番外編・涼、散々な一日(後編)
……誰か、助けてください。
いや、ホントに……。
出来れば、兄さんが再び現れて、この恐慌たる現状を打破、解決していただくのが喜ばしいのたけど……。
そんな確率は万にも一つないから諦めるしかない。
今頃、兄さんは映画を観てるんだろな……独りで。
とにかく、ボクを助けて欲しい。
現状は急を要する。
……誰か、
…………誰か、
誰か、あの三人を止めてください!!
○
ボクたちは今、霧上川の河川敷にいる。
ボクの前には、朱里さんと鳴海先輩が睨み合っている。
しかも、朱里さんは紫色の忍び装束、鳴海先輩は巫女装束と、誰かに見られたらある意味デンジャラスだったりする。
二人とも、殺る気満々でフル装備だ。
その間で姉さんはレフリーのごとく立っている。
だけど、顔は嬉々としている。
何がそんなに楽しいのだろう?
そして、ボクにはもうこの人たちを止める手段がない……。
「それでは両人、準備はいいですね」
「モチロン、この為にありったけの弾を持ってきたんだから」
「その弾、一発でも当たるでしょうかね」
「簡単よ」
両者の視線が火花を散らしている。
「……では、始め!」
姉さんのかけ声と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。
……迷惑なことに。
○
―シュポポポポポポポポポ―
そんな気が抜ける音をさせて火を噴く(?)M4A1。
「そんなもの、当たりません!」
着弾の瞬間、朱里さんの姿がフッと消えた。
弾はそのまま進み、地面に着弾。
―ズドドドドドドドドドドン―
爆発した。
……え、爆発!?
ただのエアガンじゃない?
「ちょっと、違法改造は銃刀法違反ですよ?」
「大丈夫、改造してるのは弾だから」
「どうやったら、そんな威力が出るのですかね?」
「フフフ、それは企業秘密」
そう言いながら、鳴海先輩は発砲する。
不意打ち的な攻撃にもかかわらず、朱里さんは弾幕を巧みにすり抜けて、鳴海先輩に接近する。
「ハァッ!!」
うまく、懐に入り込んだ朱里さんは気合いの籠もった渾身の右ストレートを放つ。
鳴海先輩は左斜め後ろに跳び、直撃は何とか避けたのだが、巫女服の右横腹部分が無残に破れていた。
「どうしました?思ったよりあっけないですね」
ニヤリと笑う朱里さん。
朱里さんの右手……いつの間に装着したのか、鋭い刃が三つ付いているツメを装着している。
そして、そのツメには巫女服の破れた布切れが付いていた。
「……なかなかやるね」
鳴海先輩はそう言うと、持っていたM4A1をガシャという音を立て地面に落とした。
そして、腰につけている大きなホルスターから、MP7を二丁取り出し両手で構え、
「もう、手加減しないよ!」
発砲した。
下手な鉄砲、数打てば当たるを狙っているような乱射っぷりだ。
至る所で着弾による爆発が起こっている。
これでは迂闊に朱里さんも近づけない。
「……くっ!」
「ホラホラ、どうしたの!」
朱里さんは飛んでくる弾と、爆発によって飛んできた石とかを避けるのに精一杯だ。
しかし、朱里さんはニヤリと笑い、
「その余裕、もうすぐなくなりますよ」
「……なにを!」
その瞬間、二丁のMP7が弾切れを起こした。
この時を好機と見た朱里さんが一気に鳴海先輩に再接近する。
「……私もなめられたものね」
鳴海先輩がポツリと呟く。
刹那――
鳴海先輩はマガジンキャッチを押し、空になった弾倉を落としつつ、MP7を持った両手を下げる。
すると、巫女服の両袖から弾倉がスッと出てきて、見事にMP7に納まった。
まるで、映画を見ているみたい。そんな鮮やかさだった。
そして……
「……両者そこまで」
戦いは終わった。
結果は両者引き分け。
あの後、鳴海先輩は朱里さんの眉間に銃口を突きつけたのだが、朱里さんも鳴海先輩の首にツメを突きつけていた。
そこで姉さんのコールがかかったのだ。
結局、結果はあまりにも呆気なかったけど……。
「フフフ……」
「ハハハ……」
「!?」
いきなり笑い出す朱里さんと鳴海先輩。
両者とも武器を相手に突きつけたままだ。
異様な雰囲気が立ち込める。
「まだ…まだですよ」
「そう、まだまだ終わるのは早いね」
ヤバい!二人共暴走している!?
姉さんもその事に気づいたらしく、止めに入った。
「ちょ……二人共、もう勝負は終わりました!」
「巻き込まれたくなかったら、舞ちゃんは引っ込んでて」
「そうだよ、妹クン」
「しかし……!」
姉さんだけでは厳しいものがあったので、ボクも支援に行くことにした。
えっ?ボクが今まで何をしていたかって?
