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職場は命懸け。

あれ……これってコメディー?

壮大に響く発砲音。

時折、罵声や爆発音が混ざって聞こえてくる。

火薬の匂いが物凄い。

そう言えば、昔に観たミリタリー映画でこんな撃ち合いのシーンがあったっけ。

確か、ソマリアが舞台で、『モガディシュの戦闘』を描いた作品だったな。


―ヒュン―


耳元を掠めていった銃弾。

僕を狙ったものではない"流れ弾"なんだろけど、もし、があった場合を思えば背筋が凍る。


こんなドンパチ戦場みたいな状況になっているのは、海外ではなく紛れもなく日本である。

……もう一度いうが日本だ。


「いつ、日本は銃社会になったんだ……」


「あ?なに言ってんだ?"この世界"じゃ当たり前のことじゃねーか」


僕の独り言を聞いていたのか、律儀に答える木野 拓也。

89式小銃を脇に構えて、いつでも撃てるようにしている。


ここで今の僕が陥っている事態を説明しよう。

あの後、雇用契約書たるものにサイン、更に血判した後、


「早速仕事よ!」


と言われ、有無を言うまもなく軍用ヘリNH90に放り込まれた。

そして、飛んでいるヘリから落っことされ、どこぞの地下施設に侵攻し、そこの守備部隊と交戦中。

こんな感じ。


「つーか、あんたたちは僕になにをしろと?」


「言ってなかったか?」


聞いてません。


「そういや、言った覚えがねぇーや」


おい。


「そんじゃまぁ、説明する。まず……」


「まず?」


「…………」


「…………」


「……スマン、忘れた」


「ちょい待てコラ。」


思わず、胸倉を掴みそうになったけど、なんとか自制することができた。


「ま、とにかくテキトーにやってくれ。俺たちの目的は施設の破壊だから」


「そんな、テキトーにって……」


……ん?施設破壊が目的?

テキトーに?


