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惚れ薬ぱにっく! (前)

やっぱり、こういうのあった方がいいよね。



カーテンを締め切り、薄暗い室内。

なにやら変な臭いが充満していた。

その臭いの発生源の部屋の中心には、人一人が入れるぐらいの鍋がドンと置かれていた。

そして、その鍋に入っている緑色の液体を、目元に隈を作っている少女がかき混ぜていた。


「フッフッフ、桃地家の小娘に一歩先をやられたですが……これが完成したら、一発逆転サヨナラ満塁ホームランなのです」


少女は、ボコッボコッと音を立てて煮えたぎる液体に、黒こげになったトカゲ、赤い蛍光色を放つ謎の液体を投入した。

すると、緑色だったドロドロの液体が、瞬く間に変色しピンク色となった。


「ここまでは秘術書通りです。後は……」


おもむろに少女が取り出したのは、爆裂玉(小)。

その爆裂玉に火を付け、煮えたぎる鍋の中に放り込んだ。


―ドン!―


衝撃と共に、鍋から火柱が一瞬だけ上がった。

火柱が上がった後、少女はそぉ〜っと鍋を覗き込む。


鍋に煮えたぎっていた液体は、あの一瞬で蒸発したのか、きれいさっぱりなくなっていた。

代わりにあるのはピンク色の謎の粉末。

その粉末は、鍋の底や側面にこびり付いていた。


「完璧です」


少女はその粉末を丹念にスプーンで剥ぎ取る。

剥ぎ取って得られた粉末はそれ程多くなく、その粉末は薬包紙に丁寧に包まれた。


「フッフッフ、これで霞さんをメロメロに……桃地家の小娘に吠え面をかかしてやるです!」


少女、鷹山 桜の高笑いが朝焼けの霧瀬市に響き渡った。





「起立、礼」


午前の授業がすべて終わった。

これから昼休みだ。

すでに、教室から駆け出し、血で血を洗う戦場へ向かう者、平和にお弁当を囲み出す者と別れている。

しかし、霞は机に突っ伏して、ピクリとも動かない。爆睡している。


「霞く〜ん」


「お〜い、霞〜」


鳴海と東が霞に呼びかけるが反応が――


ビクン!!


「――いっ!」


「――ひっ!」


霞が突然痙攣したのに驚く。


「寝ている時にいきなり痙攣する人っているよね」


近くで様子を見ていた加奈が頬杖をつきながら言った。


「霞く〜ん、起きなよ〜。死なないで〜」


「……うっ、ん〜〜。昼飯〜〜」


のっそりと起き上がる。

しかし、視点は定まっていない。


「昼飯……今日、ない」


バタッ……


霞は再び机に突っ伏した。

お腹の虫が鳴きまくっている。


「学食行けばいいじゃねえか」


「……財布、忘れた。お金…ない…」


かなり声が絶え絶えだ。


「……そんなお腹減ってるの?」


「あぁ、昨日の晩から食べていない……」


「えっ、なんで?」


「……色々あるんだよ」


本当は修行と称して、携帯食料しか食卓に出てこないのだ。

高校生にとっては厳しいものだ。


「じゃ、じゃあさ」


鳴海がモジモジと頬を朱く染める。

なんだか言いにくそうだ。


「わ、私のおべん――」


「かっすみさーん!!」


バーンと音を立て、教室のドアが開き、元気な声が響いた。

その声に、鳴海の声がかき消された。


桜が教室にやってきたのだ。


「鷹山さん!?今頃学校に登校ですか!?」


クラス委員長の女の子が色々と言っているが、桜は完全無視。

霞に向かっていった。


「霞さん!お弁当作ってきました!」


これが、後に騒動の原因になるのだった。





場所は変わって屋上。

霞、東、鳴海、朱里、桜といったメンツで昼食タイム。


「おぉ、なかなか立派だな」


それが桜のお弁当を見た霞の第一声だ。

二段の重箱みたいなお弁当箱。

唐揚げ、煮物、ミニハンバーグ、サラダ、おにぎり……etc

色とりどり様々な料理が詰められている。


「さぁ、どうぞ!」


「分けてくれるのはありがたいが、本人より先に箸をつけるのはちょっとな」


「いえ、私は気にしません!さぁ!」


「いや、でもな……」


「別に薬なんて入ってません。さぁ!」


「じゃあ俺が――」


東が唐揚げを掴もうとしたら、次の瞬間には桜に裏拳を顔面に喰らい、吹き飛ばされていた。

手で食べ物を掴むのはよくない。


「さぁ!どうぞ!何なら私が食べさせてあげます」


「いや……それはちょっと」


「はい、あ〜〜〜ん」


霞の前に唐揚げが差し出された。

口の近くで停滞している。

これは口を開いてくださいという合図なのか?

恥ずかしいことこの上ない。

人に見られているのも原因か……?


