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忍三家の娘たち

ハッハッハ、やっちまったぜ〜!

……ごめんなさい。


殴り込みから三日後だった。

その日、霞は銀行から出て来た。

顔は少しゆるんでいる。

けして、銀行強盗や金庫破りをして大金をせしめたからではない。

ただ単に、先の任務の報酬が入金されたからだ。

事実、霞の視線は銀行の預金通帳に注がれ、その上にやついている。


「フフフッ……これで我が懐の冬に春がやって来る」


霞の頭ではお札が舞い、更に欲しい物へと変換される。


「ゲームに本、そういやあのゲームのサントラ買わないと……」


その時、ふと霞は気が付いた。


――あれ?入金少なくないか……?


ふと浮かぶ疑問に霞は頭をひねる。

しかし、それほど長くは続かなかった。


――まぁ、いいか。


霞は深く考えない人間だった。





――おや?


懐が暖かくなった霞が繁華街を歩いていた時だった。

霞はある人影を見つけた。

黒のツインテールがヒョコヒョコし、身長通りの童顔、そして吊り目。


――先輩じゃないか。


黒井 夏だった。

キョロキョロと繁華街を不審な行動をしている。

まるで人目を気にしているようだ。


「何だ、あれは……?」


先輩をあれ扱いとは、敬いが全くない。


夏は周囲の様子を確認すると、路地に繋がる道に入っていく。


――なんか匂うな……。ついて行くか?


霞が動きだそうとした時だった。


「カスミさん!」


霞の真横に朱里が突然現れた。


「なんだ!?いきなりどうした?」


「ポニーテールでちっこくて吊り目の女の人見ませんでした?」


ハアハアと息が切れている。

何故か分からないが急いでいるようだ。


「……もしかして、黒井 夏とかいう先輩か?」


「知ってるんですか!?」


「ウオッ!」


朱里はグイッと霞に顔を近づけた。

ちょっと顔が近すぎる。

しかし、朱里は気にせずまくし立てる。


「何故知ってるんですか!?」


「いやまぁ……会って話したことあるし」


「いつ!どこで!なぜ!」


「……。この前、学校の屋上で、何か知らんが絡んできたから」


適当に返した霞だが、嘘は吐いていない。


「……黒井家もすでに接触してきてましたか……」


「どうした?」


「いえ……なにも、本当になにも……」


まるで自分に言い聞かせるように頷いた。


「……では、私は急ぎますので」


何故か覚悟を決めたような顔をして、シュッと消えた。

霞は朱里の様子に少し違和感を抱いた。


「追いかけてみるか……」


霞はポツリと呟いた後、すでに霞の姿は消えていた。



霧瀬市で一番高い建物の屋上……

本来ならば人が入れない場所であるが、そこには一人の少女がいた。

特徴的な黒のツインテール、言わずもがな黒井 夏だ。

風にツインテールをなびかせ、腕を組んで立っている。

霞が見かけてそれ程時間が過ぎていないのだが、どうやって瞬時に移動したのだろうか……。


「……来たわね」


そう呟く。

三秒後、背後に忍装束の朱里が現れた。


「黒井……夏…」


鋭く細められた朱里の目が夏を睨みつける。


「そんなに睨まないで。君と戦うつもりはないよ」


「それは私も同じです」


双方に沈黙が支配する。

しかし、その沈黙は長くは続かなかった。


「みつけたぁー!!」


上空から女の子の声がした。

見ると空にはハングライダーみたいな翼を付けた少女が飛んでいた。


「なにあれ?」


「あの破天荒な道具……鷹山家のもの?」


少女は空中で翼を折りたたみ、クルクルと回転して降りてきた。

シュタと音を立て着地した少女は緑色の忍装束を身にまとっていた。


「黒井家に桃地家の人ですね」


「そう言うあなたは鷹山 桜ですね」


朱里の言葉で分かった新事実。

鷹山 桜が忍者だったとは誰が予想できたでしょう!(何を今更だが)


「なななっ!何故それを!?」


「いや、分かるでしょ」


夏がさらりと言った。


「あああ、あなたは、くくくろ、黒井 夏ですね !」


桜は言葉を詰まらせながらも、ビシィと夏を指差した。


「そうだけど」


ハウッ!


そんな声をあげ、体を仰け反った桜。

二人は意味が分からず、リアクションについて行けない。


「何故正体がバレても冷静なのです!?」


「……別に、隠してないし」


ハウッ!


