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番外編・涼、散々な一日(後編)


……誰か、助けてください。


いや、ホントに……。

出来れば、兄さんが再び現れて、この恐慌たる現状を打破、解決していただくのが喜ばしいのたけど……。


そんな確率は万にも一つないから諦めるしかない。

今頃、兄さんは映画を観てるんだろな……独りで。


とにかく、ボクを助けて欲しい。

現状は急を要する。


……誰か、


…………誰か、


誰か、あの三人を止めてください!!





ボクたちは今、霧上川の河川敷にいる。

ボクの前には、朱里さんと鳴海先輩が睨み合っている。

しかも、朱里さんは紫色の忍び装束、鳴海先輩は巫女装束と、誰かに見られたらある意味デンジャラスだったりする。

二人とも、殺る気満々でフル装備だ。


その間で姉さんはレフリーのごとく立っている。

だけど、顔は嬉々としている。


何がそんなに楽しいのだろう?


そして、ボクにはもうこの人たちを止める手段がない……。


「それでは両人、準備はいいですね」


「モチロン、この為にありったけの弾を持ってきたんだから」


「その弾、一発でも当たるでしょうかね」


「簡単よ」


両者の視線が火花を散らしている。


「……では、始め!」


姉さんのかけ声と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。


……迷惑なことに。





―シュポポポポポポポポポ―


そんな気が抜ける音をさせて火を噴く(?)M4A1。


「そんなもの、当たりません!」


着弾の瞬間、朱里さんの姿がフッと消えた。

弾はそのまま進み、地面に着弾。


―ズドドドドドドドドドドン―


爆発した。


……え、爆発!?

ただのエアガンじゃない?


「ちょっと、違法改造は銃刀法違反ですよ?」


「大丈夫、改造してるのは弾だから」


「どうやったら、そんな威力が出るのですかね?」


「フフフ、それは企業秘密」


そう言いながら、鳴海先輩は発砲する。

不意打ち的な攻撃にもかかわらず、朱里さんは弾幕を巧みにすり抜けて、鳴海先輩に接近する。


「ハァッ!!」


うまく、懐に入り込んだ朱里さんは気合いの籠もった渾身の右ストレートを放つ。

鳴海先輩は左斜め後ろに跳び、直撃は何とか避けたのだが、巫女服の右横腹部分が無残に破れていた。


「どうしました?思ったよりあっけないですね」


ニヤリと笑う朱里さん。

朱里さんの右手……いつの間に装着したのか、鋭い刃が三つ付いているツメを装着している。

そして、そのツメには巫女服の破れた布切れが付いていた。


「……なかなかやるね」


鳴海先輩はそう言うと、持っていたM4A1をガシャという音を立て地面に落とした。

そして、腰につけている大きなホルスターから、MP7を二丁取り出し両手で構え、


「もう、手加減しないよ!」


発砲した。

下手な鉄砲、数打てば当たるを狙っているような乱射っぷりだ。

至る所で着弾による爆発が起こっている。

これでは迂闊に朱里さんも近づけない。


「……くっ!」


「ホラホラ、どうしたの!」


朱里さんは飛んでくる弾と、爆発によって飛んできた石とかを避けるのに精一杯だ。

しかし、朱里さんはニヤリと笑い、


「その余裕、もうすぐなくなりますよ」


「……なにを!」


その瞬間、二丁のMP7が弾切れを起こした。

この時を好機と見た朱里さんが一気に鳴海先輩に再接近する。


「……私もなめられたものね」


鳴海先輩がポツリと呟く。


刹那――


鳴海先輩はマガジンキャッチを押し、空になった弾倉を落としつつ、MP7を持った両手を下げる。

すると、巫女服の両袖から弾倉がスッと出てきて、見事にMP7に納まった。


まるで、映画を見ているみたい。そんな鮮やかさだった。


そして……


「……両者そこまで」


戦いは終わった。

結果は両者引き分け。


あの後、鳴海先輩は朱里さんの眉間に銃口を突きつけたのだが、朱里さんも鳴海先輩の首にツメを突きつけていた。

そこで姉さんのコールがかかったのだ。

結局、結果はあまりにも呆気なかったけど……。


「フフフ……」


「ハハハ……」


「!?」


いきなり笑い出す朱里さんと鳴海先輩。

両者とも武器を相手に突きつけたままだ。

異様な雰囲気が立ち込める。


「まだ…まだですよ」


「そう、まだまだ終わるのは早いね」


ヤバい!二人共暴走している!?

姉さんもその事に気づいたらしく、止めに入った。


「ちょ……二人共、もう勝負は終わりました!」


「巻き込まれたくなかったら、舞ちゃんは引っ込んでて」


「そうだよ、妹クン」


「しかし……!」


姉さんだけでは厳しいものがあったので、ボクも支援に行くことにした。

えっ?ボクが今まで何をしていたかって?