「あ〜〜〜ん」


「……いや、ちょっと」


そこで、朱里と鳴海の堪忍袋の緒が切れた。

といっても表面上はなにも変わらない。

ただ、心の中でかなり般若的なことになっているのだ。


――シュパン!


何やら愉快な音を立て、桜が握る箸が真っ二つになっていた。

勿論、唐揚げは落っこちてしまっている。

勿体無い。


「……朱里さん!なにするですか!?」


「いえ、別になにもしてませんよ?」


「嘘です!証拠もあります!」


そう言って、桜が指さした先には、見事にコンクリートの壁に突き刺さった手裏剣が一つ。


「あらあら、最近は手裏剣も飛んでくるような物騒な社会になってるんですねぇ〜」


「んな訳ないです!バカにしてるですか!?」


「どうでしょう?桜さんの、語尾に『です』を付けるという喋りをバカっぽく思いはしますけど」


「ムキィィィィ!!」


戦いのコングが鳴った。

朱里VS桜のキャットファイトが繰り広げられる。


飛ぶ苦無、煌めく手裏剣、火花を散らす忍び刀、火のついた爆裂玉……etc

かなりデンジャラスな事になっている。


当の原因である霞は、我関せずで桜から貰ったお弁当を食べているし、鳴海は面白そうに喧嘩の光景を観ているし、東は未だに気絶している。


…………あれ?


「うむぅ……少し変な味がする気がするな……。なにか入っていたか……?」


本人より先に手をつけるのはどうとか言っていたくせに、霞はちゃっかり食べ始めている。


……いや、問題はそこではない。


「……うむ…?」


霞は自らの体の異変に気が付いた。

体がジワジワと暑くなり、頭がクラクラと重みを感じ始めているのだ。


何やら霞の様子がおかしいと気が付いた鳴海が声をかける。


「霞くん。どうかした?」


「いや、何か体がおかしくって――ウッ!」


「霞くん!」


ふらりと体を揺らしたかと思うと、そのまま倒れ込んでしまった。



頭が痛い。

ジンジンと二日酔いのような鈍痛を頭部に感じる。

といっても霞は高校生。

勿論未成年でお酒は飲んだことがない。

二日酔いなどわかるはずがない。


(くそ、何があった?)


心の中で毒吐きながら、頭を抱えて体を起こす。


(ここは……保健室か)


パイプベッド。そしてその周囲を白いカーテンが囲んでいる。

直ぐに、この場所が保健室と認識できた。


「……です!…………ません!」


「……なのです!……に………です!」


「……くん……だね」


「……か!この………が!」


カーテンの向こう側から何やら言い争う声。

内容までは聞き取れないが、かなりヒートアップしている。

まだ、聴覚がしっかりしていないようだった。


「……惚れ薬……!」


(うむ?)


霞の鍛えられた聴覚が、不穏な言葉を聞いた。


(……まだ耳が馬鹿になってるな。聞き間違いだ)


ブンブンと左右に頭を振る。

そして意識を聴覚に集中させ、周囲の声を聞き取り始めた。


「くぅ……皆さんしつこいです。私が霞さんに惚れ薬を使ったのですから、私が責任をとるのです!」


「そんなの駄目!霞くんとは付き合いが長いから、私が――」


「いえ、許嫁の私の責務ですので手出しは結構です」


声からして、桜、鳴海、朱里の三人だ。

三人の会話から、霞は自分に惚れ薬を盛られた事を知った。

しかし、分からないこともあった。

それは惚れ薬の発動条件。

何をすれば相手が惚れるかである。

家に帰れば解毒薬ぐらいは作れるが、その帰路で発動なんぞしたら大変なことになりそうだ。


(薬を服用して、最初に見た異性……そんな発動条件じゃないことを祈りたいな)


しかし、そんな希望は儚く散ることになる。


「霞さんには、最初に私を見てもらうのです!」


桜の高らかな声に、霞は愕然とした。

どうやら、発動条件は『服用後、最初に見た異性』みたいだ。

実際は、"最初に見た人"なのかもしれないが、惚れ薬とは異性を自分に惚れさせる物であるので、同性には発動しないように作られているものだ。


(さて、どうしたものか……)


腕を組み、霞は悩み始めるが、外野ではまだ、女三人の言い争いが行われていた。

このままでは、いつか武器が飛び交う事態になるだろう。


(まったく、忌々しき事態じゃないか)


無い知恵を絞り、霞は頭をひねる。

実際に、頭を捻ったりしてみるが、それで打開策が思いつくはずもない。

そうこうする内に、遂に外野では戦闘が……という訳でなく、なぜか静まり返っていた。


(……なんだ、どうかしたか?)


その時、カーテンの外に人の気配がした。


「……カスミさん。起きましたか……?」


「霞くん?」


(しまった……気付かれた!?)


