下剋上日和
お久しぶりです。
ちまちまと進めて出来ましたので投稿です。
なお、これは例外的な出来事です。
あと、危険!期待するな!
「なにやってるんだ?」
自宅に帰ってきた霞の第一声はこうだった。
唯一の憩いの場となりつつある学校屋上で、こりゃまた幾度と無く出現しだした黒井 夏先輩、通称ナッツ先輩をことごとく言葉で弄りたおし、日頃のストレスを解消し、気分が晴れている霞の心に一気に暗雲が立ち込めた。
「あら、霞お帰りー」
「おや、帰ってきたのか」
「あ〜…、ただいま」
霞は疑念が籠もった声で言う。
視線はダイニングテーブルの物にいっている。
「……それは何だ?」
霞の指差した物、ダイニングテーブルの上に散らばっている……
「旅行パンフレットよ」
語尾にハートが付きそうな感じで母親が言った。
(年を考えろよ……)
ウインクまでセットで少々無理が感じられた。
「北海道、沖縄、オーストラリアにフランス?サイパンにハワイまであるじゃないか」
国内、国外様々のパンフレットがある。
その一つ一つを霞の両親はニコニコワクワクといった様子で見比べている。
「スイス・オーストリアの旅もいいわね。リヒテンシュタイン公国にも言ってみたかったのよね」
「イタリアもいいな。バチカン市国の教会の地下倉庫に予言書があるらしい。なにせ、ヨハネ・パウロ二世が内容を見て卒倒したとか、内容公開を求めてハイジャックが起こったりした代物らしい。興味あるし……忍び込まないか?」
「いいわね。その話ならきいたことあるわ。第一次世界大戦と第二次世界大戦のこと書かれてたんでしょ?で、最後の予言が謎ってやつ」
「そうそう。噂じゃ、第三次世界大戦とか人類の最後とかって言うやつ……なんの予言だったかな?」
「なんだったかしら?」
(知らねぇよ!)
内心、コアな話の内容についていけず、霞はイライラしていた。
「で、父さん達は旅行にでも行くのか?」
「そうじゃなきゃ、旅行パンフレットなんぞ見ん」
「…………」
このクソ親父……。
殴り倒したくなる衝動を抑えるが、拳だけは握っていた。
「ウチにそんな金はないだろ……」
「金ならある。心配ない」
どこにだよ。
霧島家は中堅家庭、簡単に海外旅行なんぞ行けるわけがない。
「お前のバイト代だ」
「ふざけるな」
握りしめていた拳を、ダイニングテーブルに叩きつける。
「どういうことだ。納得いく説明を求める」
「まぁ待て。落ち着け」
落ち着けるか。
霞の静かなる怒りのボルテージが上がっていく。
「答えによっては、それ相応の対応をする」
「ふん、返り討ちだ」
確かに、今の霞では父親に適わないだろう。
「とにかく、どういうことだ」
「簡単だ。お前の本来入るバイト代のちょっとを、機関に言ってちょろまかしただけだ」
何という事でしょう。
勤め先がグルだったのです。
しかし、霞には気になるところがあった。
「"ちょっと"とはいくらのことだ?」
「……二万」
「本当は?」
「五万」
「と思わせて?」
「十万」
「のつもりが?」
「その二倍」
つまり、二十万ということだ。
「僕のバイト代の五分の四じゃないか!どこがちょっとだよ」
どうやら、霞は二十五万をバイトで稼いだらしい。
命がかかっているのを考えると安く思える。
「高校生でそんな大金持たせられないわ。あんたなら五万で十分すぎるでしょ?」
「だからって何でそっちが勝手に使うんだよ!貯金すればいいじゃないか!将来の為に!」
「金は使うものだ」
「それに今回は、霞が私達に"日頃のお礼"という感じでねぇ」
「何でだよ!!」
霞の叫びも虚しく、両親は嬉々としてパンフレットを見始めた。
そんな両親を見て、霞は思う。
――これは、下克上しかない!
