殴りこみですか?
コメディーほぼナシ。
その連絡は唐突にやって来た。
それは休みの日、珍しく霞が、自らの部屋で苦無や手裏剣とかを磨いたりと忍び道具の整備をしていたときだった。
悲しいくらい滅多になることがない携帯が鳴ったのだ。
携帯のサブ液晶には見たことのない数列が並んでいた。
「……もしもし」
《あ、霧島君?》
暗部機関副長、樫野 美里だった。
どうして自分の携帯番号を知っているのか気になったが、そこは深く勘ぐらないことにした。
どうせ、ろくなことではない。
「で、用件はなんだ」
《うん、ちょっとね。電話では言えないから、本部まで来てくれない》
「嫌だ、ことわ――」
《そう言うことだから、必ず来なさい。これ、命令》
美里は言うことを言うと、勝手に通話を切ってしまった。
どうやら、隣町まで行かなければならないようだ。
○
「で、用件とはなんだ……」
霞は少々疲れた様子だった。
それも仕方がない。
前回は車で来たが、今回は突っ走ってきたのだ。
屋根を跳べば、道路関係なく一直線で目的地に行け、車なんかより早くに到着するのだが、アップダウンが激しく、非常に疲れてしまうのだ。
「人手が足りない……というか戦力がダウンしてね〜」
「はぁ?戦力?」
霞は意味が分からないと言った感じだ。
事実、分かっていなかった。
「ということで任務依頼」
「拒否だ。木野がいるだろ」
「残念ながら別件でてんてこ舞いよ」
「……クッ、それ以前に何故急に戦力がダウンした?機関員のストライキか?」
「まだそれならいいんだけどね〜」
美里は苦笑した。
「機関最強と謳われた機関員が、ある任務で生死不明。同行した機関員も……。おかげでかなりの戦力ダウンなのよね〜」
軽い感じで言っているが、かなり重い出来事だ。
「ということで、コッチは手伝ってもらわないとかなりヤバいのよ」
「……むぅ、仕方がない」
「それじゃ、任務お願いね〜」
「で、任務とはなんだ」
「そうね、一言で言えば"殴り込み"よ」
「……ハ?」
霞は素っ頓狂な声をあげた。
「殴り込みだと?相手はヤクザなのか?」
「そんな裏社会の組織ではないわ。闇社会の一組織、その名も"魔法協会"」
「……魔法?」
また、素っ頓狂な声をあげた。
訳が分からない事ばかりだ。
「魔法協会は、ウチの機関と協力関係にあるんだけどね……」
「なら何故殴り込みなんか……」
「最近、魔法協会の内部争いが酷くてね。おかげでコッチは大迷惑。いい加減にしてほしいからね」
「なら、僕でなくても……」
「さすがに機関員を使ったら色々不味いのよ。それに比べて、霧島君は忍者。闇社会の監視者でしょ?」
「……忍者が闇社会の監視者とか初めて聞いたぞ」
「あらそう?でも、事実よ」
まぁ、監視者云々は後で聞くとしてだ。
「とにかく、どこに殴り込むんだ?」
○
そこは森だった。
様々な樹木が立ち並び、ちょっとした秘境になっていた。
そんな秘境な森のある一区画。
そこは周囲に比べると開かれており、その真ん中には大きな切り株があった。
そして、その切り株を囲んで黒い三角帽に黒いマント姿の明らかに怪しい人達がいた。
「どういうこと!」
「だから言ったでしょ!」
なにやら揉めていた。
切り株を間に怒鳴り合っている。
「魔法協会はこのままじゃ駄目なの!闇社会が不安定な今こそ、魔法協会を正しい地位するチャンス!」
「ふざけないで!そんな事許せるわけないでしょ!」
「機関の眷属になるつもりか!?このままでは魔法協会は発展しない!」
「だからと言って、機関に喧嘩を売っても犬死にするだけよ!?」
周囲に剣呑な雰囲気が流れる。
二つのグループが切り株を挟んで睨み合う。
まさに、一触即発といった感じだ。
そんな光景を木の上からこっそりと見つめる人影。
闇に溶けそうな色の忍装束を身にまとい、覆面で顔と頭部を覆い隠し、唯一鋭い目が伺える。
もちろん、霞である。
「格好はまさに魔法使いだな」
霞は小声で呟いた。
そういう霞もまさに"忍者!"という格好なのだが……。
「とりあえず、もう少し近づいてみるか」
その瞬間、霞の姿がフッと静かに消えた。
次に霞が現れたのは、睨み合う集団に一番近い木の上だった。
「お、ここからならよく分かる。一触即発だな」
眼下には様々な杖を構え、睨み合う人達。
武力衝突は避けられそうにない雰囲気だ。
そして……
「どうやら、実力行使にでないといけないようね」
「へぇ〜〜、奇遇だね。私もそう思ってたの」
切り株の上にあった一枚の枯れ葉が舞った。
それがゴングになった。
「空を切り裂け、真空の刃!ウインドエッジ!」
「闇を貫け、裁きのイカズチ!ジャジメントサンダー!」
真空の刃とイカズチがぶつかり合った。
それを機に、周囲にいた魔法使いを巻き込んでの魔法合戦になった。
「すべてを燃やせ、破滅の業火!フレアバースト」
「すべてを凪払え、氾濫の水流!ウォータースプラッシュ!」
「光よ、我に集え!ライトニングアロー!」
――その他云々。
様々な呪文が飛び交い、火、水、風、雷や光がしっちゃかめっちゃかに飛び交っている。
(これ、殴り込みの前に自分たちで潰れないか?)