いきなりの事に、霞は動揺した。

思わず、少しばかり動いてしまい、ベットが軋む音をたててしまった。


「起きてますね。入らせていただきます」


「いやいやいや!少し待て!しばし待て!早まるんじゃない!?」


そんな霞の叫びも虚しく、無情にもカーテンが開かれる。

それと同時に、霞は目を瞑らざるおえなかった。


「霞くん。なんで目を瞑っているの?さぁ、目を開けて私を見て?」


いつになく優しい声で鳴海は霞を諭す。


「無理。断じて目を開けません」


「ほら、怖くないから」


「いや、そう言う問題じゃないし」


「怖くな〜い、怖くな〜い」


むしろ怖い。

笑顔のまま、鳴海は霞の目を実力行使で開けようとしている。


「痛い痛い!?やめてくれ!」


「私の心も痛いの!さぁ、目を開けなさい!」


「意味が分からん!?」


そんな危機の中、霞の味方が現れた。


「やめてください。カスミさんが痛がっています!」


朱里だった。

朱里は霞から鳴海を引き剥がすと、さりげなく霞の横に陣取る。


「大丈夫ですか、カスミさん」


「あぁ、大丈夫。それより、"惚れ薬"とはどういうことだ?」


「……お聞きになっていましたか。どうやら、鷹山の小娘がお弁当に盛っていたようです」


朱里はさりげなく桜に視線を送る。

それに気付いた桜は頬を膨らまして膨れっ面となる。

霞は伺い知ることができないが。


「……解毒は?」


「今は手元に解毒薬はありません。それ以前に、解毒薬を調合できません」


「ハ?なぜ?」


「材料の中に、既に絶滅した植物が必要でして――」


その言葉を聞いた瞬間、霞は頭がクラッとした。

まさに絶望的。

何とかなるであろう解毒薬作りの希望がここで潰えるとは……。

新しく調合し直して解毒薬を作るにしても、時間がかかる。

舞ならできるかもしれないが、現在は家の地下にある舞のラボにて、プルトニウムの研究に勤しんでいるはずだ。

携帯は圏外だし、内線電話は絶対に取らないし……連絡しようがない。


「……カスミさん。大丈夫ですよ。きっと何とかなります」


「朱里さん……」


朱里の励ましに、霞は胸に熱いものを感じた。


「目を開けて、私を見てください。それですべてが丸く収まります」


「…………」


ブルータス、お前もか!

胸の熱いものは急速に引いていった。


「なに抜け駆け使用としてるですか!?」


「そうですよ!」


「私は許嫁何です!早い者勝ちですよ!」


「そんなの関係ないです!」


ワァワァギャーギャーキーキー!


女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。

この隙に、霞は保健室からの脱出を試みる。

目を瞑ったまま、感覚を研ぎ澄まし、気配と忍者の勘で飛び出す。

言い争う三人の頭上を飛び越えて着地。

そのまま、窓があるだろう方向にダイブした。


カシャァァァァン


窓ガラスが割れる音と同時に、三人が慌て出す声を聞く。

保健室は一階なので、さほど高くはない。接地と共に、クルリと回り衝撃を吸収、そのまま一気に姿を眩ました。

霞の姿を見失った三人は慌てる。


「逃げた、逃げちゃったです!」


「とにかく、早く見つけないと」


「こんな油売ってる場合じゃありません!」


朱里達が、保健室から出ようとしたとき、タイミングよく扉が開いた。


「……お前ら」


静かな怒りを携える白衣の女性がそこに立っていた。

そう、彼女こそこの部屋の"主"である。


「「「セ、センセ……」」」


思わず三人は後ずさる。


「ガラス、割ったのは誰だ?」


「「「…………」」」


皆が沈黙する。

割った張本人は、もうここにはいない。


「ほぅ、答えられないと……」


「……ち、違うのです」


「何が違う、鷹山」


「えと、割ったのは……コイツです!」


そう言って桜は朱里を指差す。

指差された朱里は手と頭を振り、自分でないとアピール。

そして、横の人物を指差す。


「わたしぃ!?」


鳴海が素っ頓狂な声を上げる。


「……わ、私じゃない!た、鷹山さんが!」


「違うです!桃地の小娘が!」


「小娘とはなんです!」


再び火花を散らす三人。しかし、戦闘までには至らなかった。

突如感じた冷たい殺気に一斉に後ろを向いた。


「テメェら」


……ユラリ………


そこには、白衣を着た修羅がいた。修羅は不気味に三人に近づく。

あまりの恐怖に腰を抜かして動けない。

あんなに火花を散らし、険悪な感じだったのに、今や三人は寄り添って震えている。


「お・し・お・き・ネ・☆」


可愛らしく言ったつもりらしいが、それは三人の恐怖を助長するのに十分だった。

なぜか独りでに保健室の扉が閉まり、鍵がかかる。

窓ガラスが割れているので、完全ではないが密室の完成だ。

保健室に三人の悲鳴が響き渡ると共に、恐怖の時間が始まった。

ども、月見です。

とりあえず、周囲が落ち着き始めましたので、筆をとることにしました。

といっても遅い更新になると思います。

ではでは、年内中にまた……。

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