再び同じリアクション。


「じゃじゃぁ、そこの忍者は桃地――」


「そうですが……?」


「ハウッ!セリフの途中に言われたです!」


ヨヨヨと泣き崩れる。

まぁ、嘘無きだが。


気が付けば、この屋上に忍三家の各家の人間が揃っていた。


「で、あなた達は私に何か用があるわけ?」


吊り目を更に吊り上げ、イライラと腕を組んで、夏はかなりご立腹の様子だ。


「そうでした。黒井 夏……いや、あえて黒井先輩と呼びま……どうしました?」


「ううん、"先輩"って言ってくれるんだね」


突如、目尻に涙を浮かべた夏に朱里は怪訝な表情をした。


「……で、黒井先輩に聞きたいことがあります」


「なに?何でも聞いてよ。君はいい人だ」


「……では、黒井先輩。あなたは霧島家の血を狙っているのですか?」


「……まぁ、そう言われたね」


「そして、そのためにこちらに来た、ということですね……鷹山家も」


「そうです」


桜は頷いたけど、夏は頷かなかった。

横に首を振っている。


「私は昔からこの街に住んでいるわよ?」


「えっ?しかし二年生に転校してきた黒井というのは……」


「ああ、それはお兄ちゃんだね」


『お兄ちゃん!?』


朱里と桜の声がハモった。

驚愕で二人とも目を点にしている。


「そっ、お兄ちゃん。私達、二卵生双生児なのよ」


「はやぁ〜〜、これまたベタな設定だねぇ」


桜が感嘆の声を出すが、何がベタで設定なのか、意味が分からない。


「もしかして、黒井先輩は分家の人間ですか?」


「いや、一応本家よ?まぁ、煙たがられているれどね」


苦笑いをして、夏は自嘲的に笑った。


「まっ、気楽に生活してるよ」


「……なんか、スミマセン」


「いいよ、気にされるような事じゃないし」


ちょっと重苦しい空気になる。

そんな空気に慣れていないのか、桜はオロオロとするだけだ。

そんな空気に堪えかねて、桜が声を出そうとした時だった。


ヒュウウウ!!


何かが空を切る音。

そして……


「うわぁぁぁぁ!!」


叫び声がした。

三人が声の方向を見ると、そこには闇色の忍装束に身を包み、必死の様子で逃げる忍者……霞と、箒に乗って、霞を追っかける魔法使い……加奈がこちらに向かってきていた。

どうやら、箒が空を切る音みたいだ。


「せっかく探索結界にヒットしたんだ!今度は逃がさないよぉ!」


「ええい!しつこいんだよ!お前はストーカーか!?」


「いい加減捕まりなさい!」


「嫌だ!」


加奈は箒に跨り、杖を振り回して、霞に向かって火の玉や雷を乱射している。

そんな攻撃を避けながら、霞は丸い球体を落とした。

その瞬間、あたりを眩い閃光が起こった。

更に霞は煙幕を張り、加奈の追跡を振り切った。

建物と建物を伝い、跳んできた霞は三人の建物に着地した。


「おお朱里、こんなところに……」


そして、霞は首を傾げた。


「ナッツじゃないか」


「黒井 夏!そう呼ぶのは止めて!先輩だよ」


「あ〜〜、はいはい」


夏に対してかなりなおざりだ。不憫。


「それに、鷹山さんも……まさか」


「忍者です」


「あ、やっぱり?その格好見ればね」


そして霞は気が付いた。


「ナッツはどうなんだ?」


夏は忍装束では今現在はない。


「これでも一応忍者よ。ついでにナッツは止めて」


「……善処するナッツ」


「…………。善処する気なしね」


それは置いといて


「ちょっと逃げるのに手伝って――」


「御用だぁ!!」


ドガァン!


霞が立っていた所に稲妻が落ちた。

寸前の所で霞は避けたが、かなりの冷や汗ものだ。

霞が振り向くと、そこには箒に乗って宙に浮かぶ加奈の姿があった。


「てめぇ!殺す気か!?」


「大丈夫よ、多分」


「多分かよ!」


「ウルサいウルサァァい!潔く捕まりなさぁーい!」


加奈の杖から青く光った糸みたいなものが、勢い良く霞に向かう。


「忍具・白色煙玉!」


ボンボンボン。


そう音を立て、霞の周りで破裂した煙玉。

霞の周囲を白い煙が充満して、霞の姿を見えなくした。


「無駄よ!この魔法にはホーミング機能を付加しているの!見えなくしたところで意味はないわ!」


程なくして、煙幕の中から霞が飛び出してきた。

更にそのあとを追って、魔法の糸が追撃をかける。


「ちっ!」


霞は舌打ちをすると、


ピィィィィィィィ!


指笛を鳴らした。


五秒もたたない内に、加奈の背後に茶色の柴犬が現れた。


「シバ吉ぃぃ!ヤレェ!」


霞の叫びにシバ吉はワンと一声吠え、シュッと消えた。


バキィィ!!