忍者の社会は、絶対的な実力主義。
これは、霧島家にも当てはまる。
トップが父さん。その下に母さん、そして霞。
だが、ナンバー2とナンバー3には圧倒的な差が存在した。
つまり、霞は両親には勝てない。そう思っていた。
実際、中学の時に一度下克上を仕掛けたことがあった。
当時は反抗期ということもあって、よく周りが見えていなかったのだろう。
実力差なんて関係なかった。
結果を言えば、全治一カ月。見事にボコボコにされた。
それ以降、反抗期はなくなった。我が家の恐怖政治で。
しかし、今回は違う。
あの時よりも実力は確実に上がっている。実戦だって経験した。
確かに経験と実力では差があるだろう。
だが、今回は心意気が違う!想いが違う!
前回のしょうもない反抗心からではない!
理不尽で意味不明な圧政に苦しむ人が立ち上がる感じ。
そう、革命だ!これは革命なのだ!
この霧島家に革命を起こすべく、僕は立ち上がるのだ!
拳を握り締め、霞は強く決意した。
「――いざ」
スッと、袖から苦無を取り出した。
「勝負!」
戦いの火蓋が切って落とされた。
○
「のおぅっ!?」
恐ろしいスピードで飛来した鎖分銅。
それを、寸前の所で何とか避ける。
先制を母さんにとられた。
回避で横に体勢を崩した霞は、その状態のまま、手に持った苦無を放つ。
しかし、それは当たる事無く、鎖分銅の鎖に弾かれてしまう。
体勢を崩したままの霞は、そのまま床に手をつき、側転をしながら手の力のみでジャンプする。
「ていっ」
空中で無数の手裏剣を放つ。
だがそれも、鎖分銅を高速回転させる守りを破る事ができない。
むしろ、全て弾き返した後に、攻撃をしてくる。
「ハァ!」
霞は、鎖分銅の攻撃を苦無で何とか防ぐ。
しかし、攻撃はこれだけではなかった。
一つ、二つ、三つ、四つ……
四つの鎖分銅が、霞の両手両足に絡み付いた。
「しまっ――!」
――ドガ!
空中から床に叩きつけられる。
肺の空気が一度に押し出された。
「カハッ……!」
更に、追い討ちをかけるごとく、霞の上からリビングにあったソファーが降ってくる。
「グフッ……」
流石に、ソファーを上から落とされると辛い。
霞は大ダメージを受けた。
(ソファーとかって……嘘だろ……)
もはや、戦闘継続は不可能だった。
霞は、頭を何とか動かし、母さんの方を見た。
沢山の鎖分銅の鎖を持ち、こちらを見て笑っている。
「まだまだね♪」
そんな母さんの楽しそうな声を聞いて、霞の意識はなくなった。
戦闘時間・28秒。
○
その後――
「ほら、さっさとしろ」
「分かってるよ父さん」
霞は部屋を片づけている。
壁に刺さった苦無や手裏剣を引き抜き、ソファーを元に戻し、床を直した。
「まだまだヒヨッコだな、霞」
「悪かったね」
父さんの言葉にムッとしながらも、霞は手裏剣を引き抜いていた。
「だが、仕方がないことだ。父さんも霞ぐらいの時はよくしたものだ」
「父さんも?」
「あぁ、一度も勝てた試しはないがな」
「…………」
「だが、それで強くなっていくんだぞ」
「……今の社会、強くなったとこで意味ない」
霞は黙々と手裏剣を引き抜いていく。
なんでこんなに投げてしまったかのだろう。
「そりゃ、そうだが……いや、いつか良かったと思うときがくる」
「そうかな」
「あぁ、絶対に」
その自信がどこから来るのか分からない。
自身の経験……なのかもしれない。
(まっ、いいけどね)
霞は、ただひたすら片付けを進めるのだった。
皆様、お久しぶりです。月見 岳です。
休止中にかかわらず、投稿です。これは、休止してなんじゃないかと思う今日。
一応、報告しておきます。
最近の不景気ということで、副業の本格化はとりあえず早めに切り上げることにいたしました。
いやぁ、タイミングが悪かった。損失はありませんが、得もなし。引き返せる内に引き返す。臆病風に吹かれました。
ということで、近いうちに休止状態をやめる予定です。
まぁ、更新はなかなかできないでしょうが。(本業の学生が忙しい)
では、また近いうちに……。