履歴書に特技・忍術とは書けません。
とりあえずの再開です。更新はやっぱり不定期……かと。
夏休みもお盆に入る頃。
朱里さんはお盆が過ぎるまで、実家に帰省するらしい。
例年通りなら、僕は既に学校より課された提出物を全て終わらせて、暇にしてみればいるころだ。
そして、今年も既に提出物は終わらしている。
つまり、今は何もすることもなく暇である。
暇であるのだが……今年は少し違った。
「うむぅ……」
僕は一冊の冊子を凝縮している。
タダで手に入れることができる"求人情報誌"だ。
なぜ僕が求人情報誌を見ているか?
それは理不尽にも母さんに"小遣い支給2ヶ月停止"を言い渡されたからだ。
しかも、今まで夏休みのために貯めていた資金が紛失した分の苦無、手裏剣の購入費に"強制的"に当てられた。
おかげで夏休みが半分残っている今、とても経済的に苦しい状況なのだ。
「う〜〜む」
「……兄さん、昼間に公園にいるようなサラリーマンみたいだよ」
なんか、涼が失礼なことをほざきやがったが、温厚な僕は気にしない。
……気にしない。
えぇ、怒っていないとも。
「……ひにゃ!」
持っていた求人情報誌を丸めて涼にぶん投げる。
見事に眉間にヒットした。
女の子というのが判明したからって容赦はしない。
全く、昼間に公園にいるサラリーマンに失礼じゃないか。
「うぅ、兄さん痛いよ」
「自業自得だ」
「でも、何で兄さんが求人情報誌なんて見てるの?」
「……母さんのせいさ」
まぁ、実際は僕のせい何だけど。
他人のせいにしないと気が済まない。
なんで苦無が一本3000円なんかするんだ!
「……なにがあったか知らないけど、バイト探してるんだね」
「あぁ、そうだ」
この時期、バイトの募集が多いのか少ないのかは分からないが、既に二件も面接で落ちている。
履歴書の特技の欄に『忍術』と書けないのが辛い。
忍者から忍術を無くせば、なにが残っていると言うんだ。
「バイト募集、結構あるんだね」
涼が求人情報誌をペラペラとページを捲りながら眺めている。
「でも、ほとんど接客業。兄さんには向いてないね」
「自覚してるよ」
無愛想だからね。
それが原因で面接に落とされたんだし……。
「でも兄さん、接客業以外となるとまったく見当たらないよ?」
「そうなんだよな……」
「どうするの?」
「どうするもこうするも、お手上げさ。最終手段として"新聞配達"っていう手があるけどね」
「……なんか、勤労学生って感じだね」
勤労学生……僕には似合わないな……。
「勤労学生ってキャラも、兄さんには似合わないよね」
「…………」
自分でも分かってることを言われると、無性に腹が立つ。
しかも、相手が涼となると尚更だ。
不思議だよね〜。
さて、近くにあるものは……。
……ちっ、茶菓子の瓦煎餅しかないか。
まぁ、堅いしいっか。
僕は無言で瓦煎餅を涼に投げつけた。
「ひぎゃ!」
見事、鼻の頭に命中。
少し、気分が晴れた。
○
結局、僕は今日バイトを見つけることは出来なかった。
色々と電話をしてみたけど、面接を行ってもらうことすら叶わなかった。
そんなんなら、求人なんか出すなっての!
「……どうしたんだ霞?考え事か?」
「あ、うん……ちょっとね」
今は夕食の席。
珍しく帰ってきている父さんに聞かれた。
顔に出てたかな?
「なんだ?父さんに相談してみなさい」
「…………」
「どうした?遠慮は要らない」
いえ、父さん、あなたに相談するのが心配なんです。
「兄さん、アルバイト探してるんだ」
涼!?
なに言っちゃってくれてんの!?
「あら、家計の足しにでもですって?悪いわね〜〜」
「それは断じて違う」
ここは、はっきりと言っておかなければ……。
母さんなら本当に全部ごっそり持っていきかねん。
「しかし、なぜ兄上がアルバイトを?」
「まぁ、ちょっと思わぬ出費があってね。懐が寂しいんだ」
「だけど、全部断られちゃったんだよね〜〜」
面白そうに話す涼が、無性に腹が立ったので、とりあえず、後でシめることにした。
「霞、おまえバイトしたいのか?」
「そうだけど?」
「そうか……」
缶ビール片手に、う〜〜〜むと声を出してなにやら考えている父さん。
父さんの事だ。きっとろくでもないことだろう。
僕は、そうたかをくくって、そのろくでもないことが僕に降りかかってこないように、急いでご飯を食べる。
「ごちそうさま」
さあ、部屋に避難だ!
すばやく、食器を流しに持っていき、リビングからの脱出を試みる。
「霞、ちょっと待て」
……呼び止められてしまった。
あきらめも肝心だな……。
「なに、父さん?」
「バイト……したいか?」
「そりゃ、お金いるしね。バイトはしたいよ?」
「そうか。なら、バイトしてみるか?」
「バイトするにも、採用すらされてないんだよ」
「俺の知り合いのところでだよ」
「知り合い?」
こりゃまた厄介そうなとこに思えるな。
「お前なら、大丈夫だろ」
「なにが?」
「色々だ」
……やばそうな感じがするんだが、気のせいか?
「で、どうする?」
「接客業かそのバイトは?」
「違う」
「へぇ、接客業じゃないなら兄さんやれば?」
「確かに、兄上は接客業には向きませんしね」
それはわかっているのだが、情報源が父さんってことが少し厄介なんだよな……。
大体、どんな会社でどうゆう仕事かがわからない。
怪しいことこの上ない。
ここは、慎重に――。
「時給は1500円だ」
「やらせてもらいます」
即決だった。
見事に即決してしまった。
僕自身、気がつくと父さんに頭を下げていた。
金とは恐ろしい。
「それじゃ、明日早速行こう。ちょうど、父さんも用事があったところだ」
「お願いするよ父さん」
こうして、僕のアルバイトが決まった。
さて、どんなとこだろう……。
どうも、月見岳です。
しばらくの休載、失礼しました。なんとか、再構築できそうなので再開しました。
とりあえずですけど……。