「なら、テキトーにぶっ壊していっていいのか?」


「まぁ、最終的にこの施設がぶっ壊れればいいからな。いいんじゃねぇか?」


「なら、テキトーにぶっ壊してくる。日頃の憂さ晴らしに」





「さてと……」


木野 拓也は、霞がどこかに行ったのを確認すると、おもむろに耳に取り付けている無線機を作動させた。


「全部隊、状況を報告」


数秒後、返答が返る。


《こちら1班、B地区とD地区を破壊。現在はA地区に進撃中》


《こちら3班、E地区を破壊。現在、C地区にて交戦中!》


《こちら4班!B地区にて交戦中!攻撃熾烈!》


《こちら2班、今F地区を破壊した》


「了解した。2班はこれよりB地区に行き、4班と合流して支援しろ。俺は3班に合流する。1班はそのまま進撃を続けろ。もうすぐ作戦も終わりだ、気を引き締めろ」


通信を終えると、木野は小銃を構え直し、走り始めた。





「おい、どうだ?」


「いや、こっちは大丈夫みたいだ」


黒い戦闘服とボディアーマーの二人の兵士が警戒している。

二人の兵士が所属していた部隊は、『機関』の攻撃を受け、呆気なく全滅。

彼らは直前に警戒任務で部隊を離れていたので助かったのだ。


「とにかく脱出だ。この施設はすでに堕ちた」


「確か、この先を曲がった所に、隠し通路があったはずだ。そこから脱出できる」


「よし、そこから地上に出て本部に連絡だ。奴らの襲撃時に通信室を破壊されたから、本部に連絡がされてないんだ」


二人の兵士は静かに走り出した。

気配を探り、出来るだけ足音をたてず、自らの気配を消し、しかしながら走るスピードを落とさずに。


「ここだ」


何の変哲もないただの壁。

しかし、一部だけ触ると感触が違うところがある。

兵士の一人がその部分を押し込む。

すると壁の一部が円形に開かれる。


「さあ、行くぞ」


兵士達が円形に開いた入り口に入ろうとした時だった。


「なんだ、そう言う仕掛けはどこも変わらないんだな」


『!!』


突然の声に驚き、振り向いた。

しかし、誰も見当たらない。


「どこ見てんだ。上だよ、上」


声の通りに上を見る。

そこには、時代劇でしか見かけたことのない出で立ちの人間が天井に張り付いていた。


「に、忍者?」


「大正解」


忍者の姿がフッと消える。


「君たちには恨みはない。だけど、僕の収入になってもらうよ」


それが二人の兵士が意識を失う前に聞いた声だった。





僕の前には目を鳴門にしている兵士が二人倒れている。

施設設備をぶっ壊しに行った僕なのだが、たまたまこの二人を見かけたので、こっそり後ろをついていった。

すると、逃げ出そうとしていたので、とりあえず捕まえておくことにした。

なんか、役に立つかも知れないし……。


僕は二人を簀巻きにするためにロープを取り出して巻き始める。


「ん?」


突然、二人の兵士の血色が悪くなった。

ところどころ痙攣している。

ただならぬ状態。

一体どうしたのか?

ふと見たら、二人とも首に小さな針が刺さっている。


(これは……忍び針)


僕が忍び針を取ろうとしたときだった。


「――っ!!」


微かな気配を感じ取り、後ろに跳ぶ。

すると、元いた場所に手裏剣が突き刺ささった。

それは微かな気配だった。

僕が周囲に気を張っていて、なんとか感じとれたぐらいだ。


(クソっ、同業者か!?)


心の中で悪態をつきながら、月影を引き抜く。

相手に"同業者"がいるなんて聞いていない。

内心の焦りが隠しきれない。

なぜ僕が焦っているか?

それは、この兵士たちにある。

たぶん、忍び針には即効性がある神経性の毒が塗られていたんだろう。

しかも、"同業者"の人間が使うものだ。

早く解毒薬を飲ませて上げなければならない。

ちょうど、大体のものに効く解毒薬を持っている。

舞特性の薬だから大丈夫だとは思うんだが……。


「そこ!」


斬撃・鎌鼬

真空の刃を放つ"飛ぶ"斬撃。

真空の刃が黒い二つの影を切り裂いた。


ゴトン


音を立てて落ちてきたのは真っ二つになった丸太。


「むっ、変わり身か」


思わず声に出してしまう。

気づけば、その一瞬の隙をつかれ、大量の苦無が僕にむかって放たれていた。

その攻撃を避けるため、上に跳び、さらに天井を蹴る。

そしてそのまま苦無を放ったのであろう忍者に急接近。

まだ未完成ではあるが、僕の技の中でもっとも速い斬撃を放つ。


「我流・紫電颯刃!」


――キィィィィィン!


金属と金属のぶつかった音。

涼しい音の後、ギチギチと音を立てている。


僕が狙っていた忍者の前に、忍刀を持つ忍者。

激しい鍔迫り合い。

その時に、僕は気がついたことがあった。

こいつ達とは一度戦っている、と。



「お前たち、御使いの帰りに襲ってきたやつだな」


「…………」


「無言……なら、その通りだと受け取らせてもらう!」


力で無理矢理相手の忍刀を払う。


「お前等のせいで!お前等のせいで!僕の小遣いが無くなったじゃないか!」


迫り来る大量の苦無と手裏剣を鎌鼬で凪払う。


「そのせいで、バイトしなきゃならなくなったじゃないか!絶対に許さん!」


爆裂玉を取り出し、ぶん投げた。

二人の忍者の足元に着弾、爆発を起こした。

周囲に煙が立ち込める。

そのせいで視界はゼロ。

ふつうは煙以外見えない。

だけど、僕には二人の位置が見えていた。

怒りと執念の結果かもしれない。


「これで終わりだ!」


両手に持てるありったけの爆裂玉をバラまいた。


―ドン、ドドドドォォォォン


連鎖的に爆発した。

爆風で首に巻いている布がはためく。

この時は怒りのあまり、この場所が室内で、しかも地下であるということをすっかり忘れていた。

あれだけの爆発を起こしている。

天井はすでにボロボロだ。

こうなったら何が起こるか?