誰か来ないか見張ってたんだよ。


「ねぇ、二人とももうやめようよ」


「それは無理だよ弟クン」


「そうです。どちらか倒れるまでしなければならないのです」


……ダメだ。

全く止める気なしだよ。

しかも、さっきよりピリピリしている。

いつ、戦いが再開してもおかしくない状況だ。


「……愚妹、一旦この場から離れ――」


姉さんが言っている時、一陣の風が吹いた。

それが開始の合図となった。


鳴海先輩が引き金を引き、朱里さんの姿がフッと消える。

そして、朱里さんは数メートル離れた場所に姿を現した。

ニヤリと笑っている。


その顔を見て、鳴海先輩は何か気付いたらしく、上方にMP7を構え……


「何してますか愚妹!早く逃げなさい!」


「えっ?」


姉さんは既に安全圏に逃げていた。

そして、上の方を指でさしている。

その方向には……


「なっ!爆裂玉!?」


沢山の爆裂玉がこちらに降ってきていた。

鳴海先輩は爆裂玉を撃って爆発させまくっているが、何せ数が多すぎる。

……って、ボクも巻き込まれるじゃないか!?

早く逃げないと!


視界の端で鳴海先輩が横っ飛びをしたように見えた。

その次の瞬間、近くに落ちた爆裂玉が爆発し、その爆風で吹き飛ばされた。


受け身をすることができずに、地面に落ちたのは痛かった。

しかもそのあと、地面に埋まっていたと思われる金ダライが、爆発で吹き飛ばされ、ボクに直撃した。


それが影響したのか、ボクはそこで意識を失った。

でも、意識を失う直前、


「お前ら、何やってんだ!!」


兄さんの声が聞こえた。





「…う……ん」


何だろう?

何だか温かい……。

ボクは一体何をして……?


「おっ、目が覚めたか?」


「……兄さん?」


目を開けると、兄さんの顔が近くにあったのはビックリした。

そして、すぐにボクが兄さんに背負われている事に気がついた。

でも……なぜ?


確か服を買いに行くとかで無理矢理連れて行かされて、鳴海先輩と兄さんに出会って、朱里さんと鳴海先輩がしょうぶして……あ、そうだった。

ボク、金ダライの直撃を受けて気絶しちゃったんだ。

でも……


「ねぇ、何で兄さんがボクを背負ってるの?それに皆は?」


そう、何故あの場に居なかった兄さんがボクを背負っているのか?

そして、いたはずの朱里さんや姉さん、鳴海先輩がいない。

ボクには分からない。


「あぁ、三人ならこっぴどく叱ってから帰した。多分、家でも怒られているんじゃないか?」


「じゃあ、ボクが背負われているのは?」


「それは、涼が気絶していたからな。気がつくまで待ってたんだけど、日が沈んできたしね。仕方なくさ」


確かに、今は夕焼け空だ。

太陽が沈みかけている。


「それより……気がついたなら自分で歩いてくれないか?」


「えっ、あ……もう少し、このままで」


「おいおい、勘弁してくれよ」


兄さんはそう言いながらも、ボクを背負って歩く。

なんだかんだで、やっぱり兄さんは優しい。


「ところで、涼たちは一体何しに繁華街にきたんだ」


「あっ」


すっかり、当初の目的を忘れていた。

ボクの女らしい服を買うはずだったんだ。


「その様子じゃ、目的を達成することができなかったみたいだな」


「うん、服を買いに来たんだ。女の子っぽいもの」


「なんだ、嫌じゃなかったのか?」


「まあ、そうだけどね」


「あ〜〜、舞か」


さすが兄さん、察しがいい。


「しかしだな、涼はいいのかそれで?」


「えっ?なにが?」


「女らしい格好をすることだ。嫌なんだろ?」


「そうだけど……」


「だったら無理することないさ。別に女らしくなくてもいいじゃないか、ボーイッシュって感じで」


「だけど、母さんが……」


「大丈夫、こうなったのは母さん達が悪いんだから、母さん達にとやかく言う権利はないよ。もし、母さんが『女らしくしろ』って言っても、僕が涼を守ってあげるよ」


「兄さん…」


なにか、胸にグッとくるものがあった。感動してしまった。

兄さんがそこまで言ってくれるなんて……!

今日一日、色々と散々な事があったけど、最後に今までのことがチャラになるくらい、ボクにとっては嬉しいことだ。


ボクは小声で兄さんに礼を言う。


「……ありがとうね」


「ん?なんか言ったか」


「なにも〜」


「そうか…?」


ニコニコと笑うボクを、兄さんは不思議そうに頭の傾げたのだった。


結局、ボクは兄さんに家まで背負われて帰った。

途中、兄さんの背中の温もりが、夏場ということもあり、暑苦しいと思ってしまったのは秘密だ。

できれば、秋か冬の時期がよかった。


どうも、月見岳です。

まず始めに、ごめんなさい。新キャラの登場を忘れていました。

本当は中編で出す予定だったんですが、仕方なく本編からで出します。

しかも二人!

登場予定は未定ですが!(ダメじゃん)


まあ、この番外編で色々とやりたいことがあったんですが、労力と時間の問題で端折りました。

またそのうち、番外編があるかもしれません。

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