先輩を敬え……!
文章の構成がちょこっと変わっています。
……うむ、何故こんな事態に陥っている?
どこで判断を間違えた……。
なんとも言えない雰囲気。
その元凶たる朱里、桜、鳴海の三人は静かに睨み合い、視線の交点に火花が散っているように見える。
「……はぁ」
本当になんでこんな事態になっちまったんだ。
溜め息を吐くのも仕方がない。
霞は現実逃避を兼ねて、何故こうなってしまったのか思い返すことにした。
○
「いーよいーよ座りなよ」
加奈が勝手にそんな事を言っちゃってくれた。
「どうもです」
桜は静かに座った。
可愛らしい風呂敷に包まれた物体を取り出し、風呂敷を解いた。
そこから現れたのは楕円形の弁当箱。
「あれ、鷹山さんはお弁当派?」
箸を喰わえたまま加奈が尋ねる。
コラ、行儀が悪いぞ。
「はい、自分で作った方が何かと安全なんです」
チラッと朱里を桜は見た。
「…安全?」
つまりは、"誰かに毒を盛られないため"と言うことだ。
そして、"誰か"というのは朱里のこととして桜は意識している。
どうも、朱里のことを知っているみたいだ。
朱里の知り合い……いや、同業者だから知っているというところか……。
つまり、鷹山 桜は忍者ということか。
……いや、ただ無駄に用心深い人なのかも知れない。決めつけるのは良くない。
第一、"毒を盛られないため"とかいう理由じゃないかもしれない。
どうも職業柄、こういう考えになってしまうな。
全く、自分が嫌になる。
「改めて挨拶を……鷹山 桜です。よろしくです霞さん」
「……あぁ、よろしく」
……ん?何故名前を知っているんだ?
「鷹山さん、なんで霞の名前知っているんだ?」
東が尋ねた。
そして、それが引き金にもなった。
「それは霞さんの花嫁候補だからです」
『なんですとぉー!!』
全員が叫んだ。
食堂ということも忘れて……。
食堂にいる生徒の視線がこちらに向く。
どうもすみません、お騒がせして……。
「どどど、どういう事霞くん!?返答次第では――」
「落ち着け鳴海。僕にもサッパリだ。だからそのエアガンを仕舞いなさい」
「大丈夫、死なない程度に痛めつけるだけだから」
「撃つことが前提か!?」
「駄目だよ鳴海先輩、撃つなら人がいないとこで兄さんに気付かれないでやらないと」
「涼!?なに言ってやがる!後で覚えてろ!」
「……悪役の捨て台詞みたいですよ、兄上」
「クッ…、舞までも……。まさに四面楚歌とはこのことか……」
霞の周りは敵ばかり、味方はなし。
そして霞は思った。
(何故こんな事態に陥ったんだ……)
朱里、桜、鳴海が睨み合い、涼、舞が霞に冷たい視線を向けている。
東に関しては、なにか呪詛のようなことをブツブツと呟き、ヤバいことになっている。
こんな東を見られたら、女子の人気が下がりそうだ。
そんな事、霞にとっては知ったこっちやない。
例え、東の人気が下がったとしても本人が悪いのだ。
霞にとって今の重要事項は、『自らの保身』と『現状打開』である。
まず、『現状打開』から試みた。
「まぁ、皆。落ち着いて話し合おうじゃないか」
『なに』
「……いえ、すみません」
凄い迫力で睨み付けられた。
呆気なく白旗を振る。
霞は『現状打開』を諦め、『自らの保身』に全力を尽くすことにした。
自らの保身……今回はこの食堂からの脱出である。
朱里、桜、鳴海に関しては睨み合っているし、東は呪いを呟き続けている。
気配さえ消してしまえば気付かれずに脱出出来るだろう。
しかし、問題は舞、涼のが妹達。
こちらに冷たい視線を浴びせ続けている。
まず、目をこちらから逸らさなければならない。
目くらましに閃光玉、煙玉は使うことは出来ない。
どうしたものか……?
――そうだ!ここはトイレに行くふりをして……
「……ちょっとトイレに」
立ち上がり、脱出を試みる。
「……兄上、進行方向にはトイレはありませんが?」
あえなく失敗。
あまりに不甲斐ない凡ミスに、思わず舌打ちをする。
さて、どう切り抜けるか……。
そのままの体勢で止まったまま、頭を回転させて考える。
――考える
――――考える
――――――考える
――あぁ、面倒だ!!