誰か来ないか見張ってたんだよ。
「ねぇ、二人とももうやめようよ」
「それは無理だよ弟クン」
「そうです。どちらか倒れるまでしなければならないのです」
……ダメだ。
全く止める気なしだよ。
しかも、さっきよりピリピリしている。
いつ、戦いが再開してもおかしくない状況だ。
「……愚妹、一旦この場から離れ――」
姉さんが言っている時、一陣の風が吹いた。
それが開始の合図となった。
鳴海先輩が引き金を引き、朱里さんの姿がフッと消える。
そして、朱里さんは数メートル離れた場所に姿を現した。
ニヤリと笑っている。
その顔を見て、鳴海先輩は何か気付いたらしく、上方にMP7を構え……
「何してますか愚妹!早く逃げなさい!」
「えっ?」
姉さんは既に安全圏に逃げていた。
そして、上の方を指でさしている。
その方向には……
「なっ!爆裂玉!?」
沢山の爆裂玉がこちらに降ってきていた。
鳴海先輩は爆裂玉を撃って爆発させまくっているが、何せ数が多すぎる。
……って、ボクも巻き込まれるじゃないか!?
早く逃げないと!
視界の端で鳴海先輩が横っ飛びをしたように見えた。
その次の瞬間、近くに落ちた爆裂玉が爆発し、その爆風で吹き飛ばされた。
受け身をすることができずに、地面に落ちたのは痛かった。
しかもそのあと、地面に埋まっていたと思われる金ダライが、爆発で吹き飛ばされ、ボクに直撃した。
それが影響したのか、ボクはそこで意識を失った。
でも、意識を失う直前、
「お前ら、何やってんだ!!」
兄さんの声が聞こえた。
○
「…う……ん」
何だろう?
何だか温かい……。
ボクは一体何をして……?
「おっ、目が覚めたか?」
「……兄さん?」
目を開けると、兄さんの顔が近くにあったのはビックリした。
そして、すぐにボクが兄さんに背負われている事に気がついた。
でも……なぜ?
確か服を買いに行くとかで無理矢理連れて行かされて、鳴海先輩と兄さんに出会って、朱里さんと鳴海先輩がしょうぶして……あ、そうだった。
ボク、金ダライの直撃を受けて気絶しちゃったんだ。
でも……
「ねぇ、何で兄さんがボクを背負ってるの?それに皆は?」
そう、何故あの場に居なかった兄さんがボクを背負っているのか?
そして、いたはずの朱里さんや姉さん、鳴海先輩がいない。
ボクには分からない。
「あぁ、三人ならこっぴどく叱ってから帰した。多分、家でも怒られているんじゃないか?」
「じゃあ、ボクが背負われているのは?」
「それは、涼が気絶していたからな。気がつくまで待ってたんだけど、日が沈んできたしね。仕方なくさ」
確かに、今は夕焼け空だ。
太陽が沈みかけている。
「それより……気がついたなら自分で歩いてくれないか?」
「えっ、あ……もう少し、このままで」
「おいおい、勘弁してくれよ」
兄さんはそう言いながらも、ボクを背負って歩く。
なんだかんだで、やっぱり兄さんは優しい。
「ところで、涼たちは一体何しに繁華街にきたんだ」
「あっ」
すっかり、当初の目的を忘れていた。
ボクの女らしい服を買うはずだったんだ。
「その様子じゃ、目的を達成することができなかったみたいだな」
「うん、服を買いに来たんだ。女の子っぽいもの」
「なんだ、嫌じゃなかったのか?」
「まあ、そうだけどね」
「あ〜〜、舞か」
さすが兄さん、察しがいい。
「しかしだな、涼はいいのかそれで?」
「えっ?なにが?」
「女らしい格好をすることだ。嫌なんだろ?」
「そうだけど……」
「だったら無理することないさ。別に女らしくなくてもいいじゃないか、ボーイッシュって感じで」
「だけど、母さんが……」
「大丈夫、こうなったのは母さん達が悪いんだから、母さん達にとやかく言う権利はないよ。もし、母さんが『女らしくしろ』って言っても、僕が涼を守ってあげるよ」
「兄さん…」
なにか、胸にグッとくるものがあった。感動してしまった。
兄さんがそこまで言ってくれるなんて……!
今日一日、色々と散々な事があったけど、最後に今までのことがチャラになるくらい、ボクにとっては嬉しいことだ。
ボクは小声で兄さんに礼を言う。
「……ありがとうね」
「ん?なんか言ったか」
「なにも〜」
「そうか…?」
ニコニコと笑うボクを、兄さんは不思議そうに頭の傾げたのだった。
結局、ボクは兄さんに家まで背負われて帰った。
途中、兄さんの背中の温もりが、夏場ということもあり、暑苦しいと思ってしまったのは秘密だ。
できれば、秋か冬の時期がよかった。
どうも、月見岳です。
まず始めに、ごめんなさい。新キャラの登場を忘れていました。
本当は中編で出す予定だったんですが、仕方なく本編からで出します。
しかも二人!
登場予定は未定ですが!(ダメじゃん)
まあ、この番外編で色々とやりたいことがあったんですが、労力と時間の問題で端折りました。
またそのうち、番外編があるかもしれません。