音をたて、加奈が跨っている箒が真っ二つに折れた。


「なっ!」


目の前で突然弾け飛んだ箒に目を見開いて驚く。そして……


「いぃぃやあぁぁぁぁぁおぉぉぉちぃぃぃ」


るぅぅぅぅぅ………


ドップラー効果で声を響かせて、加奈は空から落ちていった。


「……落ちちまったな」


霞は、屋上の縁からそっと下を覗き込む。

落っこちたであろう場所には、凄惨たる状態で血だまりに……なっていなかった。

地面に激突したという感じではなかった。

第一、加奈がいない。


「ちょっと……煙たいじゃない」


「そうです。いきなりすぎですぅ……」


「いたたたた……腰打ちました」


忍三家の三人娘が煙幕の中から現れた。


「……魔女さんは?」


「落っこちた」


「死んだですか?」


「大丈夫だ。ゴキブリみたいにシブトいみたいだ」


イマイチ分からないらしく、桜は首を傾げていた。


「しかし、シバ吉。助かったよ」


霞はシバ吉の頭を撫でる。

シバ吉は嬉しそうに、くぅ〜んと鳴いた。

シバ吉の頭を撫でていると、はたと気が付いた。


「……僕はなにしてたんだっけ?」


霞は首を傾げた。

朱里を追跡しようとしたら、逆に加奈に追いかけられる羽目になって、すっかり自分が何をしたかったのか忘れてしまったようだ。


「ところでさ。三人は何やってたんだ?こんな所で」


「……色々ですよ?」


「女には秘密があるのですよ」


「そうですか……」


そこで霞は『うん?』と首を傾げた。


「ナッツはどこに消えた?」


三人と一匹は屋上を見渡したが、そこには夏は居なかった。



場所は変わって魔法協会日本支部。

一応、首都東京の霞ヶ関に置いてある。

ただ、上空ではあるが……。

土地が抉れた感じで浮いており、そこに荘厳な石造りの建物が建っている。

そんな目立つ物が日本の首都、しかも中心に浮かんでいたら騒ぎになるのだが、空間分離結界により、別空間に存在している。

しかも、不可視結界と不可聴結界、更にステルス結界がその浮遊している土地を張られているため、空間分離結界が解けて空間が戻ったとしても、表社会の一般人に見つかることはない。レーダーに映ることもない。


「あ〜〜っ!また逃げられた!」


ジタバタと加奈は暴れていた。

協会の建物内、テラスみたいになってあるところでだ。


「空間転移しなかったら死ぬとこだったんでしょ?」


加奈と同じくらいの魔女が紅茶片手に言った。

彼女は加奈の友人だ。

加奈の愚痴をにこやかに聞いて上げている。


「そうだけどねぇ〜〜。あぁ、私の箒がぁ〜〜」


「加奈の箒、速くて高機動なので有名だったよね?名前なんだっけ?」


「スワロー。ツバメよ」


「あぁ、ヤクルト」


「…………」


「冗談よ」


一口、紅茶を口に含んだ。


「でも、よく監視者を追いかけれるよね。普通、怖くて逃げるよ?」


「そう?別に怖くないわよ?」


その時、テラスに一人の女性がやって来た。


「加奈さん」


「なにって……ゲッ!」


「ゲッとはなんですかゲッとは……」


不満そうな顔をする女性。

加奈は女性を見た途端、頬が引きつった。


「ともかく、一緒に来てもらいますよ?結界を張らず、街で暴走しただけでなく、魔法を乱射した事についてお説教ですよ?」


ニヤリ


女性は黒く笑った。

その笑顔に加奈は震え上がった。


「いや……いぃぃぃやぁぁぁ」


加奈は女性に引きずられて、テラスから消えていった。

一人になった加奈の友人は、優雅に紅茶を飲んでいた。



更に場所は変わって黒井家。

木造一軒家で周りには木が鬱蒼と茂っている。

おかげで昼でもうす暗い。

洗濯物が乾きにくそうだ。


「時に夏、首尾はどうだ」


「う〜ん、イマイチだね」


「そうか、こちらはもう少しで準備が出来る」


「そう……」


夏は悲壮な表情をする。

夏の兄は、丁度顔の部分が影になっていて、表情を伺い知れ無い。


「もう、どうすることも出来ないの?」


「ここまで来たんだ。やるしかない」


「でも……!」


「仕方ないんだ、分かってるだろ」


「でも、間違ってるよ。絶対……」


兄妹の間に沈黙が支配した。


「もう、やるしかない。やるしかないんだよ」


夏の兄はそう言うと、立ち上がって部屋から出て行った。


「間違ってる……私はそう思うよ」


残された夏は、小さな声で、しかし自信をもって言った。

家の周りの木々が、風でざわめいた。

静かに、それでも確かに何かが起ころうとしていた。

どうも、月見岳です。お久です。

更新が遅れ、すみませんでした。

しかも、そんなに面白くないという醜態をさらしてしまいました。

ここ最近、自身のテンションがガタ落ちしていたことと、モチベーションが下がっていたこともあり、こういう事態になりました。

今はなんとか持ち直しつつあります。

さあ、これから終わりに向かって頑張ろう。


気まぐれで書いた短編がありますのでそちらもよろしく。

短編シリーズとして、続くかもしれません。

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