―ピシッ―


「あっ」


天井に亀裂がはしる。

今になって、ここが地下だということを思い出した。


「や、ヤバいような……」


―ピシピシッ―


数秒後。

天井が崩落してきた。

さらに、土砂や岩石とかまでも崩落してくる。


「ウヒャ〜〜」


僕は虫の息の兵士達を抱え、円形の穴から脱出した。

忍者達の安否を確認してないけど……多分まだ生きてるだろう。

爆発の瞬間、忍者達の姿が消えた。

つまり、さっきの攻撃によるダメージは無い。

あのまま逃げたのだろう。

なぜ逃げたかまでは分からないけど……。



「霧島!」


前から木野が走ってきた。

その後ろからも数人が走っている。

全員が僕と同い年またはそれより下に見える。


「ん?こいつらは?」


「まぁ、捕虜ってとこだよ」


あの脱出の後、そのまま地上に出て、二人の兵士に解毒薬の飲ました。

一命は取り留めたみたいだけど、医者に見てもらった方がいいだろう。


「しかし、よく脱出できたな」


「まぁね。そこの二人が、本部に連絡するとかで脱出経路を開いた時だったからね。」


「本部に連絡だと?」


木野の表情が急に険しいものになる。


「どうした?」


「いや……"奴ら"の本部は俺たちですら把握していないんだ。もしかしたら、コイツらが何かしら知っているかもしれないなと思ってな」


「"奴ら"?一体何なんだ?それは今日のこれと関係あるのか?」


「あぁ、奴らと言うのは『黒き霧』という組織だ。今日のこの施設も『黒き霧』の実験施設だったんだ」


「『黒き霧』って組織は何なんだ?それにここは何の実験施設だったんだ?」


僕の質問に、ちょっとばかしタジタジになる木野。


「まぁ、待て。説明は帰ってからだ。とにかくヘリが来た」


確かに、ヘリの爆音が遠くから聞こえる。


「分かった。帰ったらとりあえず、『黒き霧』……だったか?その組織のことだけども教えてくれ」





黒き霧……


暗部機関のデータベースには国際的犯罪集団組織という位置付けがされてある。

暗殺などといったことから、太平洋沖での空戦などといった様々な規模で展開する。

詳しい組織の規模は不明だが、かなりの規模であると推測される。

通常戦闘員は各国の軍隊と似通った能力であるが、その上、特殊戦闘員の戦闘能力は桁違いになると報告がある。

過去に特殊戦闘員二名により、某国の一個師団が壊滅的被害を受けている。

彼らの目的、中枢、幹部など詳細は不明。

尚、調査実行中。



これが『機関』が知りうるすべての情報だ。

機関の本部に帰ってきた僕は、すぐに副長に頼んでデータベースの閲覧を許可してもらった。

そして、黒き霧の情報はこれだけ……。


まぁ、あまり関与しないでおこう。


現在、僕は父さんの運転する車の中だった。


「あっ……」


思い出したことがあった。

あの忍者のことだ。


「そう言えば父さん。今日、忍者と戦ったよ」


「なに……っ?」


車が蛇行した。

その際に、頭をドアにぶつけた。


「…ったぁ〜。ちょい父さん!」


「す、すまん。少し驚いてな……。で、忍者だって?」


「あぁ、今日僕が捕虜を捕まえた時にね」


「どこの忍者か……分かるか?」


「いや、分からないよ」


「そうか……」


父さんはそれっきり黙ってしまった。

しばらく、そのままでいたけど、ふと気づいた。


「父さん……」


「どうした?」


その時、サイレンが響いた。


『そこの黒のセダン。左に寄って止まりなさい』


「あ……」


「……遅かったか」


スピード違反だった。

どうも、月見岳です。

最近は週一の更新は不可能の状況になってきました。

とりあえず、今回で『機関・アルバイト編?』は終了です。

次回はコメディーっぽくするつもりです。

というか、これコメディーの分類でした……。

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