『強行突破』
これで決まり!
さぁ実行!!
「あ、逃げた」
涼がそう呟いた時には、すでに霞の姿は消えていた。
この後、霞が消えたことに気付いたのは30秒後のことである
○
霞は校舎屋上にある貯水タンクの上で寝っ転がっていた。
今日は始業式だけで、昼までで終わっているのだから、とっと帰っても良かったのだが、帰ってもする事がない。
……というか、あそこから逃げ出したことから、家に帰ってロクなことがないと思う。
仕方なく、空を見上げて黄昏ていたときだった。
―キィ―
そんな音を立てて、屋上の鉄のドアが開いた。
誰か来たのだろう。
特に気にすることもないので、そのまま黄昏る。
やっぱり、真っ昼間の外は暑いな……。
ここで眠ったら干物になっちまうな。
「おい」
どうせ今頃、僕を探して皆彷徨いているんだろうな。
「おいと言っている」
そう言えば、『暗部機関』の人達、元気にしているだろうか?
あの後、数回バイトしただけだしな……。
「知って無視しているのか?」
用があれば携帯にかけるとか言ってたけど、僕の携帯番号教えてないんだが……。
「オイ!」
……チッ、外野がウルサいな。
気付いていたさ、初めっから。
「なんだ」
「なんだじゃない!何故無視する」
「決まってる。厄介ごとに関わりたくないからだ」
「それではまるで、私が厄介者のようではないか!?」
大声を出したからなのか、肩でハアハアと息をする少女が立っていた。
「……ところで、お前誰だ?」
「黒井 夏」
「黒いナッツ?それは食べたくないな」
「く・ろ・い・ナ・ツ!黒井 夏よ!」
「……冗談だ」
全く、冗談が通じない人間みたいだな。
「で、ナッツは何しにここに来たんだ?」
「ナッツ!?なんだそれは!?」
「あだ名だが……気に入らんか?」
「気に入らん!!」
チッ!贅沢な奴め。
「……ならいいや、それで何しに来たんだ?くそ暑い屋上なんかに」
「……特に理由はない。何となく、といったところか」
「何となくね〜…」
何となくで普通、屋上なんかに来るか?
……いや、人のこと言えないな、僕も。
「……気付いていないと思うが、私は一応君の先輩に当たるんだぞ?」
「いや、そんな事は知っているが……」
「気付いていたのか!?」
何を驚いているんだこの先輩は……。
ネクタイとかスカーフの色を見れば、学年なんぞ一発で分かるだろうに。
「なら君は、私が先輩だと分かっていて、その口の聞き方なのか!?」
……あぁ、つまり生意気だということですか。
「別に、1つだけ年上だからって何も変わらないでしょう、先輩」
"先輩"というとこを、思いっきり皮肉を込めて言う。
なにせ"黒井 夏"たる人物は先輩には見えない。
なんか、涼並みに小さいし、童顔だし、ツインテールだし……って最後のは関係ないか。
「1つだけでも年上だ!先輩なんだ!敬意を込めろ!」
「あ〜〜、はいはい」
「なんだその目は!面倒くさい奴を見るような感じで見るな!」
「分かったから……用がないならどこかに消えてくれ」
「……くそっ!」
見た目に似合わない口調で先輩は言うと、しばらく寝転がった僕を見下げていたが、諦めたらしく、貯水タンクから降りて屋上の鉄のドアを開く。
「覚えてろ!霧島 霞!」
先輩はそう捨て台詞をついて屋上より撤退した。
ちょっと弄りすぎたか?
「……ん?」
ふと気が付いた。
あの先輩、何故僕の名前を知っている?
僕は自己紹介をした記憶はないぞ。
「……まぁいいか」
僕は気にしないことにした。
気にしたらきりがない。
分からないものは分からないものなのだ。
僕は再び黄昏ることにした。
その後、適当な時間になったので帰宅した僕を待っていたのは、我が妹達の冷たい視線と異常なまでに少ない夕飯だった。
ちなみに、夕飯を作ったのは朱里で、夕飯の少なさに対する僕の苦情はすべて無視されてしまった。
何故だ……!
月見 岳です。 テストは……まぁ乗り切った。 さて、とりあえずこれ以上キャラは増えないと思います。 気が付けば、予定にないキャラとかもいますが……結果オーライで(なにが?) そのうち、正式に人気キャラ投票でもしてみようかな? さぁ、次回更新も頑張ろぉー!(夏バテにてカラ元気)