオーバーシュートを誘うが、敵もロール旋回を行って、結果的に交差と離反を繰り返す軌跡を描く。
手詰まり状態だ。
「ダリア3、合図したら左に離脱しろ。助けてやる」
《隊長!助かるぜ》
「そら行くぞ!3、2、1!」
合図と同時に、僚機は左に旋回する。
それを追って、敵戦闘機も右に旋回しようとするが、
「……もらった!」
正面から接近したダリア1の20mmバルカン砲に蜂の巣にされる。
敵戦闘機は、錐揉みしながら墜ちていった。
《九死に一生だぜ》
「チェック・シックスを怠っただろ」
《油断しちまってな》
「次は助けないからな」
《こちらフェニックス。上陸部隊が敵戦闘機に狙われている。手の空いてる者は、護衛にまわれ》
「こちら、ダリア隊。俺達が護衛に回る。後は任せておけ!」
四機のバラバラに動いていた戦闘機は、再びフィンガーチップの編隊を組み、飛んでいった。
○
「のぅ……うおぃ……!」
霞は変な声を発しながら、何かに耐えていた。
「に、兄さん……」
「耐えろ……今は耐えるんだ……!」
「……うっ、ダメ」
「全く、愚妹はだらしがない」
「くっ、何故舞だけがこの揺れに耐えれるんだ……!」
霞の言うとおり、舞以外、ヘリの中にいる兵士を含め、全員が乗り物酔いでダウン寸前だった。
その原因は勿論パイロットにある。
「いいねいいね!私を墜とすことが出来ると思わないでよね!」
「機長!何を……うわあ!」
ヘリコプターとは思えないぐらいの角度で横に傾く。
もう少し頑張れば、ロール出来るんじゃないかと思うほどだ。
「ヒャヒャヒャ、楽しい……楽しいよぉ!」
「機長ぉぉ!無茶は、無茶だけは!」
そんな副機長の叫びは虚しく、ヘリは右に左に上に下にと、空を縦横無尽に動き回る。
これが戦闘機ならロール回転に宙返りにと、それはすごい機動をする事だろう。もしかしたらプガチョフ・コブラやクルビット、フックといった空中戦闘機動をやりそうだ。
「ミサイル……?そんなもの当たるわけないでしょ!」
再び、ヘリが有り得ない角度で傾いた。
「はい、避けた〜。戦闘ヘリなら反撃したのに……。これだから輸送ヘリは嫌なのよ!」
「嫌だ!もう嫌だぁ!」
「しっかりしなさい副機長!男でしょう!」
機長の叱咤激励も虚しく、副機長は意識を失った。
どうやら恐怖で失神したようだ。
「たく……だらしないわね。積み荷の皆さんも大丈夫?」
「大丈夫なわけ――」
「無論、大丈夫です」
霞が言う最中に、舞が言葉を重ねてきた。
更に残念なことに、霞の言葉は機長に届かず、舞の言葉だけ受け入れられてしまった。
「まだまだ、暴れていただいて結構です」
「ハハハハ、あんた気に入ったよ!思う存分暴れさせてもらうからね!」
「……まるでジェットコースターですね」
そんな甘っちょろいものではないのだが……。
ヘリは再び中身をシェイクする。
「くっ……。まるでミキサーの中みたいだ……!」
「きゅう………」
「これは……楽しい乗り物です」
霞は生き絶え絶え、涼は既に失神。舞は至って普通に楽しんでいた。
「ひゃほぉう!ミサイルだミサイルだ!」
グインとヘリが横に傾いた。
途端、ヘリの近くで爆発が起こり、機体が大きく振動した。
「近接信管でも私を仕留められないの!?素人ばっかり!!」
そう言いながら、コックピットから色々と警報音が聞こえてくるのは気のせいだろうか……。
気のせいと思いたい。
「あぁもう!この警報音ウルサいわね!」
スイッチをいくつか操作する音が聞こえ、警報音が止む。
「積み荷さん方!もうすぐ到着よ!ヘリボーンの準備を!」
その声に、部隊の隊長と思われる青年が復活した。
「よし!全員、銃に弾をこめろ!」
機関員達は、マガジンをM4に取り付けた。
そして、装填する。
「お、やってるやってる」
先行したAH-64Dが、攻撃を行い、ヘリボーン予定地点の敵を殲滅。
更に、OH-58Dが一度攻撃を行った後、乗組員がヘリボーンで先行して上陸。
ヘリボーン地点を確保する。
「ヘリボーン地点に到着。さぁ行ってきなさい!」
「よし、ヘリボーンだ!後がつっかえてる。素早く降りろ!」
機関員はスムーズに、そして恐ろしいほど素早くロープを使って降りていく。
上陸した機関員達は、先行した部隊と共同して侵攻していく。
「後はお前達だ!さあ早く!」
「……僕達にロープはいらん。飛び降りるからな」
そう霞は一言。
今までのグダグダぶりが嘘のようにスッと立ち上がり、そのままヘリの出入り口から躊躇いなく飛び降りた。
「愚妹、いつまでも眠っているつもりですか。行きますよ」
「あいたぁー!」
舞が涼の頭をひっぱたく。
少々力が強かったのだろう。あまりの痛さに絶叫した。
「だらしない」
「えっ、ちょっと姉さん?ちょ、ま、いや……」
ズリズリと涼を引きずって、ヘリの出入り口へ。
「さて、行きましょう」
「姉さん?ちょっ……」
「レッツゴーです」
舞はそう言うと、涼をポイッとヘリの外に放り出した。
「きゃああああぁぁぁぁ……」
とても女の子らしい声を上げて、涼は落っこちていった。
「では、私もお先に」
舞も、華麗に飛び降りていった。
「……やっぱ、俺達と違うのか……?」
コントみたいなやり取りを見ていた機関員の青年は、呆然としてそう呟くのだった。
このあと、なかなか降りない事にキレたパイロットが、機体を傾けて青年を落っことすと言う出来事が人知れず起こったのだった。