霞がそう思った時だった。
潜んでいた木の幹に、炎系の魔法が直撃、大きな衝撃と共に燃え盛った。
「やばっ」
霞は木から飛び降りた。
しかし、そこは魔法合戦の真っ只中。
巻き込まれるのは必然だった。
「うぉ!……ちょっ、まて」
霞は忍者刀『月影』を引き抜き、飛んでくる超常現象をさばいた。
「くそ、いい加減にしろ……!」
霞は月影を鞘に納め、代わりに両手の指の間に、爆裂玉(小)を構え……
「奥義・火龍炎獄」
――投げた。
周囲に爆裂玉が散らばり――
ドン、ドドドドン、ドドン!!!
広範囲で爆発した。
「な、何事?」
「この爆発は一体?」
「何があったんだ……」
吹き飛ばされた魔法使い達が起き上がりだす。
そして、魔法使い達が見たのは、忍装束を身にまとい、覆面をした忍者。
「……闇の監視者だ」
誰かが呟いた。
「お前ら、いい加減しろよ……な?」
凄みをきかせ、霞は言った。
魔法使いの数人は震え上がった。
しかし、急進派の魔法使いの数人は立ち上がり――
「くそ、全員、集中砲火!」
霞に杖を向け、発射する。
「……フッ」
霞に当たる前に姿が消える。
『幻影!?』
「残念、残像だ」
その瞬間、光が一閃、二閃、三閃。
魔法使い達がバタバタバタと目を鳴門にして倒れた。
「ふん、後衛が接近戦で前衛に勝てるかっての」
それはゲームでの話だ。
実際には、魔法使いたちもそれ相応の接近戦闘能力を持っている。
「たあぁぁぁ!」
霞の背後から一際長い杖に風を纏わした魔法使いが、斬りかかってきた。
「ハァ!」
「きゃあ!!」
霞の裏拳を顔面に喰らい吹き飛んだ。
甲高い声を上げる魔法使い。
どうやら女性のようだ。
「まったく、後ろからの攻撃で声をあげてくる奴がいるかっての」
女性でも容赦はしないようだ。
「次は……誰だ?」
鋭い目が魔法使いを睨みつける。
再び、震え上がる魔法使い達。
「もう……いい加減にしような?」
『は、はい〜〜〜!』
一目散に魔法使いたちは逃げて行った。
ある者は走り、ある者は箒に乗っかって空へ逃げてゆく。
「なんだ、逃げたか」
ちょっとホッとしたように言った。
無駄な戦いは誰だって避けたい。
「ねぇ」
「うん?」
全員消えたに見えたが、一人だけ残っていた。
……あれ?何故か見覚えがあるんだが?
「あなた、誰かに似ている感じがするのよね〜」
「気のせいじゃないか……」
とかいいながら、気のせいでないと霞は思っていた。
しかし、相手をどこで見たか思い出せない。
「……あ」
「どうかしたの?」
「い、いや…」
思い出した。
思い出してしまった。
よりにもよってクラスメイト。
そして朱里の友人。
――楠木 加奈。
まさか、魔法使いだったのか……。
「う〜〜〜ん」
マジマジと霞の顔を覗き込む加奈。
コラ、顔が近い。
「……覆面とっていい?」
「いやいやいや、駄目だから!そんなことされたら死ぬから!!」
「大げさね。死にはしないわよ」
そう言いながら、霞の覆面に手をのばす。
「うおぉぉい!!」
ズザザザザッと霞は後ずさりをした。
「大丈夫大丈夫」
じわりじわり、手をワキワキさせて加奈は霞に近づいていく。
何か、色々とヤバくなっている。
「クッ……さよなら御免!!」
霞は、自分の足元に球体をぶつけた。
すると、白い煙が周りに立ち込めた。
煙幕だ。
「けほ、けほ、風よ、流れろ」
加奈が呪文を唱えると、そよ風が吹き、煙幕をはらした。
そこには霞の姿はなく、ただの草が生えるだけだった。
「……逃がしちゃった」
「すご〜〜い加奈。忍者さんを追い込むなんて」
木の陰から、ひょっこりと少女が顔を出した。
もちろん、三角帽にマントは標準装備だ。
「別に追い込んでないわ。誰かに似ていたから確かようとしてただけ」
「でも、忍者さんは逃げちゃったよ?」
「そうなのよね〜〜」
加奈はハァと溜め息をついた。
「一体誰に似てたのかしら?」
その問いに答える人はいなかった。
どうも、月見岳でございます。
そして、グダグダとごめんなさい。
予想に反したストーリーになっちゃって……。
ま、結果オーライということで。
次回はコメディー多めにやります。
そして、次回でネタが尽きます。
このままでは、シリアス一直線で最終回に向かってしまいますので、ネタが思いつくまで番外編2をしたいと思います。
そこで、番外編2の主人公は誰がいいか応募します。
期間は8月23日までにします。
メッセージか、感想評価でお願いします。
応募がない場合は、……どうしよう?